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紅白歌合戦出場者面談

「とりあえずご自身の経歴から話して下さい。それから最後にご自分のセールスポイントをアピールをお願いします」

 あと二ヶ月ちょいで年末の一大イベントであり、歌手たちにとっては最大の見せ場である紅白歌合戦が今年も開催される。昨今は視聴率の減少などでもうじき終了すると噂されているが、それでも視聴率は同日の裏番組をはるかに引き離しており、歌手の中には紅白歌番組を生活の糧としているものも多数いるのでこれからも番組は続いてゆくだろう。

 そんな紅白歌合戦の開催を前にして今放送局では局内の一角を丸々貸切にして出場歌手の面談が行われていた。面談を担当しているのは今年の白組赤の両司会とサポートで入っている局のアナウンサーである。白組紅組の司会者は自分より遥かに上の先輩たちに向かっておっかなびっくりで冒頭に記したような質問をしていた。歌手たちはあるものは非常に礼儀正しく、あるものはざっくばらんにタメ口で面談に応じていたが、特にトラブルなく本日分の出場者の面談を終えることができた。後は明日と明後日である。スタッフから最後の出場者が完全にこの階から出ていった事を知らされた白組紅組の両司会者は思いっきり安堵の息をついた。

「やっと終わったよね〜!司会ってこんな大変なのかよぉ〜。普通俺らみたいなアイドルが面接官なんてありえないでしょ?俺いつ先輩方がブチ切れるかヒヤヒヤだったもん」

「だよね。あのさ、あなたさっきちょっとラップの人にどこでライブやってんの?とかタメ口で聞いたじゃん。あのさ、あの人武闘派だからヤバいよ」

「え〜マジかよ!新人だし気さくそうだったからついタメ口で喋ったんだけどヤバいね。今日は大人しく家に帰ろっと」

 その時、ノックと共に突然スーツ姿の男が部屋に入ってきた。そして両司会に対してあのいつになったら私の面接始まるんでしょうかと聞いた。二人はこんな芸能人いたっけと顔を合わせそしてサポートの局アナに聞いたが、局アナも今日の面談はさっきの人で終わっているはずと首を傾げ、出場歌手のリストを見ながら男が誰なのか考えたがまるで見当もつかなかった。なので局アナはとりあえず面談だけはしておこうと両司会に提案して二人も同意したので早速面談を始めたのだった。アイドルはさっきと同じように経歴と自分のセールスポイントのアピールをしでもらうように言った。

「私は大学で社会学を専攻してました。主に研究していたテーマはソーシャルメディア社会におけるメディアの変容というものです。今このソーシャルメディア社会において新聞テレビなどの旧メディアは変革を迫られています。私はその社会の変容を研究し……。私は大学で学んだ知識で必ずや御社の発展のために貢献するつもりです。ですから皆様私をどうかよろしくお願いします!」

 スーツ姿の男はこう長々と自己アピールをしたが、それを聞いていた両司会は唖然呆然として彼を見ていた。やがて我に返った局アナがスーツ男のそばによってこう言った。

「君、面接場所間違ってるから。受付に戻って正しい面接場所教えてもらいなさい」

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