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発狂大陸「成り上がりは分割せよ」

t出身k時代の話

 私は田舎のt家庭で育った。幼少期の生育環境は特に恵まれたものとはいえなかった。私の母はとにかく遊び人で、虐待などはされなかったが高校卒業までに父親が4人も変わった。名字も変わり転校も繰り返し、自分が何者何かという感覚が揺らいだ。そこで、自分の力で自分の人生を切り開くために、勉強をして県下ナンバーワンの高校へ入学を果たす。大学受験に向けて計画を進める上で、日本最高峰の東京大学を志願していたが、手に職があったほうが硬く、理系かつ専門職を選択するべきと進路指導を受けて信じた。受験は見事合格。

東京コンプレックス

 無事希望学部に合格した私。しかし、閉鎖した地方とは対照的に東京に行った高校同期達は私達に楽しそうな青春を見せつける。田舎に閉じ込められ、遠い東京という極楽浄土を夢見ながら今日もまた一日単純作業のバイトに追われる日々。加えて、選んだ理系専門学部が体に合わず、挫折し留年を繰り返すようになる。私が大学で落ちこぼれている間にも東京のかつての友人たちは人生のコマを着実に進めていく。国を動かす者、人の命を守る者、自分一人の人生じゃ決して動かせない大金を動かすもの、守るべき家庭を持つ者。高校時代は自分よりも勉強なんてできなかったくせに今では一丁前に東大を出て霞が関で額に汗を流している。自分だけが留年を繰り返し、時代に人生に取り残されかつていた超一流の道を踏み外していく。
こんなことなら東大を受けていればよかった。

大発狂の果てに、sへ

 いつまでも彼らに負けたままでいることはできない。一念発起した私は彼らに「カネ」で勝利することを決心した。ビジネス書を読み漁り、数多の起業家と話をして着実に起業の準備を進める。戦略の勉強をして一番印象的だったのが「弱者の戦略」で、簡単に言えば誰もやってないことを誰もやれない形で実現するというブランディングの確立に興味を持った。当時は留年中とはいえ学生で大学受験指導をしていたため、指導科目を「化学」に絞った。また、勉強できない子を一発大逆転により私大薬学部にぶち込むというターゲット層を決めた。さらに、こんな大逆転を目指すプランに沿ってキャッチフレーズも過激にしておきながら、一番大事にしたのは「モチベーション」だった。『がんばることはカッコいい』という王道中の王道を商品にした。塾を用意するのはカネがかかったが、200人くらい来てくれて月謝を払ってくれたので月200万とか入るようになった。同時に、何年も何年も塾をやる気はなかったし、2000人に教えるのは難しいため年収の頭打ちが見えた。
 そこで、当時、端的に儲かってそうだな、と感じたのが「過払い請求」だった。アコムやアイフルやプロミスからガンガン金を巻き上げる弁護士や司法書士を見て...正直「ダサ」と思った。ただ、消費者金融が潰れるまでボコボコにしていくことで、今まで聞いたこともなかった「司法書士」の知名度が上がっていることを知った。何なら、テレビCMなどを見て、司法書士も民事裁判ができるし債務整理ができるんだな、と知った。
 そこで気づいたのは、消費者金融はいつか枯渇するが、債務整理は無くならないだろうということ。そして、債務整理はお金にならないけど、住宅ローン支払いがキツイ人だったら不動産が絡むし大きな金が動くだろうということ。しかも司法書士は合格してすぐ登録ができて、仕事しながら裁判所研修を100時間うけると認定司法書士になって債務整理ができる。一番の決め手は、司法書士業界のメンツが「羊の群れ」であったこと。つまりは拝金主義に振り切った者も少なく、成り上がろうと決意する者も少なかった。東大生や京大生などの競合やバリバリの拝金主義者が存在しないぬるま湯エッジに、資本主義の狼である自分が飛び込んだら無双できるだろうと夢想したのは当然の成り行きだった。その流れで、司法書士を受験した。
 私はセンター試験835/900の秀才である。『武蔵理論』により、過去問を絞り込んだ肢別テキストを駆使して、司法書士試験は1桁順位で合格。即登録し、即稼ぎ始めた。1件あたり7-20万の報酬が貰えるため、あっという間に年収2000万は突破した。特に、構想どおりの住宅ローン付きの債務整理に加え、宅建業として任意売却を究めることによって売上は倍増・三倍増にした。さらに、業務プロセスを細分化して、自分にしかできないことを隔離し、誰にでもできることをランク分けして工場化した。こうすることで、大量受注大量生産が可能となった。
 もはや年収などわからなくなり、自分が欲しけりゃもらうけど使えないから新事業に再投資する循環が始まった。カネに困ることはなく、間違いなく「勝った」と思った。しかし自分を騙すことは出来なかった。

