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高級つけ麺

「やれやれすっかり高級店になっちまったな。昔はくだらねえラップかけてたのに今じゃクラシックだぜ。ラーメン屋にクラシックなんてお笑いだろうが。なのに肝心のつけ麺はスッカスカ。全く目も当てられない惨状だ。ホント馬鹿げているぜ」

 と友人は席に案内された途端いきなり愚痴り出した。僕はびびって周りを見て顔が青くなった。友人の悪口は他の客にも聴こえていたらしく、皆冷たい目で僕らを睨みつけていた。その客の反応を見たのか店員が僕らの元にやってきて愛想のいい笑顔で僕らに話しかけてきた。

「おきゃくさんお久しぶりです。いやあ、昔とは色々と環境が変わってしまいましてね。この円安のご時世で物価も高くなりまして我々も苦労しているんですよ。ご不快な思いをさせて申し訳ありませんね」

 店員が愛想笑いを浮かべながら必死に場を和らげようとしていたのに友人は店員に向かってあっちいけと手を振って追いやってしまった。僕は流石に友人を注意しようとしたが、その時友人はつけ麺を食べながら会話しているカップルを見て舌打ちして僕に話しかけてきた。

「アイツらバカだろ?あんなスッカスカのつけ麺、高い金出して食うもんじゃねえだろ。まぁ、俺らも今から食うわけだけどさ。とにかく今日限りでこの店とは永遠にさよならだ」

 僕はこの友人のあまりに酷い暴言に流石に頭に来て彼に説教してやった。

「そんなに大声で愚痴るなよ!さっき店員だって物価高で苦労してるって言ってただろ?それにこの店が他に比べて割高だってのは昔からじゃないか。せっかく店に入れたんだから黙って食えよ」

 僕の説教に友人はあからさまに不満タラタラな態度で口を閉じた。それから僕らはしばらくつけ麺が出来上がるのを待っていたが、やがてつけ麺が出来上がり店員がにこやかな顔でつけ麺を置きながら言った。

「はい特製つけ麺レギュラーメニューお待ちぃ!」

 僕らはやっときたつけ麺を見て呆然とした。そこには一本のとぐろを巻いた麺が小皿に乗せられ、つけ汁はそれよりも一回り小さい皿にまるで醤油みたいに申し訳程度に垂らされていた。

「お客さん、レギュラーサイズにはスープ割りはありませんのでご了承ください」

 と店員が言ったのを聞いて僕はこんなのをどうやってスープで割るんだよと吐き捨てようとしたがどうにか抑えた。僕は不機嫌の団子状態の友人を見てさっき何も知らずに説教した事を申し訳なく思った。隣ではラグジュアリーライズとか頼んでたらしきバカップルたちが麺一本のレギュラーサイズを注文した僕らを貧乏人めと半笑いで見ている。僕らは衆目の侮蔑と嘲笑と憐れみの視線を思いっきり浴びる中、静かに一本しかない麺を箸で挟んでつけ汁につけて啜っていった。

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