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リヒャルト・エーデンブルグの告白

 現代ドイツを代表する作家リヒャルト・エーデンブルグは最近とある雑誌のインタビューを受けた。リヒャルトは自宅に呼んだ雑誌記者たちを前にして自らの事を全て話すと言い、さらにこの話を編集せす全て掲載してほしいと要求した。記者たちはそれを聞いて恐らくリヒャルトが作家を引退することと、このインタビューが最後のインタビューになる事を悟った。彼らは緊張の面持ちでインタビューを開始した。

 リヒャルト・エーデンブルグは記者たちを前に自らの作家人生と作品について滔々と語り続けた。彼が語ったのはこんな内容だ。

「あらゆる芸術家がそうであるように自分は作家になるまで普通の人間であった。だがあの日突然小説が眼前に現れたのだ。私はその時の事を今もハッキリと覚えている。あれは古本屋で本を立ち読みしていた時だった。普段通り本を読んでいた私の頭に手元の本の活字が突然侵入してきたのだ。私はこれはまさしく髪の啓示だと思いすぐさまその本を買った。私は家に帰ると三日三晩寝ずに憑かれたように書きまくった。勿論書いている最中ずっとあの本を開きながらだ。その経験からだろう。私がオリジナリティだの、作家の想像力だの言っている作家を軽蔑する様になったのは。彼らはこの現代に於いて小説のパターンが出尽くしてしまった事に極めて無自覚だ。現代に於いて小説を一から想像すること等不可能なのだ。最近君たちもよく知る某作家が最近のインタビューで自分は全く新しい小説を書いたと自慢げに話していたが、読んでみたらジョイスやヌーヴォ・ロマンの下手なイミテーションでしかなかった。ここでハッキリと言っておくが、もはやこの世界にオリジナリティ等存在しないのだよ。今あるのはオリジナリティを気取った偽物だけだ。そんな時代で今文学者がやるべき事は昔の小説の遺産を活用することなのだ。あらゆる文学を読みそれを切り貼りする事なのだ。私は今までずっとそれをやっていた。私は小説を書き上げるのにまずは神の啓示に従ってあらゆる小説や哲学書、時には事件のルポルタージュさえも活用した。文字通りそれらの本たちを外科手術して手足を切り取りそれを別の体にくっつけて己が文学を作り上げたのだ。もはや発展不可能な文学を未来に繋ぐために」

 リヒャルト・エーデンブルグがその長き回想を語り終えると、その彼の知性と強靭な精神力に圧倒された記者たちは一斉に感動のため息を漏らした。


 そのインタビューの半月後、全国紙にこんな記事が載った。

『作家のリヒャルト・エーデンブルグ氏。小説を含む全著作に盗作疑惑!』

 記事によるとリヒャルトの小説と評論等の文章を元ネタを比較してどこが盗作に当たるのか検証した所、なんと全文章が誰かしらの盗作であったということだった。つまり一語一句人さまからの借り物だったわけである。新聞記者たちは一斉にリヒャルト・エーデンブルグに直撃取材を敢行した。しかし当のリヒャルトはこの事態に全く冷静で先日インタビューを受けた雑誌をかざしてこう言ったのだ。

「俺、この雑誌のインタビューで今までずっとパクってましたって言ってるからちゃんと読んでね。俺ずっと人様からパクリ続けてきたんだけどもうパクリネタがなくなっちゃったんだよね。だからもう引退します。それじゃ、また来世で」

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