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妊娠…最期のドライブ その6

 私たちは今愛し合っている!この嵐と雷雨でまるで海のようになってしまった部屋で。海に浮かぶ小舟で私たちは愛し合う。二人はゆらゆらと揺れながら、お互いの存在を確かめ合うように愛し合っている!大粒の雨が裸の二人を突き刺す!雷が私達のすべてを映してしまう!ヤメテ!愛し合う二人をそっとしておいて!もう止まらない!

 ダーリンは歯をむき出し、顔をこわ張らせ、全身の毛を逆立てて、真っ黒な体で愛が吹き荒れる嵐の海の海の中必死に運転している!ああ!相変わらず不器用な運転だけど、最高よ!愛の高まりのせいで耐えきれなくなった蜜が濡れたベッドに濡れ重なっていく!ダーリン波のように何度も何度もアクセルを踏んでいく!激しく、切ないほど優しく!ああんそんなに暴れないで!でもダーリンは止まらないの!激しくアクセルを踏むたびにウキーッ!と絶叫する!ああん!感じてくれてるの!私もよ!私もあなたを感じているわ!きっとお腹のベイビーもあなたを感じてる!だってそうじゃない!きっとあなたの命を感じているの!

 とうとうこらえ切れずに、私は雨のシャワーを浴びながら歓喜の雄叫びをあげた!内なる魂からの熱い叫び!ああ!この体の細胞すべてがあなたを感じている!私はあなたを命のすべてで愛しているの!この消えゆく命のすべてであなたを愛したい!そして命のすべてであなたの愛を感じたい!私はまたダーリンを窒息死しそうなほど抱き締めた!

 イかないで!イかないで!私が死ぬまでずっといて!私と一緒にベイビーを産んで!ああ!二人の嵐の海の中、お互いをむさぼる!ただ私はあなたとこうして一つになっていたいの!

 ダーリンにはそんな私の切ない想いがわかっていたの。顔をほころばせ、歯を見せてニッコリしながら優しく私のギアに触れる!そしてフゥフゥと私に息を吹掛けた。すっかり熱くなっちゃって。私もだけど……。でももう恥ずかしくない!

 ダーリン……これで最後よ。これが最後のドライブなのよ!ごめんね。涙が溢れて来た。だから早く来て!私は全身の力をこめてダーリンにしがみつく!ああん!ダーリンといつまでもドライブを続けたい!でも!でも!…アアッ!最高よ!ダーリンがまた激しくアクセルを踏む!私への想いを叩き付けるようにけたたましく、痛いぐらいに!ああ!私を離さないで!離さないで!

 二人の愛の車はいつのまにか愛のジェット機になり愛の海のはるか上空を飛んでいた。私はダーリンの毛だらで全身真っ黒な体の毛を毟り取って叫んだ!ああ……見えるわ!見えるわ!サバンナが!ダーリンは顔をこわ張らせなからうなずく。そしてダーリンは破裂しそうなぐらいエンジンを吹かせてウキーッ!と叫ぶ!いっしょよ!二人一緒よ!ずっと……。

 突然澄み切った空気が部屋に入ってきた。サバンナの野生の匂いまで連れてきた。私はダーリン真上のダーリンを見つめる。サバンナの中には輝く泉が噴き出していて、その泉の中に生まれてくるベイビーが見える。私は全てをやり遂げたダーリンにキスをしてこう言った。

「ありがとう、最期にここに連れて来てくれて」

 朝、目が覚めると雨はすっかり止んでいた。昨夜の嵐で割れたガラス窓から朝の日差しが降り注ぐ。まだ生きてる……。ベイビーも健やかに眠ってる……。ダーリンは目の前でぐっすり眠ってた。いつものようにどっか行かないでちゃんと私の側にいてくれたの。でも起きてからずっとお腹が痛いの。だんだん痛くなってる。まさか……。
 

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