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オーメン 【文字数666】

 ラーメンもオーメンもみんな同じだと誰かが言った。確かにラーメンとオーメンは同じ時数だしたった一文字違いだ。だけど意味は決定的に違う。ラーメンとは麺料理のひとつであり、オーメンとは映画で有名な666の悪魔だ。だけどその二つのものがどういうものであるか知らない人間にそれがどう違うのかを問うても一文字違うことしか答えられないだろう。このように似た言葉の違いをはっきりと認識できるにはその言語を知ることが必要であり、さらにはその言語を生み出した共同体の文化を知ることが求められよう。しかし価値相対化が叫ばれる現代の消費社会においてはラーメンとオーメンの名前の相似は面白がられしばしば広告の題材となる。しかしそれはあくまで元の意味を知っているがゆえに題材に出来るのであって元の意味も知らずただ言葉を並べた所でなんの話題にもならないであろう。つまり言葉とは常になんらかの文化的な熟成があって初めて生まれるものであり、言葉が文化から離れて自立することなどあり得ないという事である。かのジェイムズ・ジョイスは晩年の大作『フィネガンズ・ウェイク』で夢の言語を作ったが、それは彼のルーツであるアイルランドの文化があればこそ成し遂げられたのである。ラーメンは美味く、オーメンは怖い。仮に昔の中国人にオーメンのことを聞いたらなんと答えるだろうか。彼らはきっとラーメンの読み違い、またはラーメンの調理法の一種かと答えるに違いない。逆に西武開拓時代のアメリカ人にラーメンの事を聞いたらきっと悪魔と答えるだろう。しかしもう字数も尽きた。666と書いて寝よう。

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