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泣ける話

 泣ける話を聞かせてと彼女がいうので、僕はタネネギを刻みながらタマネギの話を延々としてあげた。彼女はボロ泣きでもうやめてと言ったけど、僕はそんな彼女が愛しくてダンボールから玉ねぎを取り出して次から次へと刻んでやった。刻んでいると僕まで泣けてきた。もう二人とも涙のせいで前が見えない。それからずっと僕は溢れる涙を拭きもせず延々と玉ねぎを刻みながら彼女に玉ねぎの話をした。彼女はもうやめてと何度も言ったが、僕は涙と共に溢れてくるこの感情を抑えることが出来なかった。そして夜通し玉ねぎを刻んで玉ねぎの話を聞かせて泣き明かした朝だった。気付いたらキッチンには刻んだ玉ねぎの山ができていた。僕らは泣き明かしたせいで痛む目を必死に開きながら玉ねぎを見つめる。彼女は何故かこめかみの血管を浮き立たせて身を震わせながら僕にこう言った。
「この玉ねぎ一体どうするの?」
 僕は涙のせいで痛む目をこじ開けて彼女を見つめて言った。
「フッ、朝のめざましにオニオンスープでも作るさ」

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