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母になったあの日、私は自分の少女時代と決別した。

我が子も成人式を迎え、大学生活も一人暮らしもだいぶ落ち着いている。勉強も本当に頑張っている。一人でよくコツコツ頑張れるものだ。我が子ながら感心する。自炊もしっかり頑張っている様子で、「お母さん、このレシピ美味しいんだよ。」と教えてもらうほどだ。実際作ってみると本当に美味しいので何度もリピートしている。家族にも好評だ。

約20年前、私は出産した。怖がりで痛がりの私が出産したのだ。採血でさえ怖いので健康診断の時などは、何日か前からシャーペンの先で自分の左腕の血管辺りを刺してみて、痛みに慣れる訓練をするほどである。

出産。それはそれは命がけの大仕事だった。命がけなのは生まれてくる赤ちゃんも同じだ。いきんでいる途中、もう最後の方、赤ちゃんの心音がドックドック・・・ドック・・・・・・。段々遅くなっていっている様子。止まりそうな心音にお医者さんも慌てていた。「もう出すよ!」お医者さんが言うと、看護師さんが2人がかりで全体重をかけて、私のお腹を肘でリズミカルに思い切り押し続ける。ほぼ乗っかっている。それを腹筋で押し返すようにしていきむ。拷問のようなものすごい痛さだ。

「頭が見えてきましたよ!あと少しですからね!」お医者さんが励ましてくれる。私はさらにいきむ。あと少し!

赤ちゃんがようやく全部出た。急いで口の中の血液などを吸引してもらい、背中を叩かれている。呼吸が止まっているみたいだ。産声を待つ。するとオギャー!元気よく泣いたのでひと安心した。

看護師さんがすぐに私の横へ赤ちゃんを連れてきた。初めて我が子と目が合った。「出たよ!」と言っているように見えた。その後私は分娩台に乗ったまま「寒い」と訴えた。後処置をしてもらいながら毛布を掛けてもらい、疲れてそのまま寝てしまった。

その日の夜、病室には夫もいる。背後からだが立ち合い出産だったのだ。私はベッドに横になり夫はその横で私の手を握った。「よく頑張ったよ~。」夫がにっこりと優しく微笑む。

しばらくして私はなんだか涙が溢れてきた。「どうして泣くの?」夫が聞く。「ううん。」私はただ首を横に振って何も言わず、涙を静かに流す。

私は心の中で自分のこれまでの少女時代に別れを告げたのだ。もう子どもじゃいられない。親になったのだから、しっかりしなくては・・・。責任の重さを感じていたのかもしれない。自分はまだまだ未熟だが、とにかく今日から親になったのだ。覚悟と決意の夜だった。






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