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ファンタジー小説『不思議の国のマルス』

 ゲードルハイム公国の公主グスタフ公は冒険に旅立つ息子のマルス公子に訓示を垂れた。

「マルスよ、これから其方の前には様々な困難が立ちはだかるだろう。だがマルスよ。其方はいずれ我が公国を継ぐものきっと困難を乗り超えられるだろう。いざ旅立たん。若者よ、汝に光あれ!」

 マルスは父の言葉を胸に意気揚々と宮殿を出て城下町へと向かった。彼は未知なる世界に期待を胸に膨らませていた。自分はいずれ公国を継ぐものとして公国の臣民や外国の人々を知らねばならぬ。そう思いながらマルスは一歩一歩城下町を先に進んだ。しかし門番らしき男が厳しい顔で彼に注意するではないか。

「おいそこの若いの。アンタ外国人だよね。パスポート持ってんの?出してよ」

 マルスはこれを聞いて笑った。この臣民はこの公国の公子である自分の顔を知らないのだ。しかしそれも当たり前であろう。確かに自分は生まれてから一度も宮殿を出た事がなかったのだから。ならばとマルスは胸を張って自分がこのゲードルハイム公国の時期公子でありいずれ時期公主となるマルスだと自己紹介した。自己紹介し終えたマルスは街の門番をキリリと見た。しかし門番は表情を変えず彼を睨みつけていた。

 マルスはこの彼の態度を見てもしかしたら自分が公子マルスを自称している頭のおかしい人間だと思われているかもしれぬと考えた。それで彼は自分が本物の公子マルスであることを証明するために、巾着から自分の生誕記念に作られた金のコインを取り出して、自分が正真正銘のゲードルハイム公国の公子マルスである事をアピールした。しかし門番はビックリするどころか大欠伸をしてマルスに言った。

「あのねマルスさん。アンタがゲードルハイムの公子様だってのはわかったけど、ここはローゼンベルク王国のど田舎にあるタゴサークル村なんだよ。田舎だけどパスポートなしで外国人を入れちゃ打首獄門になるからね。ちゃんとパスポートで正式に入国してもらわないと。あんた世間知らずっぽいから言っとくけどアンタの公国の領土はあのちっこいお屋敷だけだから。わかったらあのボロ屋敷に帰ってパスポート貰ってきて!」

 マルスは自分がまるで現実を知らなかったことに衝撃を受けた。まさか我が公国が宮殿だけしか領土をもっていなかったなんて。マルスは門番にすぐにうちに帰って公主にパスポートを貰ってきますと言うと走って宮殿に戻った。

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