鏡を見てからものを言え!

 人の気配がしたので振り向いたらそこに老けたおっさんがいた。おっさんも僕の存在にびっくりしたらしく大口を開けていた。僕はおっさんの顔を見て何て貧相な顔をしてるんだ。ダッセェじじいだな。絶対女にモテねえだろうなとそのわびしすぎる生活を想像して思わず笑ってしまった。するとおっさんも僕を見て笑うではないか。僕は何がおかしいんだ。笑われたのが悔しくて仕返しのつもりかとちょっと凄んでやった。こう見えても僕は若い頃は武闘派として鳴らしていて、ケンカも百戦百勝の超強者だ。だからこんなジジイはワンパンで終了なんだ。そんな僕に睨まれたら流石のジジイもすんませんとか謝って逃げるだろうと思ったら、このジジイは生意気にも僕に凄み返してきたのだ。僕は完全にジジイにブチ切れて「おまえ自分の姿鏡で見たことあんのか?鏡見てからものを言えや!」と顔を近づけて思いっきり怒鳴りつけてやった。しかしジジイも僕に顔を近づけておんなじように怒鳴ってくるではないか。もうこうなったら実力でわからせてやると僕は思ってジジイに拳を振り回してやった。だがジジイはそれでも僕に挑みかかってきて、二人の拳は血だらけになってしまった。

 その喧嘩の最中に突然用事を思い出した僕はジジイに向かって「もうやめようぜ。お前みたいなジジイになんかにかまって暇ねんだよ」と言い放ってその場を立ち去ったが、何故かジジイも僕の真似をして「もうやめようぜ、お前みたいなジジイにかまってる暇ねえんだよ」と言いやがったのだ。

 まったくなんてジジイだろう。この僕をここまで苦しめるとは。僕は久しぶりの喧嘩に熱くなった体を冷やすために冷房の強いところに行こうとした。その時どっかからデパートの家具コーナーの店員がやってきて僕に言ったのだ。

「あっ、いたいた!コイツですよ!突然鏡殴り出した爺さんは。お巡りさんコイツすぐに殴り出すから気をつけた方がいいですよ。まったくいい年してたまには自分の顔を鏡で見たらどうなんですか」


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