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小説実況YouTuber

「はい、今日もやってきました。ゆたんぽの小説実況です。今日はいよいよ『君の盲腸を食べたい』のラストを読みます。この小説のラストはすごい衝撃的で発売当時は凄い評判になったみたいです。俺はみんなと同じで朗読してるとこしか読んでないです。みんな動画で本確認出来てる?読んでないとこちゃんと隠れてるよね。おっ、確認できてるみたいだな。じゃあ今から本読むからバンバンコメントいれてくれよ。じゃあいきます」

「やっぱりサトシは思ったんだ。やっぱり人が盲腸炎で死ぬなんていけないって。だけど君香は人前でオナラするなら死んだほうがマシだって言う。ダメだよ。そんな自分のプライドにこだわって命まで捨てるなんて!だけど君香はサトシの言うことなんて全く聞かなかった。『いいんだよ。サトシ』なんて君香すっげえ悲しそうな顔して言うんだよ。『私、あと半月精一杯オナラを我慢してあの世に行きたい。サトシ嬉しかったよ。ずっとずっといつもそばにいてくれて本当に嬉しかった。サトシごめんね。あなたの前ではずっと綺麗なままで死にたいの」

「バカヤロー!……ごめん、みんな。ついむかついてテーブル叩いちゃった。もうサトシがかわいそう過ぎてさ。サトシずっと君香にオナラしろって言っているわけじゃん。それは君香を笑おうとか、あるいは君香のオナラの匂いを嗅ぎたいとかそんなフェティシズムとかそんなんじゃないんだよ。純粋に君香の命を救いたいわけじゃん。君香はそんなサトシの気持ちわかってるわけ?……えっ、なに?君香はサトシを思うからこそオナラをしないで死ぬことに決めたんだって?ちょっとそのコメントには納得いかないな。じゃあ遺されるかもしれないサトシの立場はどうなるわけよ。……あっ、別に謝らなくていいよ。こっちも強く言いすぎた。……え〜っと次のコメント。ゆたんぽさんお水、お水。……ゴメンねービビっちゃった?ちょっと小説読んでて熱が入っちゃった。……なに?ゆたんぽさんのそういう熱血教師みたいなとこ好きです?やめろよー、恥ずかしいじゃねえかぁ。……あっ、またスパムだ。誰だよこんなことする暇人は。皆さん、スパム止める方法あったら教えてください。……じゃあ休憩やめて再開します」

「そんな君香の言葉にサトシは立ち尽くすだけだったんだ。あの眩しい笑顔を持った君香が今盲腸炎のために死のうとしている。死出の旅への準備をする君香。そんな君香を繋ぎ止めたくても止められない。サトシは苦しんだんだ。それでこう思ったんだ。君香のお腹に溜まったアンモニアを無理矢理排出して彼女を救うよりも、彼女と同じ病気になって彼女の苦しみを分かち合おうって決めたんだ。君香はそんなサトシの決意を悲しい顔で聞いてた。そんなの無理だってわかっていたから。サトシは盲腸炎になろうと必死で努力した。だけど、だけどダメだったんだよ。アイツ盲腸炎になんかなれなかったんだよ。サトシのやつは自分の無力を呪ってただ君香の悲しい顔を見るしかなかった。君香も自分のために盲腸炎になろうと懸命になっているサトシに申し訳なく思っていた。彼女は耐えきれずサトシにこう言ったんだ。『やめてよ!あなたまで盲腸炎になる必要はないじゃない!盲腸炎で死ぬのは私だけで十分。あなたは私のために自分の未来を犠牲にすると言うの?』サトシはその君香を真っ直ぐ見つめて言ったんだ。『君がオナラを我慢して天国に行くというなら僕も一緒に天国に行く!』」

「……やべえ、なんか読んでて泣けてきたよ俺。オレさんざん君香をバカ女って叩いたけど初めて君香が好きになった。やっぱり君香はサトシを愛していたんだよ。俺君香への偏見に縛られてずっとそれが見えなかった。だけどサトシはもっとすげえよ。コイツ恋人のために自分も盲腸炎になるとか言い出すんだぜ。もう言葉も出ないよ。一体二人はどうなるんだよ。俺、続き読むのが辛くなってきた。最後まで読める自信ないよ。……ええ〜っと。ここで一休みしてコメント読んできます。ゆたんぽさん、お願いだから最後まで読んで。ここまで読んでまた明日なんてないよ。……わかるよ。俺、君の気持ちわかるよ。俺だってストーリーが宙吊りのまま放っとかれるなんて嫌だもん。……ゆたんぽ勇気を出せ。最後まで読まないとサトシと君香に怒られるよ。……そうだよな。読まなきゃだよな。俺、今日で読み終えるって約束したもんな。このまま読まずに逃げたら二人に叱られちゃうよ。みんな勇気をくれてありがとう。さぁもう……。っておい!またスパムかよ。あれ?クソリプまできてる。おい、いい加減クソリプやめろよ!ファンのコメント見れねえじゃねえか!なに?こんな小説読んで泣いてるお前バカ?ふざけんなよテメエ!俺、意外に怒りっぽいねって言われてるけど、自分でもそれがよくわかってるから自重してるんだよね。だけど今日はホントにムカついたから思いっきり言うよ。ファンのみんなゴメンね。……おい、そこのお前!なに必死こいて俺の動画にコメ書きまくってんだよ。なにがラノベはクソだ。なにがそんなもので金稼いでるお前はクソどころか燃えるゴミだ。俺らがゴミだったらお前は塵以下なんだよ!……おいまた書き込んできたな。わかったよ。今日はずっとお前の相手してやるよ!……なに俺別にラノベ嫌いじゃない?いいものはいいものだってちゃんと言う?なんだよちょっと叱ったらこれかよ。へえ〜。ちゃんと小説は読んでるみたいね。なに、この小説は昔読んだけどラストは壮絶なゴミだ。思いっきりネタバレだけど教えてやるよ。このゴミ小説の最後は二人が屁をこいて月に行ってそこで結ばれるって最低のオチなんだぞ。……相手して損したわ。こんな出鱈目なラストあるわけないじゃん。もうコイツは通報します。二度と俺の前に現れないでね。というわけでもうこんな奴は無視して朗読再開します。みんなホントゴメン。俺こういう荒らし行為許せないのよ。人がこうしてみんなに感動を届けようとしているのをさ、こういう形で嘲笑するなんてさ、もう人間としてありえないだろって思うわけ。だからついカッとなっちゃった。……ゆたんぽさんのそういう熱血ぶりが大好きだから今まで観続けてる。だから負けないで。……ありがとう俺君たちのために最後まで読むよ。それじゃないよいよ感動のラストシーンだ。みんないくよ!」

「……サトシと君香は山にハイキングに行くことにしたんだ。二人にとってのおそらく最後のハイキングになるんだろうって思った。病気になる前はよく山のてっぺんで未来の夢を語り合ってた。だけど今の二人には未来はない。君香の寿命は後三日だった。オナラを我慢し続けたから寿命が減ってしまったんだ。サトシは君香の苦しみを分かち合うために盲腸炎になろうとしてた。だけどダメだったんだ。オナラを我慢しているだけじゃ盲腸炎なんかなれるわけないんだよ。二人は悲しみを胸に山を登り続けた。だけどなんだ。てっぺんに近づくにつれて肛門が緩んできたんだ。……君香がああ!もう耐えられないとか言い出した。それに釣られたのかサトシも耐えられなくなってきた。二人は駆け足でてっぺんまで登って思いっきり屁をこいた……」

「バカヤロー!なんだよこれは!あのクソリプ野郎の言う通りじゃねえか!」

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