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勇者カケル 〜魔王討伐に賭けた夏 第三話:甲子園

 カケルははるかが発した甲子園なる謎の言葉を聞いてキョトンとなってしまった。甲子園?耳慣れぬ言葉だ。なぜはるかは突然そんな言葉を言い出したのか。魔王と何か関係あるのか。カケルは甲子園という言葉を聞いて何故か鉄の兜を被った男たちが白い球と鉄の棍棒を持った姿を思い浮かべた。

「甲子園っていうのは魔王の住んでいるところらしいの。魔王が帰る時言ってたわ。『さぁ村も殲滅したし甲子園に帰るぞ』って。その時何故か魔王は部下たちに長々と甲子園の説明し始めたんだけど、甲子園っていうのは元々私たち人間がスポーツ大会をするところだったらしいの。夏の真っ盛りに世界中から選ばれた人たちが白球を追ってかけていたっていうのよ。だけど今は魔王に乗っ取られちゃって、魔王はスポーツが金になるって事に気づいて自分主催のルールとか全部無視したスポーツ大会を開いて自分のチームだけ優勝させて強制的に参加させられた人間のお金持ちからお金を巻き上げているらしいの」

「なんて酷い奴なんだ!高校球児の青春を賭けた甲子園を賭け事の道具にするなんて!」

「えっ、カケル君高校球児ってなに?」

「いや魔王に対する怒りのせいでそんな青春の幻を見ただけさ……」

 こうカケルがあまりにもさわやかな表情で言ったのではるかは思わず胸がキュンとなってしまった。しかし話はまだ終わっていなかった。はるかは話を続けた。

「と、とにかく魔王の説明ではその甲子園っていうのは夏が終わると閉じて誰も入れなくなってしまうらしいの。開くのは次の夏。それまで魔王たちはあたりに結界を張って冬眠するらしいの」

 せきぐちはそこまで話を聞いてハッと思いついてみんなに言った。

「じゃあ秋までにその結界を破る方法を考えれば秋になったら魔王を……」

 しかしカケルはせきぐちの話を遮ってさわやかに叫んだ。

「じゃあ魔王が寝ちまう前に倒さなければならないってことだな。夏か……。すぐそこだぜ。おいそこのデブ!今すぐ両手で構えろ!」

 とカケルはせきぐちと一緒にいた戦士の格好をしたデブに言った。

「おい、俺にはまつだいらって名前があるんだぞ!大体なんで俺だけ自己紹介されねえんだよ!」

「うるさいデブ!さっさとミット構えろって言ってるんだ!」

 まつだいらが仕方なしに何故か持っていたミットを構えるとカケルはたまたま落ちていた白く光る石ころを拾ってミットに投げるために構えた。そして足を上げて振りかぶるとミットへ向けて思いっきり投げた。

 石ころはミットに入ると同時に凄まじい轟音を立てた。一同は呆気に取られてしまった。まつだいらなど激痛のあまり転がっているではないか。

 はるかはこれを見てカケルが本物の勇者だと確信した。野球のないこの世界であんな豪速球を投げられる人はカケルしかいない。カケルはさわやかにはるかに向かって微笑みかける。また二人の周りがぼやけあたりに光る輪っかが浮き出してくる。

 せきぐちはこのままでははるかを取られてしまうと思った。あんな豪速球を見せられたらこの天然の大嘘つきを勇者だと認めざるを得ない。はるかもカケルが勇者だと確信してラブコメモードに入ってしまった。なんとかしなければ。せきぐちは考えた挙句さっきまではるかが抱いていた死体を覚えたてのザオラルで生き返らせようと考えた。ザオラルを使ったら十年は寿命が縮む。命を分け与えているのだから当たり前だ。しかもザオラルはその上級変換のザオリクとは違って生きかえらない可能性もあるのだ。だが彼はそれでも死体にザオラルをかけて生き返らせようとした。それがはるかに対する彼の愛だったからだ。

「はるかちゃん、俺あの人を生き返らせてやる!」

 そう叫ぶとせきぐちは若い男の死体の元に飛んでいった。そしてすぐさまザオラルをかけた。呪文をかけ終わるとどっと疲れが出てきた。さすが十年の寿命を犠牲にするだけの呪文だ。だけどそれも愛しいはるかのため。そう思いながらせきぐちは死体を見ていたが、死体がピクリともしないのだ。やっぱり失敗かと思いもう一度呪文をかけようとした時だった。突然死体が起き上がったのである。せきぐちは泣いて喜びまだ朦朧としている男の手を引っ張ってはるかの元に連れて行った。

 せきぐちは生き返った男をはるかに見せて言った。

「はるかちゃん、僕の呪文でこの人を生き返らせたよ!」

 せきぐちはこれではるかの心は一気に自分に動くだろうと思った。なんといっても自分は寿命を犠牲にして彼女の大事な人を生き返らせたのだ。はるかはあんな嘘つきの薄っぺらな青春野郎のカケルなんか捨てて泣いてありがとうと自分の胸に飛び込むに違いないと思ってはるかを見たら彼女のかおがみるみるうちに不機嫌になってゆくではないか。はるかは怒りで体を震わせながらせきぐちに言った。

「なんでこんなヤツ生き返らせたのよ!ずっと死なせておけばよかったのに!」



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