水曜日

　今日は雨のウェンズデーになりそうだ。雨のウェンズデーとは大瀧詠一の曲のタイトルだが、この曲は母が大好きな曲だった。母はこの曲が好きすぎて雨のウェンズデーに海が見たいと彼を呼び出したそうだ。曲の歌詞に『海が見たいだなんて言い出したのは君さ』とあるが母はそのまんまのシュチュエーションを演じたわけだ。夏ももうすぐ終わりだね。そして私たちも……。そうやって母と彼氏はずっと浜辺に立っていたがいつのまにか眠ってしまったようだ。目覚めた母はいつのまにか海に浮いていた。何と海が満潮になってしまったのだ。母は慌てて陸にあがろうとしたが、その時彼氏が泣きながら助けを求めているのを聞いた。
「助けてくれぇ！僕は泳げないんだよぉ〜！」

　母はすぐさま彼氏を助けた。そして二人で陸に上がってずっと彼を介抱していたが、彼はその間ずっと泣き喚いていたらしい。母は普段あれだけカッコつけてた彼がみっともなくピーピー泣き喚いているのを見て母性本能を刺激されたらしい。その後二人は結婚してその彼氏は私の父となった。すっかりおばさん体型になった母はその事を話すたびに父に向かってあの時あんたが溺れていなかったら別れられたのに何で水泳を習わなかったんだい？と毒づく。父は母からそう言われるたびに、せめてもの反抗のつもりかいつもこう切り返す。

「全くだよ。僕が泳げたらお前なんかと結婚しないさ。まぁ、今二人とも海に落とされたらお陀仏だろうけど」