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『煙に包まれて』


【衝撃】

 テレビ越しに映る世界貿易センタービル(WTC)に飛行機が突っ込む。煙を放ちながら、もう一台がWTCを破壊する。つづけてWTCが倒れてゆく。混乱状態にある人びと、助けを求める人びと。

 一瞬で。道路が灰に覆われるニューヨークの姿が、まじまじと映されていた。ーー22年前の今日、2001年9月11日の出来ごとだ。

 非現実的な光景を目の当たりに想像力は無力だ。

 当時ぼくは12歳だった。のちに「アメリカ同時多発テロ」(9.11)と呼ばれる衝突テロ事件だ。白煙をあげながら崩れゆくビルと、初めて目の当たりにする光景に、圧倒されている人たちの姿が、鮮明に目に焼きついてある。

 このテロはイスラム過激派テロ組織、アルカイダによる実行とされている。オサマ・ビンラディンがテロの主導者として指名手配され、のちに殺害された。

【中間のない世界】

 想像を絶する事態を前にして、「欧米諸国かそれ以外の敵か」といった、二者択一な押しつけを強いる風潮があったことを思い出す。

"The attack took place on American soil, but it was an attack on the heart and soul of the civilized world. And the world has come together to fight a new and different war, the first, and we hope the only one, of the 21st century. A war against all those who seek to export terror, and a war against those governments that support or shelter them."-- President George W. Bush, October 11, 2001 (Global War on Terror)

 「アメリカ本土でのテロ攻撃だ。しかし、文明社会の根幹への攻撃でもある。21世紀初の戦争であり、唯一の新たな、そして、これまでと異なる戦争に、対抗するために、世界がまとまる必要がある。テロ行為をけしかけるすべての組織や人びとへの戦争だ。テロ行為を助長し、かくまう政府に対しての戦争だ」(拙訳)とジョージ・W・ブッシュ大統領(当時)は同年の10月11日に述べた。

 「対テロ戦争」が浸透し始めたころには、アフガニスタンへの攻撃がしかけられていた。

 アフガンへの武力行使と同時に、 "The United States of America is a friend to the Afghan people, and we are the friends of almost a billion worldwide who practice the Islamic faith. The United States of America is an enemy of those who aid terrorists and of the barbaric criminals who profane a great religion by committing murder in its name."と、ブッシュ氏は呼びかける。

 「アメリカ合衆国はアフガンの人びとに友好的だ。イスラムの教えに従う、世界規模で約数十億人の人びとも友好関係にある。宗教の名において攻撃を冒し、冒涜するテロリストや原理主義的な残虐犯の見方をする政府の敵はアメリカ合衆国だ」(Global War on Terror)

 攻撃をしかけるとともに、友好的な言葉を投げかける。あくまで敵は「過激派」にあり、一般のイスラム教信者などに危害を加えない、あるいは「共存関係」にあるともとれるような言葉選びをしているとも思える。

【加速する対テロ策】

 同年の10月下旬に「アメリカ愛国者法」The USA Patriot Act)を施工。表面上はテロ防止策とされていた。通信・傍受や監視体制を強化するのが主眼だ。

 脱線するが、のちにエドワード・スノーデン氏に愛国者法が、個人のプライバシーを侵害しているものだと、リークされた。明るみになったと同時に、アメリカ人の「怒り」の声が上がってきた。 

 国外で攻撃。国内で監視体制強化。外交では融和路線のアピールーー。

 この手法は、ストーカーやドメスティック・バイオレンス(DV)のそれに似ている。「好き・見捨てられない」と愛着を示す一方で、振るう暴力はエスカレートする。

 マインドコントロールされるとDVに遭っていると自己判断すらできなくなる。同様に、敵国ーーアフガニスタンや中東諸国ーーとこの使い分け戦術で、攻撃を正当化していったように思える。

 そうなると、攻撃を受ける側も「思いやってくれている」と錯覚し、されて当然だと思い込むのかもしれない。こうして、米国とアフガニスタンの武力衝突は、恐ろしいことに01年を端を発し、約20年に及ぶものとなった。

【泥沼化の果てに】

 首謀者のビン・ラディンは11年に捕まっている。

 つまり、9.11の報復のみにマトを絞るのならば、長期化する必要はなかったのだ。20年に渡る泥沼化した戦闘の結果、ISIS(イスラム国)という名の新たな原理主義テロ団体も台頭した。

 バイデン大統領は21年のアメリカ軍のアフガニスタン撤退に際して"The United States should learn from its mistakes."「アメリカは過ちに学ぶべきだ」と述べた(Council on Foreign Relationsより)。

【正義とは】

 未曽有の事態に遭うと「敵か味方か」の二極化が進んでしまうということが、9.11テロを受けての報復攻撃から学べる。

 一大国の振りかざす、正義や大義は時として、判断軸を狂わせるのだと。

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