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全員マスク! 第20話:全員マスク解散決議

第19話 連載小説『全員マスク!』 第21話

 取締役会の全員マスク!プロジェクト解散決議前の長すぎる余興。一ノ瀬エリカに命じられて取締役たちの前に立つもういいよマスクプロジェクトのメンバー。これは遥カオリへのあからさまな嫌がらせ。嫌がらせを浴びる遥カオリ。自分が手塩にかけて育ててきた全員マスク!の終焉を前にして激動の日々を思い出す。やはり真っ先に思い浮かんでくるのはゴミカス野郎沢村譲ことジョニーの顔。

 帰国早々渋谷の交差点でいきなりナンパしてきたジョニー。その日本人らしからぬ大胆不敵なロンリーウルフっぷりに惹かれてプロジェクトに引き入れた。一緒にプロジェクトに取り組んでいた頃ジョニーが熱く語っていたこと。「お前の顔の下半分が見たい。そんなマスクとっとと取れよ」「俺のインマイハート。お前の素顔を見たい俺の気持ち。語らなくてもわかるだろ?」「さぁ、今こそ邪魔なマスクをとってその素顔を見せてくれ」。……お前ずっと私の顔が見たいしか言ってねえじゃん!何だよそれ変態か!

 かつての相棒のクズっぷりを思い出して、何でこんなやつ信じまったんだと頭を抱えるカオリ。『トラストミー、俺を信じて。トゥルー・フェイス。お前の本当の顔が見たいだけなんだ』ああ!と改めての後悔。こんなクズに期待したのは無駄だった。あのロンリーウルフのような天真爛漫さに可能性を感じたのが間違いの元。ロンリーウルフと思って拾った男はただの狼少年だった。ああ!忌々しいゴミカス野郎!お前なんかアラスカオオカミにでも喰われてしまえ!

 深い憤りを感じながらジョニー転じてゴミカス沢村穣を睨みつける遥カオリ。そのカオリの前で一ノ瀬エリカはもういいよマスクのメンバーに自己紹介を促す。畏まった沢村たちメンバー。まずはサブリーダーの宮島から自己紹介を始める。

 退屈極まりない自己紹介。紹介を終えた宮島からバトンを受けて他の奴らが代わり代わりに喋りまくる。自己アピールに余念のないスピーチ。その中にいたゴミカス沢村と同じ裏切り者のオヤジども。かつてのリーダーカオリをせせら笑いながら自分語りしまくる。バブルの頃の栄光。それはもう古のあくびか出るほど退屈な物語。そのミヒャエル・エンデの如き終わらない物語にブチきれたエリカ、オヤジに向かって指で終了宣告する。打って変わって巻きまくりの挨拶。進行役のエリーの鬼のような顔。回りまわってとうとうジョニー、いやゴミかす野郎の沢村譲の番になる。しかしそこでエリカ、笑みを浮かべながら立ち上がって新メンバーの沢村こと、ジョニーについて語り出す。

「皆さん、改めて紹介します。彼が今回歌らしくプロジェクトに入った沢村くんです。彼は先程話した通り、このプロジェクトを完成させるには必要不可欠な人材なのです。彼には宮島と共にもういいよマスクのプロジェクトのサブリーダーを務めてもらおうと考えています。具体的に彼に担当してもらうのはもういいよマスクのデザインのブラッシュアップと本プロジェクトの企画立案と宣伝です。彼の後に奇抜なデザインのセンスと行動力があればもういいよマスクは予想以上の大成功するでしょう。ですが沢村くんのプロジェクト入りは昨日のよる、突然決まった事なので……」

 と、ここで言葉を止めるエリカ。勝者の顔でカオリをガン見する。イマジン、想像してごらん。ジョン・レノンがベッドインでダメ押しのように熱唱するラブ&ピースの歌。アメリカンなカオリ。エリーのヨーロッパ的策謀に衝撃を受けて唖然とする。だがびっくりしてももう遅い。ゴミかす野郎沢村はもう晒し唇のエリーの手のひら。かつてのロンリーウルフは今や完全にエリカの忠犬ハチ公。一方そのエリカの先住犬マーティンこと宮島。激しく思いを寄せていたいとしのエリーとサブリーダーの座を軽蔑しきっていた三流大のゴミクズ沢村に丸ごと奪われた悔しさにクぅ~んと鼻を鳴らして鳴きまくる。

