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煲仔飯に魅せられて

 突然だが私は炊き込みご飯、混ぜご飯の類が大好物だ。
母が作ってくれた焼き鮭と胡瓜の混ぜご飯、裏山で取れた筍を使った炊き込みご飯。
思い出深い混ぜご飯や炊き込みご飯はたくさんあるが、ご飯に具材を混ぜ込んだり一緒に炊き込んだりした料理はいつだってご馳走に思えた。
ご飯と美味しい具材を一緒に食べることができるのだから、混ぜご飯や炊き込みご飯はある意味それだけで一食が完成しているような完全栄養食とも言える……と思っている。
ちなみにおこわ、粽、ビリヤニなど米の形態や調理法を問わずご飯に何かを混ぜたり炊き込んだりする料理が好きなのだが、何故か炒飯は刺さらない。
炒飯に関しては混ぜご飯の仲間ではなくて炒めものに分類されるように思うからかもしれない。
そんな混ぜご飯炊き込みご飯好きの私が最近ハマっているご飯料理がある。
中華料理の土鍋ご飯の煲仔飯(ボウジャイファン)だ。

煲仔飯とは1人前〜2人前サイズの土鍋で米を炊いて炊きあがる前に具材を投入し、最後にタレをかける土鍋炊き込みご飯のことで、主に広東料理や香港料理のお店で提供されている。
最初から具材を炊き込むのではなく炊きあがる前に具材を投入すること、食べる前に具材とよく混ぜて食べることを考えると炊き込みご飯と混ぜご飯のハイブリッド的存在に思える。
ドラマ版孤独のグルメで五郎が横浜中華街南粤美食で食べていた中華土鍋ご飯と言えばご存知の方も多いのではないだろうか。
中華料理という恐ろしく歴史が長く奥深い料理にハマり、中華料理店巡りを趣味として久しいのだが、煲仔飯は出しているお店が少ないということもあって食べたことがなかった。
炊き込みご飯と混ぜご飯、そして中華料理が好きな人間としてこの料理を食べたことがないのはモグリもいいところだと自身を恥じた私は煲仔飯が食べられるお店を探した。
煲仔飯を一躍有名にした南粤美食に食べに行こうかとも思ったのたが、何しろ横浜中華街の超人気店なのでいつ訪れても長蛇の列で、行列に長時間並ぶのは苦手な私は躊躇してしまっていた。
南粤美食はいつか待ち時間のないコース予約で利用するとして、(コース予約は4人以上からなので友人が少ない私は未だ実現には至っていない)(Twitterのフォロワーさんは私と一緒に南粤美食のコースを食べてほしい)
長蛇の列に並ばずに入れる煲仔飯を提供するお店は都内や横浜中華街に多くはないにしろそれなりな数存在する。

 煲仔飯を初体験したのは神保町の粤港美食だ。
粤港美食は香港料理を提供するお店で、1号店は土鍋ご飯や点心類、2号店は焼き物メインのお店になっている。
こちらのお店の煲仔飯はより本場の形式に近く、長粒米を使ってる。
私は長粒米が好きなのでそれもこちらの煲仔飯が好きな理由の一つだ。
パラパラとした長粒米を使用することで土鍋に面した側面におこげができやすくなり、パリパリとしたおこげの食感が楽しめる。
日本米で作った煲仔飯も美味しいのだが、長粒米独特のおこげの味は異国情緒が溢れていて楽しい。

神保町粤港美食 椎茸と鶏肉と夏草花の煲仔飯

煲仔飯は大体の場合店員さんが手早く混ぜてくれる。上記の写真は店員さんが混ぜてくれたあとのものだ。
側面のおこげも剥がして均等に混ぜ込んでくれる。
炊きたて熱々のご飯、おこげ、具材、そして濃いめのタレが絡みあい非常に美味しい。
粤港美食の煲仔飯のタレは若干ジャンキーな味付けなのだがそれがまた美味しい。

