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怪盗サファイア

 怪盗はいつだってクールに振る舞わなきゃいけない。顔色一つ動かさずにターゲットを盗み素早くその場から逃げなければならない。私は世間では怪盗サファイアなんて呼ばれている。昼間はただのOLで仕事を終えたら青い闇に隠れて街をクールに飛び回る。あなたたちがよくニュースで観る、もぬけの殻の額縁のガラスに反射したブルーに光る残像。それは私だ。

 みんなどうやら私に夢中なようだ。テレビラジオ雑誌新聞は毎日のように『怪盗サファイア現る!』と書き立てそれを見たり聞いたり読んだりした人はSNSで私のことを話題にする。怪盗サファイアが今度は時価20億の絵を盗んだ。このままじゃ日本から名画がなくなってしまう。テレビでサファイアの青い残像を見たけど結構スタイル良かったぜ。早く捕まえて正体見れねえかな。

 でもあいにくさま。私は決してつままらないから正体なんて一生見ることは出来ないわ。私は他の怪盗と違ってスキなんか作らないから。私は怪盗サファイアの名に恥じぬよう普段から徹底的に自分を管理している。昼間の地味なOLの私を見て誰も怪盗サファイアだと思わないだろう。

 しかし最近誰かが私は身の回りに誰かの気配を感じるようになった。刑事なのだろうか。どこからか私が怪盗サファイアかもしれないって情報を得たのか。別にどこだっていいけどせいぜい嗅ぎ回っていてね。どうせ何にも見つからないから。疑って疑って人のこと嗅ぎ回ってもただの誤解だってわかって悔しがるだけよ。私を捕まえられるのは私と同じレベルの人間だけよ。

 だけど私を嗅ぎ回っているやつの正体はいまだにわからない。もしかしたら不安からくるただの妄想?恐らくそうだ。全く自分が情けない。この怪盗サファイアが捕まることに怯えるなんて。しっかりしろサファイア。あなたを捕まえられる刑事なんてこの日本に一人もいないじゃない。考えてもみてよ、この私に気づかれずに一日中つけられる人間なんていると思う?いないでしょ。ただの妄想よ。さっ、バカなこと考えてないでさっさと夜の仕事の準備始めるわよ。

 それから私はサファイアのボディスーツに着替えてマンションから夜の街に飛び立った。高層ビルの間をジャンプして私はターゲットの絵画が展示されている美術館の真上のビルに立った。さぁ、今日もいただくわよ。刑事さんたち今日も立派な鬼を演じてね。私は勢いよく飛ぼうとした。だけどその時後ろから男の声に呼び止められた。

 だ、誰?もしかして刑事なの?や、やっぱり私はつけられていたの?く、クソッ!素直に自分を信じればよかった!ふふっ私の完敗よ。最高の美人を捕まえたって同僚と乾杯でもすればいいわ。その顔よく見せて。私を捕まえた人間の顔を目に焼き付けたいの。

「ふふ、あなたがこの怪盗サファイアの正体を突き止めた刑事さんね。笑っちゃうぐらい普通の顔じゃない。いいわ大人しく捕まえられてあげる。さぁ、手錠をかけなさいよ」

 私は刑事に両腕を差し出して微笑んだ。その私に向かって刑事の男は言った。

「怪盗サファイアってのはなんだか分かりませんが、僕は刑事じゃなくてただのストーカーです。この間ビルを飛び回っているあなたのステキな姿を見て思わずストーカーしてしまったんです。その日からずっとあなたの部屋に住み着いて一日中ストーカーしていました。失礼ながらあなたが普段着からボディースーツに着替えるところも見たし、お風呂に入っているところも覗かせてもらったし、その他いろいろあんなシーンやこんなシーンを覗きましましたが、それなのにそんな僕に捕まえられたいなんて言ってくれるなんて思いませんでした。いいですよ、お望み通り一生捕まえていてあげます。だからといってあなたに手錠なんてかけませんよ。だって僕らはすでに愛という強い鎖で繋がっているんですから!」

 私はあんまりの展開にブチ切れて思わずこのストーカーを突き飛ばした。そして落ちてゆくストーカーに向かって叫んだ。

「ボケェ!お前なんかに誰が捕まるか!」


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