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妊娠…最後の診察 前編 その3

「実は私病院を辞めるんです」

「えっ?」

 先生の思わぬ言葉に私は思わず叫びました。

「そう、今日来たのはその事を伝えるためでもあったんです。私が結婚するというのは知ってますよね。その結婚相手は私と同じ医者でとある国際的な団体に所属しているんです。その彼がアフリカに行くんです。私も悩みましたがついて行くことにしました。一週間後に結婚式を挙げてすぐにアフリカに行きます」

 まぁそんなに早く行ってしまうのね。アフリカ、サバンナ。ああダーリンの故郷だわ。私も行きたかった。その昔99人のボーイフレンドの誰かとエジプトや南アフリカには行ったことあったけどサバンナは素通りだった。あの頃の私は享楽に溺れて自然の素晴らしさなんかには目もくれなかった。あの時サバンナに行けば、もっと早く毛だらけで全身真っ黒なダーリンに会えたかもしれない。そしたら今頃はアフリカでダーリンとダーリンのパパママとウキーッ!と言いながら楽しく暮らしていたんだわ!私は先生のアフリカ行きの話を聞いて興奮して思わずこんな事を言ってしまいました。

「ああ!先生が羨ましいわ!サバンナで毛だらけで全身真っ黒でウキーッ!と叫ぶ人達と一緒に暮らせるなんて!彼らも先生が来たおかげで救われるかもしれない!そしたら私の死んだダーリンみたいに家族の治療費とバナナ代稼ぐために日本にまで来だけど、日本人に裏切られたせいで心歪んで、私のようなか弱い女の子をレイプしようとすることなんてなくなるわ!」

 先生は私の話にうなづいて時折ニッコリと微笑むだけです。そして先生は話を続けます。

「アフリカに行って自分を見つめなおしてくるつもりです。世界のことをもっとよく知って医者として成長できればいいなと思います。それでサル子さん、ひとつお願いがあるのですが……」

 お願い事って何かしらと私が思っていると先生が続けてこう言いました。

「アフリカに行く前にあなたの赤ちゃんの診察をさせてもらいたんです」


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