こちらも粤港美食の腸詰めと干し肉の煲仔飯。
混ぜる前のビジュアルはこの通り映え映えだ。

煲仔飯を混ぜる前、店員さんが気を利かせて写真を撮りますか?と聞いてくれる場合もある。
この炊きたて煲仔飯の映え映えなビジュアルは撮りたくなる人も多いよな、と思いありがたく写真に収めさせてもらう。
干し肉と腸詰めの煲仔飯はこってりとした干し豚バラ肉と甘辛い腸詰めがたっぷり入って非常に食べごたえのある一品だ。

 同じようなちょっとジャンキーで長粒米を使った煲仔飯は横浜中華街でも食べることができる。

横浜中華街 美心酒家の鶏肉と腸詰めの煲仔飯

美心酒家は横浜中華街の香港路を少し奥に入った路地裏にある香港料理中心のお店だ。
煲仔飯以外にも香港麺を使用した湯麺類や中華街では食べられるところが少ない腸粉などもメニューに並ぶ。
ここの煲仔飯も粤港美食と同じように長粒米を使用したジャンキーめなタレのものだ。
ただこちらの煲仔飯に使用されている腸詰めはなかなかに癖が強い味付けでインパクトがあり好みが分かれるかもしれない。
美心酒家のオーナーは横浜中華街では初?のビャンビャン麺のお店を出してそちらもなかなか好評だったりしているので、食べ放題のお店や食べ歩きの小籠包などのお店ばかり増えていた最近の中華街では新しい試みのお店として中華街マニアの中で話題になっていた。
時々通ってこれからの動向を注目していきたいお店の一つだ。

 ここからは日本米を使った煲仔飯を紹介していきたい。
横浜中華街の大通りにある一楽は、こだわりの広東料理を出している現在4代目の老舗だ。
平日ランチも人気が高く、平日は中華街近隣に勤務する会社員が足繁く通い、休日は地元の常連客が多く訪れる人気店だ。
こちらのお店を訪れた際、ご飯もののメニューに土鍋ご飯を発見し、すぐさま注文した。

圧倒的映え!!最高に美しい横浜中華街一楽の腸詰めと山菜の土鍋ご飯

出てきた最高のビジュアルの煲仔飯がこちら。あまりに美しい。
鮮やかな腸詰めに山菜の緑が彩りを添える。
こちらの煲仔飯のタレは優しい味で、腸詰めは甘辛くて癖がなく、山菜や散らしてあるネギなどと一緒に食べるとその絶妙な美味しさに箸が止まらず、一人でペロリと平らげてしまった。
ジャンキーな美味しさの煲仔飯とはまた異なる中華街の老舗の力強さを感じる煲仔飯だ。
一楽は冬季限定で牡蠣の土鍋ご飯も提供していて、そちらも絶対に食べよう……と強く決意した。
地元民に中華街でのおすすめの店を聞くと高確率で一楽の名前があがってくるが、どの料理を食べても納得の美味しさかつ比較的リーズナブルな価格なので、肩肘張らず中華街で美味しい中華を楽しむにはベストなお店だと感じる。
これからも末永く続いてほしいお店だ。

 中華街の実力派の老舗が出す煲仔飯は他にもある。

横浜中華街 菜香新館の
中華ハンバーグと鹹魚の土鍋ご飯

常に行列が絶えない老舗、菜香新館も煲仔飯を出している。
こちらは中華ハンバーグに発酵した塩漬けの魚の鹹魚(ハムユイ)がのった煲仔飯だ。
付属のタレをかけ、鹹魚と中華ハンバーグをご飯に混ぜ込んでいただくスタイル。
一楽と同じくこちらのタレも優しい味わいだ。
中華ハンバーグは独特の弾力のある食感でくどくなくあっさりとしていて、鹹魚とタレ、散らされた生姜と一緒に食べると不思議と和食を食べているような気持ちになる。
卓上の辣油を入れて味変しても美味しい。
菜香新館には他にもスペアリブの煲仔飯などもある。
菜香新館はメインからデザートまで数々の魅力的なメニューが並んでいるのであれもこれも全部食べたい!とつい頼みすぎてしまい胃袋が一つしかないことを後悔するお店だ。
点心もとても美味しく、中華街初心者の方にもおすすめしやすいお店である。

