動かないこと

 動かないことこそ外部から自分を守る最善の方法だ。自分が動けば自然外部と接触する事になる。そうなったらピンで弾かれるように世界の果てまで弾き飛ばされてしまうだろう。

 今僕は暗闇の中にいる。そこで動かずにひたすらじっとしている。僕の周りには僕と同じような事を考えているであろう連中。みんなそうなんだ。この暗闇から弾かれたくないんだ。

 だが世界は僕らを明日へとせき立てる。僕らに動けと言う。今ゲートが開く。極彩色のネオンサイン。三面に並べられたアニメーション。その周りに聳え立つ無数の電柱。押し出されるように改札を出た僕らの前にガラスで縁取られたそんな低俗な現実が現れる。そして僕らは出口へと追い出される。後ろからやってくる無数の僕ら。取り替えのきく安いやつら。そんな連中が一斉に出口へと向かう。誰も動きたくないのに。誰も出口なんか出たくないのに。無数の電柱にぶつかりただ弾かれるためだけに飛び出すんだ。


 パチンコ屋でパチンコをしていた男が喚いた。彼はパチンコ球を店員に向かって投げつけて叫んだ。

「バカやろー!またかよ!おい店員!お前まさか杭に細工とかしてんじゃねえだろうな?してやがったらブチ殺すぞ!」

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