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SDGsの視点でガザ情勢を捉える:北海道パレスチナ医療奉仕団「ガザの、パレスチナの命を守れ!緊急集会」に参加して

SDGsが記載されている「持続可能な開発のための2030アジェンダ:我々の世界を変革する」には、目指すべき世界像を以下のように示した部分があります。

我々は、人権、人の尊厳、法の支配、正義、平等及び差別のないことに対して普遍的な尊重がなされる世界を思い描く。人種、民族及び文化的多様性に対して尊重がなされる世界」と。

ここで、ガザ情勢を考えてみます。


ガザ地区では11月5日現在、イスラエルの攻撃によって9,000名以上が殺され、このうち子どもが3,500名といいます。また、全体の7割が子どもと女性で占められ、イスラエルでハマスによって虐殺された1,400人を含めると、死者は1万人を超えました。

16年以上、札幌市の1/3広さの土地が高さ8メートルの分厚い壁に囲まれ、移動の自由がなく、上空からも小型カメラによって監視されてた状態が続いています。ここに、札幌市の人口197万人より多い220万人もの人が暮らしていま。

この小さな「天井のな い監獄」では、エネルギーやインフラが不十分なため、汚水処理ができず、すべての生活排水が垂れ流されています。2012年に国連が出した報告書「GAZA IN 2020 A liveable place?」によると、2020年にはガザは人の住める場所ではなくなると指摘されていました。

北海道パレスチナ医療奉仕団「ガザの、パレスチナの命を守れ!緊急集会」

ガザの現状:環境汚染・衛生状況の悪化、低賃金・高い失業率

11月5日、北海道パレスチナ医療奉仕団が開催した「ガザの、パレスチナの命を守れ!緊急集会」において、北海道パレスチナ医療奉仕団団長で医師の猫塚さんは、「ガザの海岸を歩くと非常に臭いがする。(汚染水が垂れ流される)その海で獲った魚を食べざるを得ない」と衛生状況が非常に悪いことを紹介。
さらには、これまで何度も起きてきた戦争で、イスラエル軍がバンカーバスター(地中貫通型弾丸)、白りん弾(M116 発煙弾)を使用してきた結果、土も汚染され、その土地で作られた野菜をガザの人は食べざるを得ず、心臓奇形、知能低下、形成異常の疾患をもって生まれてくる子どもたちが増えているとのことでした。
低賃金と失業率の高さから、生きる希望を持てずに絶望する若者が多く、若者の自殺率が高いことを指摘されました。

また、ハマスについて「ハマスには軍事部門、警察、官僚、福祉団体などいろいろなハマスがあり、ハマスなしでは生活が成り立たないと思う人たちがいるのも事実」ということでした。

数字では見えない悲劇が起きている

国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の吉田さんが、ヨルダンのアンマンからオンラインで現状を報告。

「この事態は、10月7日に急に始まったわけではありません。封鎖された中で大変な状況で暮らしてきた人がいて、軍事衝突も繰り返され、常に普通の人々が被害に遭っているのです」
「UNRWAでも緊急支援の準備はしていましたが、最大15万人の避難民を想定していたのです。けれど昨日時点で70万人以上の人々が149か所あるUNRWAの施設に集まり避難している状況。物資を積んだトラックがエジプトから入ってきていますが、全く足りていません」
「9千人以上が亡くなり、行方不明になっている人が2千人、2万人以上が怪我をしているとの発表もあります。最大規模の難民キャンプも大きな被害を受けました。実際にどれだけの被害か分からない。無差別と言えるレベルでの被害が出ています。UNRWAとしても人道支援としてできる限りのことをしていますが、停戦しない限り安全に支援を届けられません」

「今朝、90名以上のUNRWA職員の死亡が確認されたと聞きました。国連の歴史上でもこれほど多くの職員がなくなったことはありません。国連職員だから守られるべきということではありませんが、元同僚、友人も亡くなりました。大切な一人息子を亡くした職員もいます。死亡者数が日が経つにつれて多くなっていきますが、この一人ひとりには人生があり、家族がいたということを、数字だけでは見えない悲劇が多く起きていることを、改めて皆さんにお伝えしたい」
と訴えられました。

非暴力的な手段で声を挙げられる私たちが声を挙げる

さらに、この10月にガザに行く予定だった奉仕団のメンバーの方々が登壇され、今の思いを語ってくれました。その中のお一人で研修医の方が涙ながらに話をしてくれました。

「医師になったら奉仕団の一員になって一緒にパレスチナに行きましょうと、学生時代に誘っていただいた。5年経って、やっと実現することができるはずだった。ただ、この5年間、わたしはガザの状況を知っていたにも関わらず、何もしてこなかった。無意識にガザ問題の優先順位を下げていたんです。
いまの自分にできることは何かと考えたら、これからは、わたしも変われるから、あなたも変わってほしいというメッセージを発信したいと思っています。非暴力的な手段で声を挙げられる私たちが声を挙げ、声を大きくしていくことが、私たちの出来ることだと思います。皆さんも一緒に声を挙げてもらえると嬉しいです」

