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#短編小説
プロローグ、それは本編前の前置き的なもの
「知らない」ということは、世界でもっとも美しいものかもしれない、とおもう。思い出せない記憶を辿る、前置きの日のプロローグ。約束、もしくは錯覚。事故にあうように、ファンタジー小説や映画のような、日常に隠れた断片を探そう。
photo by inaba keita
銭湯と、昭和ドキュメンタリー
湯治、という意味もあり、近所の銭湯に通い始めた。
浴場のスピーカーから流れる演歌。
水の埋め込みは、ほどほどにという手書きの張り紙。
(どうやら「埋め込み」というのは、浴槽に水を入れすぎてぬるくしないでね、という意味のよう。)
東京へ出張に行くたびに、昭和にワープするような銭湯を渡り浸かってきた。昔ながらの文化を味わえる銭湯を探すのが、ちょっとした楽しみになっている。
都会の顔をした世田谷の
なみだはミルクのにおいがする
傷つくのは、ずるい。
だって、勝手に傷ついてるだけなのだもの。
傷つけるほうは、傷つけるほうで、良いことではない、とは思うけれど。
なみだは、ミルクのにおいがする。
まくらからも、ふかふかのクッションからも、ミルクのにおいがただよってくる。
こぼしたなみだをためて、ホイップしたら、たっぷりと甘ったるいミルクケーキができそう。
ミルクをこぼしたような流れの天の川。
いきるものたちの流し
雪はやがて消えて、また春がやってくる
「あれは、ネコヤナギ。」
「木にねこが生えているの?」
いつまでも溶けない雪と春らしさのあいだで、時間がゆっくりすすむ季節。
北国の四月のはじめ。
おばあちゃんが、手をつないで、歩きながら植物のなまえを教えてくれる。
わたしは、二歳で、まだ歩くことを覚えたばかり。
ネコヤナギ、
チューリップの球根とクロッカス、
すずらん、
木苺、
アスパラとにら、
真っ赤なほおづきと赤トンボ