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私を温めてください

 そう言って僕を誘ってきた彼女。気まぐれのお遊びだと思っていたらやっぱりだった。彼女は適当なストーブが欲しかっただけ。誰でもよかったのさ。自分の体を温める人間なら。だけど彼女に呼ばれたら一目散に駆けつけてしまう。それが虚しい一夜の労働だと知っても。たしかにみんな僕が彼女の元に行ってることをバカにするよ。そんなことしたって彼女はお前の恋人になんかならないって。やるだけ無駄だって。お前は彼女に利用されているんだ。お前なんか冬が終わったらポイだ。だけどそれでも彼女に会いに行ってしまうんだ。僕がベルを押すといつも彼女が天真爛漫な笑顔で出迎えてくれる。僕はその笑顔を見たらもう自分が利用されてることなんてどうでも良くなるんだ。僕は彼女に向かって微笑み、彼女はいつものように笑顔でこういうんだ。

「はい、ご苦労様!今日も焚き火よろしくね!今日は寒くなるから朝までずっと吹いててね。ごめんねぇ!いつもいつもただで焚き火なんかさせて!でも今年は電気代高いじゃない?だからあなたがいないとやってけないのよ。本当にあなたがいてよかった。だってこんな雪の中ただで焚き火なんかしてくれる人いないもの」


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