ゆる言語学ラジオさんの『英単語ターゲット1900』の語源企画を、ゆるく(?)サポートする、オマケ的な【ゆる補修 note】です。
はじめに
語源には諸説あります。
そこが一つの醍醐味でもあり、ときには迷路に入ることもあります。
こちらの【ゆる補習 note】では、高校生の方々が英単語の勉強で悩んだときに少しでもヒントになればいいな、という思いから「わかりやすさ」と「愉しさ」、「美しさ」を基準にしながら、語源のもつイメージを<翻訳>しました。
わたしは語源が大好きなので、みなさんと一緒に勉強ができてとても嬉しいです。
それでは【ゆる言語学ラジオ『ターゲット 1900 ④』】で取り上げられた英単語を、ひとつずつ見ていきましょう。
* 使用教材:『ターゲット1900』5訂版
(最新版は6訂版です)
< 今回のおはなし >
ゆる言語学ラジオ
「スカートもシャツも原義は「短いもの」【ターゲット1900④】#153」
*ゆる補習 note では、こちらの一覧表を使います(↓)
*注:番組に合わせて、24. cost と 30. affect は、記事の最後部にあります。
25. share [16] 切り分ける → 共有する
share は、1つのパーツでできています。
これはもともと、印欧祖語で「切る」を意味する言葉から生まれたものです。
時代が経つにつれ、これが「分け前」をあらわすようになりました。
たとえば「市場占有率」のことを、英語では market share と言います。
市場全体の中で、どれくらいの分け前を持っているのか、ということを表します。
これが後に動詞としても使われるようになりました。
■ 参考イメージ:pie chart(円グラフ)
円グラフのことを、英語では pie chart(パイ・チャート)といいます。
「パイの奪い合い」は、文字通りパイの分け前(share)を奪い合うこと。
喧嘩するほど美味しい pie (市場、利益)なんですね。
《番組内で紹介された関連語》
《ターゲット・シス単関連語》
26. wonder [8] 驚くべきこと → 驚嘆する
wonder は、1つのパーツでできています。
これはもともと、古英語で「驚きをもたらすもの」を意味する言葉から生まれました。(名詞が先で、動詞が後です。)
何かに驚いた時、ついつい「えっ、ホント?!」と思ったりしますよね。
そこから「不思議に思う」「疑う」といった意味も生まれました(多分)。
《派生語》
シッポが変われば、品詞(状態)が変わる。
《不思議な mirror(鏡) の語源》
mirror「鏡」は、ちょっと不思議な語源を持っています。
「(不思議なものに)驚く」という意味を持つラテン語からできているのです。
不思議なものを目にすると、驚きのあまりじっと見つめてしまいますよね。それが「驚く」→「見つめる(≒ look at)」という意味の変遷理由なのかも知れません。
このため、mirrorという言葉には「驚きをもって見つめるもの」というニュアンスが感じられます。
ほかにもこんな単語が仲間です。
ここで思い出していただきたいのは、英単語の上下関係です。
wonder と marvel はどちらも「(不思議なものに)驚嘆する」、
wonderful と marvelous はどちらも「素晴らしい」という意味で使われますが、
実は語源違いの同義語です。
つまり、語源によってこのようなニュアンスの違いが生まれます。
大学受験ではあまり必要のない知識ですが、この構造を知っておくと、社会人になって実際に英語を使う際にとても役立ちます。
《ターゲット・シス単関連語》
27. argue [14] はっきりさせる → 議論[主張]する
argue は、1つのパーツからできています。
「arg-」は、もともと印欧祖語では「白い、明るい、澄んだ/be white, bright, clear」という意味を持っていました。白くかがやく金属「argentum 銀」の語源でもあります。
(日本語でもなぜか「話に決着をつける」ことを「白黒つける」とか言いますね)
ここから、英単語 argue が生まれました。
《派生語》
シッポが変われば、品詞(状態)が変わる。
《番組内で紹介された関連語》
《類語 claim、maintain との違いは?》
『ターゲット 1900』には、argue の類義語が2つ挙げられています。どちらも「主張する」という意味を持ちますが、語源的には少々ニュアンスが異なります。
《ターゲット・シス単関連語》
28. realize [17] 物としてあらしめる→現実化する→気づく
realize は、3つのパーツからできています。
でもまずはこう分けましょう。
前半の「real 現実の、本当の」は、さらに2つのパーツにわけることができます。
この言葉の本質部分は最初の「re」で、ラテン語 res = モノ が元になっています。
3つのパーツが組み合わさることで、英単語の意味がうまれます。
《派生語》
シッポが変われば、品詞(状態)が変わる。
《番組内で紹介された関連語》
こちらは、古代ローマの「共和制」が元になっている言葉です。
この「国家」が republic を指すのか、nation を指すのか。いずれにしても、西洋の方達には「国家≒人々の集合体」という捉え方もあることが伝われば幸いです。
ところで、アメリカの二大政党は「共和党」と「民主党」ですが、語源的にはこのような対比構造になっています。
