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ズルい男

私が社会人2年目の頃、友人を介してF氏という年上の男性と知り合った。

年齢は自分より4〜5歳しか変わらなかったけど「大人の男」という感じの自信と余裕を感じさせる、初めて見るタイプだった。

今はどうしているのか知らないけど、
堅いところに勤めていたから 多分そこにいるのだろう
職場でのフットサルチームのまとめ役をしているため、男女ともに交友関係が広く
F氏がセッティングする集まりがあると、友人が私に声をかけてくれた。


F氏は身長が高く 顔立ちも整っているほうだけど
芸能人のような目立つイケメンというタイプではない。

だけど、飲み会などで彼の近くに座った女の子たちは みんな骨抜きにされてしまう
あるいは 隠しても分かる感じで 彼の近くに座りたがる女子が複数いる。

蜜のような 罠のような存在

F氏が後輩男子の話をうんうんと聞いてる時は、兄弟のような温かくて信頼し合う空気が流れていて
彼が女の子と話している時は 短い雑談でも、付き合っている2人のような甘く親密な空気になる。

ちょっとした連絡といった1分程度の会話でも
F氏は男女年齢問わず、相手の瞳の奥まで届きそうな見つめ方をしながら話していて
邪魔しちゃいけないと思わせる空気を作る

相手が子供でもお年寄りでもそうしているんだろうなと思うほど 自然にそうしていて
目から蜘蛛の糸でも出ているかのように、みんなそれに捕まり 彼に好意的になる

初対面の相手なら「自分は特別扱いされてる」と思ってしまいそうなほど 一瞬で距離を縮めてしまう、人の心を掴む天才で
友人も心を持ってかれてる1人。

私は 同い年の明るくて面白い彼氏がいるし、うっかり打ち抜かれたら困るので、F氏には近付き過ぎないようにしていた。

🌙
ある夜、10人ほどで飲食した後
二次会は不参加にして 1人で駅に向かう私をF氏が送ってくれることになった。

F氏が「一緒に行くよ」と声をかけてくれたとき、照明の関係で色やディテールは見えなかったけど
「上質のコートって シルエットだけでも綺麗なんだ」と思ったのを覚えている。

歩きながら「寒くない?」などと気遣ってくれる彼に 
「そんなに無闇に優しいと誤解されるんじゃないですか?」と言ってみた

「俺が?」彼は少し驚いたような顔をして、自分は至って普通にみんなと接していると言った。
やはり天性の資質ということか。

そのあとは 音楽の話だとか新しくできたお店だとか、無難な会話をしているうちに駅に着いた。

お礼と「おやすみなさい」を言って、ホームに向かうために背中を向ける瞬間

不意にF氏が「唇が魅力的だと思った」と私に告げた

女の子がみんな捕まってしまう あの目で。

私は動揺を見せないように気をつけながら「唇だけですか?」と尋ねると

F氏は ふっと笑って何か答えたけど
ホームに滑りこんできた電車の音で 聞き取ることができなかった。

 

#創作大賞2024 #エッセイ部門


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