吹割の滝を訪ねる―龍宮の面影-
孔雀石を溶いたような緑青の淵。
花崗岩と凝灰岩の川床が、
陽光を受けて金銀のまだらに光る。
流れの真中に亀のように横たわる浮島。
巌から伸びる赤松の梢。
木陰に佇む観音堂。
絡みつ解れつ水面を滑る銀の綾が、
ついに縒り合わさって千条の糸となり、
轟轟としぶきを上げる滝つぼへと、
まっさかさまに落ちていく。
かつて吹割の滝つぼは龍宮に通ずると言われていた。
近隣の村民は、祝儀などの振舞ごとがあると、
お椀が足りないので貸してもらいたい旨を手紙にしたため滝つぼに投じた。
すると行事の前日には、頼んでおいた数のお椀が確かに岩の上に置かれている。
行事が終わるとお礼の手紙をつけて同じ場所へ返した。
いつのまにかお椀は消えて無くなった。
ある年、借りたお椀の数を間違えて、一組だけ返し忘れてしまう。
以来竜宮が椀を貸してくれることはなかった。
返し忘れたお椀は、今も村の末裔が大切に保存しているという。
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