見出し画像

船のような形の「ティベリーナ島」

ローマを流れるテヴェレ川の中州ティベリーナ島。映画「ローマの休日」で有名になった「真実の口」のある教会から、対岸のトラステヴェレ地区に渡る際に通る中州です。橋を渡らなければ行けないこの不便な島に、現在、国立病院があります。それは何故でしょう。

自然にできたただの中州のように思えますが、「古代ローマ」の歴史を秘めています。

王政時代のローマ。第7代王「タルクィニウス・スペルブス」は、独裁的な専制君主でした。名前につけられた「スペルブス」とは、「尊大な」という意味です。彼は、軍神マルスに捧げられ練兵場として使われていた地「カンポ・マルツィオ(軍神マルスの練兵場)」を私物化し、小麦を栽培させていました。紀元前510年頃、この王への不満を募らせた民衆は、あるスキャンダルをきっかけに暴動を起こします。そして、「カンポ・マルツィオ」の小麦の穂を刈り取り、テヴェレ川に投げ入れました。伝説によると、それが中州を形づくり、ティベリーナ島の起源になったといわれています。(実際は土台に火山岩があるようです。)

ちなみに、「タルクィニウス・スペルブス」を最後に、ローマの王政時代は終わります。

その後、ローマが共和政に移行してから、200年強の紀元前293年。ローマでは疫病が大流行していました。ローマ元老院は、シビュラの書を参照し、医学の守護神、ギリシャのアスクレーピオス(ラテン語読みにするとエスクラピオ)に捧げる神殿をローマに建てることに決めます。そして、アスクレーピオスの聖域があるギリシャのエピダウロスから、神の彫像をローマに持ち運ぶため、その地に智者を派遣しました。すると、神のシンボルとされている大きな蛇が、贖罪の儀式が行われていたエピダウロスの聖域から出てきて、ローマ船の内部に隠れました。これは神のお告げと確信したローマ人は、まだ疫病が流行中のローマへ急いで帰ります。そして、船がテヴェレ川のティベリーナ島のところまでさかのぼった時、蛇が賢者たちの視界から消え、まるで神殿を建てる場所を示すかのように、小さなティベリーナ島の中へ入って行きました。

これにより、医学の守護神を祀るエスクラピオ神殿は、このティベリーナ島に建てられることに決まりました。建設作業はすぐに始められ、紀元前289年に完成。神殿には病人が訪れ、治療を受けるようになりました。神殿が、病院のような役目を果たしていたことは、現存する請願書や碑文などが証明しています。

考古学者ジュゼッペ・ガッテスキきによる紀元前3世紀
エスクラピオ神殿が建設されたティベリーナ島の復元図。
By Bruno1919 - Own work, CC BY-SA 4.0,
https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=101591549


この出来事を記念して、紀元前1世紀、ティベリーナ島は当時地中海で使用されていた軍船、三段櫂船の形に模されてつくりなおされました。島の中央、神殿の前には、メインマストに模されたオベリスクが建てられていました。舳先に模した大理石舗装は今でも残っています。

三段櫂船の形がよく見てとれるティベリーナ島。
Di Livioandronico2013 - Opera propria, CC BY-SA 3.0,
https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=33712239
今も残るローマの大理石舗装。
Di Lalupa - Opera propria, Pubblico dominio,
https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=387420

ローマ時代が終わり、中世前期にティベリーナ島のエスクラピオ神殿は破壊され、1000年に神聖ローマ帝国皇帝オットー三世により、その地にサン・バルトロメオ・アル・イゾラ教会が創建されましたが、教壇の近くに残っている中世の井戸は、古代、病人を治療するために使われた水と同じ水源であると言われています。

そして、現在もティベリーナ島には、16世紀に建てられたファーテベネフラテッリ病院が機能しており、病人に充てられた場所であり続けています。

テヴェレ川左岸とティベリーナ島を結ぶファブリキウス橋。
現存する最も古いローマの石造アーチ橋で、紀元前62年に架橋されました。
紀元前23年の洪水で被害を受け 紀元前21年に修復されましたが
建設以来、現代まで現役で利用されています。
2つのアーチの間にある小さな孔は 橋の重さを軽くするとともに
洪水時にこの孔に水を流すことで 橋に作用する水圧を逃すためのもの。
何も考えずに渡ってしまいそうな橋ですが築2000年以上!
古代ローマの建設技術の高さに驚嘆します。


素直にうれしいです。ありがとうございます。