どちらも「(広義の)民主主義」。
「古代ローマ風」対「古代ギリシャ風」ネーミングなのでした。
※ 参考:Merriam-Webster「Is the United States a democracy or a republic?」欄(↓)
《ターゲット・シス単関連語》
29. control [15] 勘定書の巻物(控え)→ 管理する
control は、2つのパーツからできています。
この言葉の本質部分は、後ろの「rol」で、ラテン語 rotulus(rotula) = 小さな巻物 が元になっています。
ここに「方向性」を示すアタマ(接頭辞)がついています。
2つのパーツが組み合わさることで、英単語の意味がうまれます。
《日本以外の巻物って?》
少々意外かもしれませんが、地中海世界では古くから「巻物」が存在しました。
以下、ウィキペディアの「巻物」の解説より一部抜粋します。
西洋の実際の巻物は、こんな感じです(↓)。
なお、映画『アレクサンドリア(原題:AGORA)』では、4世紀ごろエジプトに存在した「アレクサンドリア図書館」に保管されていた古代の巻物の様子を垣間見ることができます。(0:04:30頃〜)
Amazon.co.jp: アレクサンドリア (字幕版)を観る | Prime Video
因みに古代の書物(巻物)には、ローラー(軸)がついているものがありました。
また「横巻き>縦巻き」のイメージですが、どちらもあるようです。
ご参考までに、19世紀に作られたローラー付きの巻物が見られるページもご紹介しておきます。
《番組内で紹介された関連語》
《ターゲット・シス単関連語》
31. find [eOE] (ふとしたきっかけで)悟る → 見つける
find は、1つのパーツからできています。
これはもともと、古英語でも同様の意味を持っていました。(名詞が先で、動詞が後です。)
これに関しては、特に目新しい発見はないため、淡々と覚えるのが良いでしょう。
《求めよ、さらば与えられん》
「求めよ、さらば与えられん」は、『聖書』の有名な格言です。
実はこのような3部構成になっています(↓)。
英語ではよく出てくる表現なので、覚えておくと便利です。
《ターゲット・シス単関連語》
24. cost [14] 一緒に立つ → (費用)がかかる
cost は、2つのパーツからできています。
この言葉の本質部分は、後ろの「st」で、ラテン語 sto = 立つ が元になっています。
ここに「方向性」を示すアタマ(接頭辞)がついています。
2つのパーツが組み合わさることで、英単語の意味がうまれます。
《コストって?》
名詞の cost(コスト)は直訳すれば「費用」ですが、「何かを手に入れるために費やすお金(の総額)」を指すことが多いです。これが動詞 cost のイメージを支えています。
たとえば商品をつくるためのコストは、「原材料費、部品費、加工費、販管費、金型償却費、研究開発費、梱包費、物流費」などが一緒になって成り立っています。そしてこれが商品の販売価格を決めるためのベース(土台)になります。
ご参考までに:Wikipedia では英語の情報の方が詳しく書かれています。
ちょっと難しいですね(笑)。スミマセン。
《番組内で紹介された関連語》
《接頭辞あり》
意外かもしれませんが、29. control にて紹介された contrast が同語源です。
《ターゲット・シス単関連語》
30. affect [15] 〜に働きかける → 影響を及ぼす
affect は、2つのパーツからできています。
この言葉の本質部分は、後ろの「fect」です。
これは、ラテン語 facio = する、つくる が元になっています。
たとえば、「ファクトリー(factory)」 は 何かをつくる「工場」です。
ここに「方向性」を示すアタマ(接頭辞)が加わります。
2つのパーツが組み合わさることで、英単語の意味がうまれます。
《派生語》
シッポが変われば、品詞(状態)が変わる。
《番組内で紹介された関連語》
《接頭辞なし》
《FAX が生まれる前のファクシミリ》
現代の日本で「ファクシミリ」といえば、ちょっと時代遅れの機械「ファックス(FAX)」を思い浮かべそうですが、実は何百年も前から facsimile(複写、複製、模写) は存在しました。
たとえば、海外オークションでは、こんな作品群にお目にかかることができます。
こういった美しい写本や複製を目にすると、ぜひとも本物を見てみたいと思いますし、複製でもいいから手元に置いてみたいという気持ちもわかります。
外山滋比古さんの『異本論』のなかに、<人間的複製>と<機械的複写>の違いについてのこんな考察があります。
わざわざ複製しようと思うものには、必ず何らかのフィルターがかかっています。
作り手の目線の先にはいったい何が見えていたのだろうか。
オリジナルのいったい何に心を動かされて、複製をつくったのだろうか。
そしてそのために、いったいどれだけの手間暇を掛けたのだろうか。
そんなことを考えるだけで、思わずため息が出る瞬間があります。
《ターゲット・シス単関連語》
まとめ
《公式》 英単語 = アタマ × カラダ × シッポ
私たちがふだん何気なく使っている言葉の多くは、こんな公式でできています。
たとえば日本語って、常用漢字を知っていると、メチャクチャいろんな言葉が読めたりわかったり憶えられたりするようになりますよね?
