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ホームレス画家

 私はホームレスだ。ホームレスになったのは三年前からになる。もともとは画家であり、絵画教室の講師なんかもしてそこそこの暮らしをしていたのだが、勤めていた絵画教室が突然潰れ、絵の方も売れなくなり、とうとう住んでいたアパートから叩き出されたのだ。友達や知り合いはみんな私を心配して仕事を紹介してくれたり、生活保護の申請をしてみてはといろいろ助言をしてくれた。だけど当時の私は男に振られたショックでかなりメンタルがやられて通院している状況だったのでそんな彼等の助言さえ疎ましく思うような状態だった。何もかも終わるなら終わってしまえ。それが私の人生だ。私は毎日そう思い、自殺すら考えた。

 アパートを追い出された私は漫喫を転々として回った。スマホは早々に切れ、友達や知り合いとも切れ、そして保険証の有効期限さえも切れた。私は車の運転は出来ないので免許証は持っていない。だからもう漫喫にすら泊まる事はできない。完全に社会とは切れたのだ。

 というわけで今は完全にホームレスだ。正真正銘の本物の嘘偽りのない立派な巨匠のホームレスだ。通行人は一日中ダンボールの上に座って絵を描いている私を不思議そうな目でチラ見して通りすぎてゆく。私と同じホームレスはまだ若いのに大変だねと声をかけてくる。私は女で自分でもいうのはなんだけど結構美人であり、ホームレスになる前はそれなりにモテていた。だけどホームレスになってからは誰も私に声すらかけず避けてすらいる。やはりアブナイ女と見られているのだろうか。でもそうしてくれる方が私にはずっとありがたい。おかげで絵の制作が捗るからだ。私は朝にいつもくるボランティアの人におにぎりをもらい。それから昼間はアパートから追い出されるときに持ち出した絵の具でずっと絵を描いている。時たま私の絵を買ってくれる人がいて端金で買ってくれる。コイン一枚。これは画家としてもらった最高の代金の千分の一だ。夜になると近くの共用便所で百均で買った浴用グッズで体を洗う。当然お湯なんか出ないので夏はともかく冬は冷たくて肌が荒れる。しかしいずれ体の汚れなんか気にしなくなる時がくるのだろう。現にもうボロボロの服を着ても平気になっている。

 一時期は絵のことなんかどうでもよかった。どうせ売れないゴミみたいな絵なんか描き続けたって粗大ゴミになってみんなに迷惑んかけるだけだろうって思っていた。だけど染み付いたものはなかなか捨てられないものだ。のんべんだらりんと公園をぶらぶらしていたらまた絵を描きたい思いが湧き上がってきてしまったのだ。美大のコンテストでは優秀賞をもらった。それで教授とかに君なら画家としてやっていけるよと言われて画家となり、それで食べていけるまでにはなった。だけど私はただ絵をずっと描いていたかっただけなのだ。こうして全ての地位を失って改めてその事に気付かされた。無邪気に私の絵を褒めてくれた友達。初めて付き合った彼。美大で私を誉めそやした人たち。画家の仲間。彼らは今の私を見て私を憐れむだろうか。それとも相変わらず私の絵が魅力的だと思うだろうか。一体どう思うだろうか。


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