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近代の伝統を味わう

 カツレツが日本に入ってきたのは文明開花の頃だが、それから百年以上経ち、カツレツは西洋の模倣から日本のオリジナルになった。今私はその日本の近代の発展と伝統を象徴するカツレツ屋の前にいる。このカツレツの店はまさに明治に開業した超名門店だが、その名門店にしては異例なほどカツレツが安い。正直に言って物価高の今これほどの値段でカツレツに触れられるなんて奇跡というものだ。こんな事を書くと疑り深い人は安いって言ったってどうせブスの樋口一葉と同じ値段なんでしょ?と吐き捨てるかもしれない。だが違うのだ。なんとこの店のカツレツはあの野口英世さえ必要ないのだ。たったの五百円、たったの五百円でカツレツを味わえるのだ。だが残念ながら店では食べることは出来ない。全て持ち帰りである。しかし持ち帰りでこれほどのカツレツを、いや日本の近代の伝統を、すべてとは言わないが舌で感じることができるのである。今男女の成金風なカップルが私を憐れみの顔で見ながら目の前を通り過ぎた。ふん、バカめ。憐れまれるのはお前らだ。伝統知らずで五百円のカツレツを軽蔑して中で衣に包まれた柔らかい肉を食ってるだけで満足している連中。全く下品すぎて吐き気がする。俺はお前らと違ってこの店のカツレツを全て理解しているんだ。カツレツは肉が入っていればカツレツじゃないんだ。

「は〜い、お客さん。当店自慢のカツレツ揚げ玉50gできましたよぉ〜!早く取りにきてよお〜!店の中にお得意さん待たせてるんだからさぁ〜!」

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