「今、彼が新たに作成した『もういいよマスク』の新しいマスクデザインをお見せすることは出来ませんが、近いうちに場を設けて大々的に披露します。それでは沢村くん、皆様に自己紹介お願いします」

 エリカに促されたゴミクズ沢村。気取った態度で前に進み出て挨拶する。

「初めまして。一ノ瀬リーダーからご紹介に預かりました沢村穣と申します。僕は以前あそこの席におられる遥カオリさんの下で全身マスク!プロジェクトに携わっていました。残念ながら僕の力足らずのせいで全身マスク!プロジェクトは頓挫してしまい、今正式にプロジェクトの解散が決まろうとしています……」

 と言いながら沢村は遥カオリの方を向く。二人の目が合った。遥カオリは自分を見ている元チームメンバーをジッと見る。その借りてきた猫みたいな態度。申し訳程度の反省アピール。そこには昔の大胆不敵に自分をナンパしてきたロンリーウルフの面影はひとかけらもない。今のジョニーは只の忠犬ハチ公。エリカの晒し唇に釣られて自分さえ見失ったか。ふとどやしつけて立ち直らせたくなったカオリ。しかしもう全てが遅すぎる。

「しかし僕はその全員マスク!プロジェクトの中で遥カオリさんをはじめとしたチームメンバーから大事なことを学びました。その経験を生かして僕はこのプロジェクトで自分の可能性に挑戦したいと思っています。それにこれは僕にとってリベンジでもあります。このチャンスをくれた一ノ瀬リーダーのためにも、それと僕をここまで育ててくれた遥カオリさんのためにも、僕は何が起ころうともプロジェクトを最後まで見守り、必ずや成功へと導いてみせます」

 ああ!いかにも忠犬ハチ公らしい見事なまでの忠誠っぷり。最後に申し訳程度の感謝の言葉。腹立たしいが、何故か泣けてくる。カオリの中のゴミカス沢村こと、ジョニーの記憶。初めて入ったジョニーの部屋で見たMASK respectのロゴ。壁ドンの告白。お前のマスクの下が見たいの連呼。事あるごとにマスクを剝がそうとしていたジョニー。ああ!何度思い浮かべてもろくな思い出なんかねえよ!でもジョニー。あなた本当にエリカの元に行くの?自分が作ったMASKrespectのマスクをゴミ箱にでも捨てて!やっと正直に言えたねの思いを発露するカオリ。しかしジョニーはカオリの思いをガン無視して冷然と目を背ける。ジョニーに見捨てられまくったカオリの惨めったらしい敗北ぶりを見ていた一ノ瀬エリカ。自らの決定的な勝利を祝すように満面の笑顔で立ち上がってスピーチを終えたジョニーに大きな拍手を送る。彼女の拍手に続いて他の取締役も立ち上がって拍手をし出した。感動的な企業ドラマは都合のいい感動ばかりがもてはやされる。将来きっとこの場面を苦境を乗り越えた感動のシーンとして演出されるだろう。

「これで『もういいよマスク』プロジェクトのチームメンバーの紹介は終わりです。さて、大分お待たせしましたが、今から『全員マスク!』プロジェクトの解散決議に入ります。それでは皆さん、全員マスクの解散に賛成な方は挙手をお願いします」

 最高裁の裁判長となった一ノ瀬エリカ。血も涙もない口調で取締役に全員マスクの解散決議に挙手を促す。勝者による敗者への一歩的な裁き。嫌がる子供を押さえつけて口にドリルを突っ込むような所業。ママのお叱り。泣き喚いても歯の痛みは治りませんよ。我慢しなさい!おずおずと手を挙げる取締役たち。その中には当然カオリをアメリカから呼んだ奴もいる。カオリは外国人助っ人枠。使い切ったらポイのパイポと同じ。不良外人はさっさと日本から追い出してしまえ。エリカは勝利の瞬間をまだまだ引き延ばす。危険なほど目を剥いてガン見するのは絶望に沈むかつての同級生の遥カオリ。エリカに湧き上がるのは悪魔的な笑み。歴史は女で作られる。エカテリーナ女帝。ああ!ヨーロッパの深い闇。しかし突如としてエリカの妄想は断ち切られる。妄想を断ち切ったのはほかならぬジョニー。ジョニーは自信満々の顔でエリカに言う。

「エリー。忙しいとこ最中申し訳ないけど、俺、実は企画を一つ作ってきたんだ。ここでみんなに見せてやりたいんだけどいい?」


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