他の奉仕団の方も「ガザに行ける環境が整ったら、すぐに現地に行きたいと思っています。それが今の率直な気持ちです」とおっしゃっていました。

移動も、自由も、何もかも奪う集団懲罰=国際法違反

奉仕団のメンバーで室蘭工業大学外学院教授の清水愛砂さんは、「緩慢な窒息作戦から急速な窒息・根絶やし作戦へ」というタイルでお話されました。

清水さんは、
「最初に理解しておくべきことは、被占領地であるガザが長年封鎖されてきたという事実です。イスラエルの安全保障を理由にガザを封鎖していますが、移動も自由も何もかも奪う集団懲罰にあたり、国際法上許されません。違反している状態で10月7日を迎えたという事実を認識しておく必要があります。国際社会には、この構造的暴力を是正してこなかった責任があるのです」
と強調されました。

国連人権理事会の特別報告者7名の連名による11月2日の声明「Gaza is ‘running out of time’ UN experts warn, demanding a ceasefire to prevent genocide」で、「ジェノサイドの重大な危機に直面している」「戦争犯罪」と指摘したことを挙げ、「ガザの現状を自分の目で確認ができていませんが、限りなくジェノサイドに近づいているのではと非常に恐れています」と説明されました。

先日攻撃された最大規模のジャバリア難民キャンプについても触れられ、「奉仕団は昨年8月末にジャバリア難民キャンプを訪れました。猫塚先生は治療をされ、私たちは子どもたちに絵画イベントを行いました。この時に触れ合ってきた子どもたちも爆撃されている事実を皆さんに共有したかったんです」
とお話してくださいました。

欲しいのは、安心で、命で、生活で、平和

緊急集会の最後に、ガザのフリージャーナリストの方の音声メッセージが流されました。

「いま、イスラエルと呼ばれている国は1948年以前はパレスチナと呼ばれた場所でした。ハマースが200人もの人質をガザに連れて帰ってきたが、それによって人道上の問題がたくさん起こるだろうと思いました。そもそも今回の攻撃をする前に何があったのか、それをどのように説明したらよいか分かりませんが、ガザもヨルダン川西岸地区も苦しみにまみれていました。
イスラエルとパレスチナの間で実行可能な平和的解決がなされないまま、毎週金曜日には非暴力的な、平和的な方法でデモをガザでは行ってきました。私たちはとてもではないが、この状況に耐えることはできません。
私たちは人権がほしいだけです。ガザの外の人々が普通に持っている権利がほしいだけなんです」と訴えられ、就寝中の午前3時、目が覚めると瓦礫の中にいて、隣で泣いていた娘さんを抱きしめたものの、同じく隣で寝ていた息子さんと妹さんが亡くなっていたという経験を話してくださいました。

「私のストーリーはガザで起きていることの小さな部分でしかありません。無差別に人を殺す犯罪をイスラエルは侵しています。ガザで行われているのは本当の虐殺です。国連の学校ですらターゲットになっている中、爆撃下で南へ移動しろという。
世界はイスラエルに自衛権があるといますが、ガザの子どもたちが殺されていることを見てくれない。どうして、ガザの人権について語ることができないのか。毎日、毎秒、子どもたちが殺されているのです。

イスラエルは今回の戦争で新しいポリシーを実施することにしたようです。一般人をターゲットとし、民家も壊し、行方が分からなくなっている人も大量にいる。毎日、毎日、水や食べ物を探さなくてはいけない。ガザで今起きていることは非常に悲劇的なことです。

わたしたちは戦争が終わることを願っています。世界に私たちの声が届くように。私たちが欲しいのは安心で、命で、生活で、平和です。この私たちの話を信じてくれる日本の人たちに感謝しています」。

SDGsへの貢献:日本こそ「国際平和を誠実に希求」する行動を

SDGsのビジョンを再度振り返ってみると、ガザで起きていることはイスラエルが掲げる自衛権の範囲を軽く超過し、人権、人の尊厳、法の支配、正義、平等はありません。
特に、一般市民も、国際機関の職員も、ジャーナリストも関係なく殺されている状況は「ガザの住民」という属性でひとくくりにし、人種、民族及び文化的多様性を無視した虐殺であり、SDGsのビジョンには程遠い状況に向かっていると言わざるを得ません。

特に日本は、SDGs以前に「平和憲法」を持つ国です。
日本国憲法第9条には、 「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」とあります。

最近、「SDGsに貢献しています」という広告やPRをよく目にします。
SDGsへの貢献を推進するならば、憲法にも規定されているように、平和を求める行動を国際社会に向けて実施することが私たち日本国民一人ひとりにも求められているのではないでしょうか。

平和の話をしたり、デモに参加したりなんて、本当は気が重いのです。
でもこれ以上、平和を脅かす状況を看過することの方が私には難しくなっています。
やって後悔するよりも、やらずに後悔する方が、後悔具合が大きいと言いますし。いまは動く時だと、SDGsを語らせてもらってきた者としても、改めて思っています。

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