 最後に中華街の煲仔飯番外編として、広東や香港スタイルではない変わり種の煲仔飯を紹介したい。

横浜中華街に最近オープンした新星、湖南料理店の湘厨の煲仔飯だ。

横浜中華街 湘厨の豚足の皮の炒めものの煲仔飯。
写真からも分かるように容赦なく刻んだ唐辛子が入っている。

こちらの煲仔飯は生米から炊き込む形式ではなく、炊いたご飯を土鍋で焼いておこげを作り、その上に湖南料理の刻んだ豚足の炒めものとタレをかけるスタイルだ。
どちらかというと石焼きビビンバに近い感覚だと思う。
湖南省といえば四川省、貴州省に並ぶ中国で激辛料理が食べられているエリアの一つで、「四川人不怕辣、湖南人怕不辣(四川人は辛さを恐れず、湖南人は辛くないことを恐れる)」という言葉が有名だが、この煲仔飯も勿論激辛だ。
湘厨ではオーダー時に辛さの希望を聞いてくれるのだが、私はうっかり普通の辛さでお願いします!と言ってしまったばかりに湖南料理の洗礼を受けることになってしまった。
湖南料理のデフォルトの辛さはまさしく鮮烈の辛さで、細かく刻んだ唐辛子がどこを食べても口の中を刺すように刺激してきて辛さに悶えながら食べ進めることになった。
ただめちゃくちゃに激辛ではあるのだが、タレと豚足炒めとおこげのハーモニーは絶妙で、非常に美味しい煲仔飯になっている。
こちらのお店で使用している唐辛子は湖南省から取り寄せている現地のもので、そこらへんの唐辛子とは比較にならない鋭利な刺激を楽しむことができる。
湖南料理の辛さは「酸辣」、「鮮辣」と表現されるらしいが、前者は文字通り酸っぱくて辛い、後者は生の青唐辛子の爽やかな香りと辛味、という意味らしく、この煲仔飯は「鮮辣」を強く体感できるものになっている。
湘厨の煲仔飯は他に砂肝の炒めがのったものもあり、そちらも食べてみたいと思っている。
湘厨はオープンしたばかりでまだ認知度も低いが、接客も大変親切で、他の湖南料理も美味しくて珍しいものばかりなので、繁盛していってほしいと思っているお店だ。
中華街で辛いものが食べたい!湖南料理を食べてみたい!と思ったら是非訪れてみてほしい。

 煲仔飯を出してくれるお店をいくつか巡ってみたが、まだまだ煲仔飯を食べられるお店がたくさんあるはずなので煲仔飯探しの旅は続けていきたい。
煲仔飯を出すお店がもっと増えないかなと切実に思っているのだが、煲仔飯を出す店が少ないのはその提供までにかかる時間にあるのではないかと思う。
煲仔飯は生米から土鍋で炊く料理のため、注文してから提供まで30〜40分程度時間を要する。
煲仔飯が出てくるまで待ちきれず注文をキャンセルしたり怒りだしたりするせっかちな人もいるらしい。
世の中には食事において早い、安い、が他の何より重要だと考えている人たちもいるのだろうが、美味しいものが出てくるまで大人しく待っていることもできないとは哀れな人たちである。
これを読んで煲仔飯を食べてみたくなった方は入店着席したらまずは煲仔飯と冷菜などのスピード料理の類を注文し、それを摘みながらお酒が飲める方は一杯やるなどして、お酒が飲めない方は夢想に耽るかTwitterを見るかこの記事を読んで暇を潰すなどしてのんびり煲仔飯の出来上がりを待ってほしい。
煲仔飯を注文すると店員さんはたいてい時間がかかる料理だけど大丈夫…?と確認してくれるので、大丈夫です!!と力強く応え、あとは楽しみに待つだけである。
お店だって回転率を下げるような手間暇かかるメニューをわざわざ出してくれているのだから、客もその気概に応えるべきだと思う。

 今回は煲仔飯について書いてみたが、中華料理屋巡りはオールド中華、ガチ中華を中心に趣味として行っているので中華料理についての記事はシリーズ化して書いていきたいと考えている。
中華料理マニアの方々には足元にも及ばないが、中華料理や中華街のお店についてのんびりと書いていきたいと思っているので気が向いたら読んでいただいて外食する際の選択肢の一つにしていただければ幸いだ。

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