t出身kの落とし穴 決して満足することのない飢え

 ビジネスで成功を収めた私を待ち受けたのは無邪気な質問であった。「なぜ、弁護士ではなく司法書士なのか?」、たしかにそうだ。司法書士なんて大衆が知るはずもない、そんなマイナー資格を駆使して訳の分からない手法でカネ稼ぎをしている。私はいかにも胡散臭く・怪しく・どこかダサく思われたことだろう。司法書士には説明がいる一方弁護士には説明が不要だ、この強みは私のカネへの執着心をより一層焚き付けた。パッと見で分かる弁護士よりも金を稼ぐ司法書士になってやる、司法書士でしか出来ない事業体づくりをやってやる。コンプレックスを埋めるために情熱大陸に出演することも考えた。しかし情熱大陸出演経験のある友人から、「司法書士なんて地味だから」と言われて司法書士のブランド力のなさを実感。そうこうしているうちに司法制度改革で旧司法試験が消滅、もう手に入らない旧司法試験という圧倒的なブランドに対する執着心が確固たるものに。絶対に弁護士になってやると考え、当時の旧司法試験ほどではないが同じく難関資格である予備試験への挑戦を志す。弁護士資格を持った上で、あえて司法書士をやっていると周りに言いたいがための免罪符だ。

土俵ずらしで勝った気にはなるが、、、

 私が通常の予備試験受験生と異なる点は、ある種「利確」済な点であろう。予備試験なんて目指さなくても年収は四大のパートナーをゆうに超えているし、地元では司法書士として名を挙げている。多くの東大生たちよりも高い年収を稼いでいるだろうし、東大生といえども私と同じ域までたどり着ける人間は少ないだろう。そうは言っても、そうは言ってもだ、東大学部内で予備試験に合格するような「優秀」な学生に勝つことは出来ないことは自分が一番良くわかっているのだ。たとえ自分が予備試験に合格しようとも、高順位を叩き出そうとも、かつて欲しかった東大への進学や自身のかつての大学での凋落、そしてそこから取り残された高校同期たちを追い抜かすために行ってきた泥臭いビジネス、最終的に彼らを遠く引き離そうとも18歳当時の地元の大学へ進学した芋臭い私と、現在東大学部内で予備試験に合格するキラキラしたエリートたち。その超えられないブランドの壁に発狂している。ビジネスや経営で彼らに年収で勝つことは容易であろう。ノウハウもある。だがそれで勝つことはある種の「負け」を認めることになるのだ。

「利確後」に予備試験というブランドを回収する

 t出身kにとって学歴とカネの両方を得るには予備試験が一番手っ取り早い。そうはいっても、t出身kにとってその療法を一挙両得しようとするのは時間・学費・能力の面で困難であることが多い。そこで、一度資金調達手法を自身の中で確率した上で、落ち着いたときにブランドを回収したい。例えるなら東大入学後に医学部再受験をすることでブランドと金を分割して回収しようという試みである。幸いにして私は司法書士資格を手にして経済的には安定している。欲しかった安定を手にし利確する、その安全圏から予備試験を目指す。カネとブランドを切り分けて分割し計画的に回収していく。

迷えるt出身kの学生に道を提示したい

 時間もないカネもない、逆算と取捨選択が人生を分ける。そこで私は、行き詰まったt出身k達に成り上がりを分割するという新概念を普及したい。学生時代に起業をし事業の起動を確保し経営を成功させたものがその後予備試験に合格した場合失われたブランド及び社会的地位は向上が見込めるのか、同世代の学部内予備試験に合格して四大法律事務所に吸収されていった同期に比べて分割という「邪道」を用いた学生たちは10年後どのような人生を送るのか。カネのない学生に一度事業を興させて、カネのない状況では考えもつかなかったような視野の広がりや世界階層の上昇を体験してほしい。そして、私にそのようなロールモデルを検証して見せて、私の人生は間違っていなかったのだと心から安心し、後進の育成に励みたいのだ。
司法書士で人生を変えたい学生がいれば声をかけてほしい。

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