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私たちを待ち受けているのは第2のダスト・ボウルか?エメー・デ・ヨング『砂の日々』

1937年アメリカ・オクラホマ州。
環境を無視した耕地化によって、強大な砂嵐ーダストボウルーが発生した。政府から派遣された若い写真家の使命は、そこに住む人々の悲惨な生活の実際を収めることだったが…。
日本、フランス、アメリカなどで数々の漫画賞を受賞し、エメー・デ・ヨングの国際的な名声を確固なものにした作品。


エメー・デ・ヨング『砂の日々』
2021, Dargaud p.288 

1937年大恐慌に見舞われたワシントン。22歳のフォトジャーナリスト、ジョン・クラークは、大恐慌の煽りを受けた農民の支援を担当する政府機関に雇われる。その使命は、ダストボウルに見舞われた農家の危機的状況をカメラに収めることだった。

物語の舞台は1937年、オクラホマ州

オクラホマ州、カンザス州、テキサス州にまたがるこの地域では、深刻な干ばつと疫病、終わりのない砂嵐が原因で、住民たちが貧困に陥ってた。代々住み続けた土地を離れることを決意した者、離れたくともそこを離れられない者、それぞれの葛藤が描かれる。

主人公ジョン・クラーク。若い写真家。


 ニューヨークからやってきた若い写真家に対する農民たちの対応は親切とは言いがたいものだった。ジョンは写真を撮らせてもらう前に、まずは彼らに受け入れられように努力するも、なかなかうまくいかない。ついには、政府の発注に沿った写真を撮るために演出を加えようとしたことで、ある住民との間に決定的な溝を作ってしまう。

はじめて親しくなった一家に写真を撮らせてもらうジョンだったが…。


そんな中で、ジョンはベティという若い妊婦と出会い、絆を深めていく。彼女との交流の中で、ジョンは、経済危機によって引き起こされた人類の悲劇に気づくことになる。そうして、徐々に自分の写真家としての仕事の重要性とその限界について悩み始める。疫病が原因でベティが死んだことによって、ジョンはついにカメラを捨てオクラホマを去る決断をするのだった。


砂嵐を写真に収めようと外に出るジョン。圧巻のシーン。


オランダ文学基金の助成を受けた綿密な調査旅行に基づいて描かれた本作は、人間の経済活動のために引き起こされた気候変動とそれによって発生した難民たちを圧倒的な画力とストーリーテリングによって描き出している。

ひとつの国における過去の歴史を描いているようで、現在の世界的な気候変動の問題ともつながる将来の物語だ。また、自然災害の多い日本においても、人間の力では到底太刀打ちできない自然の脅威やその犠牲者たちの語りについて共鳴する点が多々ある。

焼けたような色彩が美しいフルカラーの作品で、約300ページと読みごがえがある。日本でエメー・デ・ヨングの知名度を上げ、この作品をいつか日本に紹介できたら、もう我が人生に悔いはない(かもしれない)。

現在、オランダでアニメ化プロジェクトが進行中。実はバーバラ・ストックの『ゴッホー最後の3年』もアニメ化の話があったのだが、資金繰りの問題で中止になったと、先日、作者のトークショーで聞いた。アニメ『砂の日々』、完成してほしい!

https://www.pulpdeluxe.be/het-verhoor-aimee-de-jongh-over-dagen-van-zand/


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