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迫る手

 朝のラッシュ。車両はもうギュウギュウ詰めだ。壁際に立っていたらあんこが飛び出そうなほど潰される。車両に乗っているのは高校生からもうすぐ後期高齢者入りの老人の男女。現代日本社会の縮図。退屈な国の退屈な首都の退屈なラッシュ。没落寸前のマイ国家のいつもの一日の始まり。今車両がシーツをはためかせるように揺れている。

 突然迫ってきたのは確実に確かな手の感触。あまりに日本的なせこい犯罪行為は満員電車で花を咲かせる。股の間を行ったり来たりする手。もう奥まで入って来そう。手から指へ。遠慮なしの犯罪者。もう限界だ。

「お楽しみ中ちょっといいですか?……あの、僕女の子じゃないですよ」

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