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コロナ渦に思い出すカップヌードルの話

 去年の秋、台風19号が東京を襲った。その前は大阪、千葉に大きな被害をもたらすなど、異常気象が日本列島を混乱に招いていた。

 私の職場はホステル(素泊まりの宿泊施設)で、お客さんの90%は外国人だ。台風が東京に直撃する日、私は夜のシフトに入っていた。「過去最強クラス」と報道されていたので、みんなで出来る限りの備えをしていた。

 続々とチェックインのお客さんがやってくる。海外を旅している時は、どうしても現地の情報が入りづらくなってしまうので、「台風がくること知ってる?もしかしたら停電するかもしれないから、携帯は充電しておいてね」とか、「今日はスーパーが早く閉まるし、もしかしたら明日も休みかもしれないから、今の内に食べ物買っておいてね」と、お客さん一人一人にアナウンスをしていた。

 そこへ一人の男性がチェックインにきた。どこの国の人だったかは忘れたけれど、ネイティブイングリッシュスピーカーではなく、パスポートも見慣れた国のものではなかった気がするから、私のホステルにはあまり来ない中東の人だったのかもしれない。20代前半から半ばくらいだろうか。明日帰るから、成田空港に行かないといけないらしい。成田空港への行き方は、「よく聞かれる質問ランキング」の第1位タイ羽田空港と並んで、テンプレート化しているので、その説明はごく短く簡潔なものになる。

 その短い会話をしただけで、私は彼が「年齢のわりに、すごく子どもっぽい人」だということが、何となく分かった。いつからかこういう勘が働くようになった。とにかく彼にも「台風だから〜〜〜」と、みんなと同じように注意しておいて欲しいことを伝えた。

 夜になって、雨風が少し強くなってきた。玄関でカッパを着たお客さんたちが、初めて経験する台風の動画を撮ったりして、雪を初めて見る子供のようにはしゃいでいた。

 ちなみに、私のホステルで販売している食べ物は、日清のカップヌードルのみ。シーフード、カレー、そしてあの定番の赤いやつの3種類だ。いつもはそこまで売れないカップヌードルも、こんな時だからみんな2個ずつくらい買っていくので、あれよ、あれよと残りはシーフードふたつになった。

 そんな時彼がやってきて、食べ物を何も買っていないと言い出した。少しイライラしている様子だ。

「カップヌードル以外は売ってないの?」
「ないよ」
「朝食は?」
「うちは朝食出してないの。セブンイレブンで買ってきなよ」
「?!こんなんじゃ外出られないよ!」と、怒った口調で言うが、まだ台風は上陸しておらず、外に出ようと思えばまだ出ることが出来るレベルの雨風だった。

 そこへ他のお客さんが、セブンイレブンがもう閉まっていることを教えてくれた。彼は渋々とシーフードのカップヌードルを買って行った。その時夜の9時くらい。彼がチェックインしたのは確か3〜4時の間だったはず。時間はあったはずなのに、準備を全くしていなかったようだ。

「俺、まじで魚嫌いなんだ」と、開封済みのシーフードのカップヌードルを持って受付にやってきたのは、やはり彼。「他にないわけ?!」と明らかに喧嘩腰で声を荒げる。

 仕方なく、私が休憩の時に食べるためにとっておいた、サッポロ一番塩らーめんをあげることにした。さすがに私も彼の横暴ぶりにはイライラしたので、
「これ私のラーメンだから。塩味ね?エスエーエルティー!S A L Tだから!」と言って彼に渡した。彼は嬉しそうに「Thank you!」と言っていた。やれやれ。

 一緒にシフトに入っていたスタッフにこの出来事を話すと、
 「あ〜あの人ね。さっき、(玄関にある)うちの自販機見て、『コカ・コーラゼロないの?』って聞いてきたよ」それを聞いてもうため息しか出なかった。「ねぇよ!」

 昨日、髪の毛をドライヤーで乾かしている時に、ふと急に彼のことを思い出した。このコロナウイルス渦の中、彼はどう過ごしているのだろうか。きちんと備えてから、ロックダウンもしくは日本のように自粛要請に望んだのだろうか。非常時に人の本性が出ると言うが、私が感じた「年齢のわりには、すごく子どもっぽい人」というのは当たっていたようだ。とにかく私は地球が滅びることになっても、彼よりは生き延びることが出来る自信はある。

 でも、個人的にインド人と中国人には絶対に勝てないと思う。まずインド人は、不衛生に対して精神的にも身体的にも、日本人を含め大体の国の人より圧倒的に強い。そして中国人はゴーイングマイウェイで、いざとなったら手段を選ばないと思う。強いゾ、彼らは。

 さてさて、いつまでこの状態は続くのだろうかね。がんばろうね、みんな。

*写真:カップヌードルではないけれど、ラオスで食べたパッタイ

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