見出し画像

出会わなかったことのかけがえのなさ

全ての星座を知らずに一部だけ知っているときの切なさと、その一部に向けられる愛着。投壜通信を受け取ったような気になっている。

その一部しか知っていないからこそ、それらが自分宛だという気がしてくる。その一部としか巡り会えなかったことと同じくらい、その「すべて」と巡り会わなかったことそれ自体が、かけがえのない出来事のような気がしてくる。

穴だらけの、欠陥だらけの知識の、その穴の空き方、それ自体が模様として価値あるものだとでもいうような。

実際、ある模様やある絵柄を愛することは、ある欠如のパターンを愛するということかもしれない。ある文章を愛することもそうだし、だとしたら自分についてだって同じだろう。

ある出会いを愛することと、その裏面である出会わなかったことを愛すること、二つのちがいは、息を吸うか、吐くかのちがいのようだ。

二つの愛に挟まれて、空っぽになる。元いたその場所を譲る。星と星々の欠如に。

息を吸っているときにしかやってこない思いもあれば、息を吐いているときにしかやってこない思いもある。

息を止めてはじまる思い、片目をつぶらないと見えない思い、左耳を澄ますと右耳にこもる思い、左膝を曲げると生じる太ももの震えに灯る思い……

奥歯を噛んで消える思い、微笑みの端で溶けていく思い、花の香りのなかでほどけていく思い、涙のなかに秘められていく思い……

全身が夜空のように穴だらけだ。だがこんな穴だらけはここにしかない

ある考えを外にあらわすとき、いつも、そこで考えられていないことに同時に焦がれている心を留めておくこと


読んでくれて、ありがとう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?