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いくら姿勢を良くしても腰痛は治らない

日本整形外科学会の調査では、日本で腰痛のある人は約3000万人と言われています。日本の人口は1億2000万くらいですから、約四分の一が腰痛持ち、という事ですね。日本は腰痛大国です。何故こんなに腰痛持ちの人が多いのか。それは日本人が子供の時から刷り込まれている、ある事に関係していると私は考えています。

私も20代の頃に仕事で腰を痛めてから二十年くらい腰痛と付き合ってきました。今は昔に比べて、殆どと言ってもいいほど腰痛は無くなりました。私が実践しているのは、なるべく「良い姿勢」をとらない、という事です。

「良い姿勢」というとどんな姿勢を思い浮かべますか? 背筋をピンと伸ばして、胸を大きく開いて、横から見たときに頭から足まで真っ直ぐになる、いわゆる「気をつけ」のような状態が「良い姿勢」だと多くの人が思っていると思います。実はこの姿勢は見栄えが良いだけで、骨格にとっては無理のある姿勢なんです。私はこの「良い姿勢」こそが日本が腰痛大国である原因だと思っています。

試しに「気をつけ」をしてみてください。10秒くらいたったら、今度は体の力を抜いてみてください。どうですか? 自然に猫背のような状態になると思います。力を抜いた姿勢=無理のない姿勢です。これが体にとって本当の意味での良い姿勢なんです。

人間の背骨はまっすぐではありません。自然な状態では、横から見たときに少しカーブしています。「気をつけ」の状態の時には、このカーブを筋肉で真っ直ぐにしています。この状態をずっと保とうとすると、背中まわりの筋肉をずっと緊張させていなくてはいけません。これはコリの原因になります。体の力を抜いて、背骨本来のカーブに沿って少し猫背の状態しておくほうが当然負担がかかりません。

猫背にはもう一つ大きなメリットがあります。歩いている時は、一歩ごとに上半身の重みが腰を圧迫しています。骨と骨の間には椎間板と呼ばれるクッション材のようなものがあり、骨に直接負担がかからないようになっています。背中を無理に真っ直ぐに伸ばしている状態だと、歩いている時の衝撃がダイレクトに伝わりやすいので、椎間板に負担がかかりやすくなります。腰痛の原因になりますし、負担がかかりすぎると椎間板ヘルニアになってしまいます。自然な猫背になっていると、歩いた時の衝撃が分散するので椎間板に負担がかかりにくくなります。

釘を想像してみてください。釘が曲がっていると、トンカチで叩いても力がうまく伝わらないので、打ち込むことはできません。釘が真っ直ぐだと、力が伝わりやすいので簡単に打ち込めます。背骨もこれと同じで、真っ直ぐに伸びていると頭や上半身の重みが腰に伝わりやすくなります。つまり腰痛の原因となるのです。

猫背になるとともに、膝を少し曲げることも大事です。膝を少し曲げると、歩くときに衝撃を吸収するサスペンションになります。硬い床を歩くより、柔らかい芝生を歩くほうがずっと楽ですよね。それと同じで、膝を少し曲げて、足自体を柔らかく使う事を意識すれば、ずっと負担が軽くなります。試しに膝を完全に真っ直ぐにして、背筋をピンと伸ばして硬い床を素足であるいてみてください。衝撃が頭まで伝わってかなりしんどいと思います。膝を曲げて猫背になればずっと楽に歩けるのがわかると思います。

建物の免震構造と同じです。免震構造では、建物の基盤と地面の間に、地震の揺れを伝わりにくくするダンパーという装置がついています。猫背になって、膝を曲げておけば、関節と筋肉がダンパーと同じように衝撃を吸収して体に負担をかけずに生活する事ができます。免震構造がない建物は、地震の揺れがダイレクトに建物に伝わるので壊れやすくなります。

猫背にして、膝を曲げる。見栄えが良いとは言えません。正しい歩き方や立ち方を調べてみると、多くの人が背筋や膝をちゃんと伸ばしましょうと言っています。その方が確かに美しく見えます。でもそれがまさに腰痛の原因なのです。「良い姿勢」なんて、実は見栄え以外には何のメリットも無いです。腰痛で悩む人に対して、多くの整体師、ヨガインストラクター等が背筋をちゃんと伸ばして良い姿勢でいるように、と勧めていますがそれでは腰痛は逆に悪化してしまいます。

何故間違った「良い姿勢」がここまで広まってしまったのでしょうか。実は日本人はもともと膝を曲げて生活していました。江戸時代の日本人は、草履で1日に30km以上歩くほど、足腰は強かったのです。正しい姿勢、正しい歩き方をしていたからだと思います。明治時代になると、日本人は西洋の生活様式を取り入れるようになります。その過程で、歩き方や立ち方も西洋人を真似するようになりました。膝を曲げているのは美しくない、という理由で日本人の立ち方は変わっていきました。

歌川広重の浮世絵。みんな膝を曲げている。

また、同じ時期に、西洋から軍隊の集団行動という概念が持ち込まれました。「気をつけ、前ならえ、右向け右」というやつです。この「気をつけ」の姿勢は、西洋人が考えるところの「良い姿勢」、つまり胸を開いて背筋を伸ばす姿勢です。つまり、膝を伸ばすのも背筋を伸ばすのも、本来は日本には無かったものです。

Racial differences in whole-body sagittal alignment between Asians and Caucasians based on international multicenter data

白人とアジア人では骨格が違います。上の画像を見ていただくと、西洋人は首の付け根が水平なのに対し、アジア人は前傾しています。つまり西洋人と同じような姿勢をする為には、日本人は筋肉を使って背骨を矯正しないとならないわけです。これでは無理が出て当然です。「良い姿勢」とは、あくまで西洋人にとっての「良い姿勢」です。我々日本人には、単に見栄えが良いだけ、体に負担をかける間違った姿勢です。しかし残念ながら、我々は子供の時から「良い姿勢」をするように社会から矯正されてきました。その結果が、腰痛大国日本です。

宮本武蔵

これが日本人の理想の姿勢です。ポイントは3つ。肩が自然に下がっている事。胸を無理に広げようとしていない事。そして首が自然に前傾している事。日本人はこれを猫背だとか、なで肩だと呼んで悪い姿勢だと思いこんでいますが、生まれ持った骨格のまま自然に立つ事が一番良いのです。シワの具合からすると膝も曲げているように思いますが、この絵からははっきりとはわかりません。

見返り美人

昔の日本人は膝が曲がっている事に美しさを感じていました。

日本舞踊。膝は必ず曲がっています。
バレエ。膝は曲げません。

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