じつは英単語も同じなんです。
大学受験の ムズカシイ英単語は、とってもカンタンな<公式>でできています。
英単語は、おもに3つのパーツからできています。
ムズカシそうな英単語の多くは、こんなシンプルな掛け算でできています。
この行動パターンがわかってくると、英単語が格段にわかりやすくなります。
(綴りを見ただけで、意味や品詞がなんとなくイメージできるようになります!)
なぜ、この【ゆる補習 note】では、いちいち「ラテン語」を持ち出すのか。
それは、英単語にこんな上下関係があるからです。
でもね、今すぐに全部わからなくてもいいです(笑)。
オトナになって「英語を使いたい!」と思ったとき、こんな法則があったことを思い出せれば、それで大丈夫。そのとき役立つこと間違いナシです。そしてきっと「あのとき学んでよかったな」と思えることでしょう!
アタマ × カラダ × シッポ の法則 はマルチに応用できるので、
社会に出て実際に英語を使う際にかなり役立ちます!
いまでもわたしは —— 受験や仕事で、あんなに英語で苦労する前に —— この法則を知りたかったなあと、心から思っています。それが、ほぼ半世紀を生きてきた、
今のわたしの原動力です。
詳しくはコチラを見てね!(↓)
→ 使いかたが「わかりにくいなー」と思った時は、お気軽にコチラまで!
💌 【英単語の疑問&お悩み】ご質問・お便りページ 💌
オマケ
① インド・ヨーロッパ語族の系統図
英語はもともとゲルマン語の仲間。このため日常語はドイツ語やオランダ語によく似ているものが多いようです。
これに対して、英語のビジネス用語や学術用語の多くは古代ローマや古代ギリシアの知見をベースにしており、文化や概念を言葉ごと輸入したという構図です。
(日本語にカタカナ語や漢語(漢字熟語)が多いのに、ちょっと似ています。)
これがわかると、将来英語以外の西洋語を勉強するとき役立ちます!
最後に
今回も接頭辞や接尾辞の一覧表をご紹介したりしましたが、これを一字一句覚えようなんて無駄です。そんなこと、ゆめゆめ思わないでくださいね。
「あ、そんな原則があるんだ!」
ということさえわかっていれば、そのうち慣れますのでご心配なく!
この記事が、ほんの少しでも英語を楽しく学ぶお役に立てれば幸いです。
「超」長文をお読みくださってありがとうございました!
今日もどうぞ良い一日を🍀
心より感謝を込めて
夏野 真碧
<ご感想やお便りはコチラ>
【ゆる補習 note】のご感想や疑問、
英単語のお悩みやご質問など、お気軽にお寄せください。
💌 【英単語の疑問&お悩み】ご質問・お便りページ 💌
*すべてのお便りにお返事できないこともありますが、
いつも楽しく拝読しております。
ほんとうにありがとうございます!
《主な参考文献》
① 英単語ターゲット(旺文社)
② システム英単語(駿台文庫)
③ 語源辞典(おすすめ洋書)
いちばんお気に入りの語源辞典。
ターゲット②の放送ではバラけて「使えなくなった」とされていましたが、過言です(笑)。テープと木工用ボンドとカバーフィルムで修復したので、まだ1代目は現役!念のため、2冊目を購入して手元に置いてあります。
(潰して使えなくなったのは、ほかの英和辞典です!)
この語源辞典は誤植も多いのですが、内容が充実していて、ストーリーもわかりやすいので、本当におすすめです。
こちらはマニア向けですが、内容は充実しています。
こちらは柊風舎の『オックスフォード英単語由来大辞典』の原典です。
英語で OK という方であれば、こちらの方がお求めやすい価格帯になっています。
④ 英英辞典サイト
*LEXICO(Oxford 系オンライン辞書)は、2022年8月26日(金)以降 Dictionary.com に以降される予定のため、リンク切れになる可能性があります。
「Google検索画面を表示→「単語 meaning」で検索」の操作で、LEXICO とほぼ同じ内容の語釈と語源が表示されますので、ご参考になさってください。
⑤ 英和辞典サイト
⑥ 英英辞典アプリ
⑦ 羅和・希和辞典
⑧ 羅英・希英辞典サイト
シカゴ大学運営。
羅英辞典 Lewis & Short や希英辞典 Liddel, Scott and James (LSJ) が無料で調べられます。
⑨ その他(紹介順 + α)
前出の洋書『Oxford Dictionary of Word Histories』の日本語版です。
見出し語に対して訳語を掲載するなど、日本語読者フレンドリーな工夫がなされています。語源となるラテン語等の理解を深めるためには、『羅和辞典』(上記⑦参照)などを併用されることをお勧めします。
聖書の言葉を調べるときに便利なサイト。いろんな訳を調べることができますが、英語訳を調べた時は、歴史が古く一番よく親しまれている「King James Version (KJV) 」がオススメです。