この五百円必ず返す!

 小学校の時修学旅行で京都に行った時の話だ。僕はあの時お店で土産物を買おうとしてお金がない事に気づいた。それでどうしようかとまごまごしていたら、近くにいた女の子が僕を鼻で笑って代わりにお金を出してくれたのだ。女の子は僕の代わりに品物を受け取り、そして僕に渡す時に笑いながらこう言った。

「私が出してやったからほらあげるよ。だけどマサルってこんなものも買えないの?貧乏はいやだわ〜!」

 僕は悔しかった。悔しすぎてウンコまでちびりそうだった。僕は半泣きで彼女にこう言ったものだ。

「絶対この五百円は返してやるからな!倍にして返してやる!株で儲けたら十倍でも百倍にでもなるんだからな!」

 彼女は僕の言葉を聞いてああわかった、わかった。いつでも待ってるから好きな時に返してよ。と仲間同士で笑いながら言ったものだ。

 僕は彼女に本気で返すつもりだった。五百円どころじゃない、五千円でも、五万円でも、とにかく倍返しで彼女に札束を叩きつけるつもりだった。それは子供らしい稚気からくるいきがりだったと思うが、そこには彼女に対する恋ごころも混じっていたような気がする。とにかく僕は彼女に借りたお金を倍返しするために懸命にお金を溜め込んだ。しかし、いざ貯めようと思っでも僕の前にいろんな誘惑が立ち塞がった。ゲームやカードの誘惑にやすやすと乗ってしまった。彼女は僕に会うと半笑いで早くお金返してよ〜、十倍でも百倍にでもして返してくれるんでしょ?じゃあ五万円だね。と嫌味を言ってきた。僕は頭に来てじゃあ千倍にして返してやるわ!と言い返してやった。

 その後僕と彼女はそれぞれ別の中学に行く事になり、それ以来会う事はなかった。だがしかし今僕は彼女の前にいる。ガラスの向こうの彼女は僕の名前と生年月日を見て驚いて僕に言う。

「あなたマサル?あの、覚えてる?小学校の時あなたに五百円貸したこと……」

 忘れるはずはない。ずっと覚えているどころか今も彼女に五百円を倍返しで返そうと思っていた。だから株なんかに手を出して……。彼女が僕に尋ねてくる。

「あの、お客さん。で、今回はおいくらお借りしたいんですか?お客さんの経済状態だとコチラとしてもあまり多額の融資はできないのですが……」

「と、とりあえず五十万円貸してください」

 彼女はしばらく黙り込んでから立ち上がって言った。

「お前、あの時私に千倍にして返すって言ったよな。なのにまた五百円の千倍の倍の金借りてどうするよ!」



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?