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2020年に起きた「ポジティブな変化」を振り返る

2020年がもうすぐ、幕を閉じようとしている。振り返れば今年も、激動の一年だった。新型コロナウイルスの感染が拡大し、逼迫した生活を送る人々は増え続けている。ところが、再三求められてきた臨時国会は10月末まで開かれず、そして会期延長もされず終わってしまった。

首相が代わっても、説明責任を果たさない政権の体質は変わらない。むしろ会見の頻度という意味では、輪をかけて悪化している。

国会が紛糾した「桜を見る会」も「日本学術会議の任命拒否問題」も、いまだ宙に浮いたままだ。「この件、まだやってるの?」という声があがりがちだが、正確には「まだまともな説明してないの?」ではないだろうか。もちろん、現首相や元首相側、政権側が、だ。「まだやってるの?」という言葉に喜ぶのは結局、不都合を隠したい側でしかないだろう。

注目していた刑法改正も、暗雲が立ち込めている。日本の性交同意年齢はいまだに13歳だ。つまり13歳以上で性被害にあった場合、「暴行・脅迫」があったか、「抵抗できる状況だったか」など、高い立証のハードルが課せられる。この明治時代に設定された年齢が、次の法改正でも変わらないかもしれないのだ。

さらに「選択的夫婦別姓」に関しては、「現状維持」どころか「後退」した側面さえある。自民党内から「家族の絆が損なわれる」という反対意見が相次ぎ、第5次男女共同参画基本計画案から「選択的夫婦別姓」の文言は削除された。別姓という「選択肢」が増えることで、なぜ絆が損なわれるのか、同姓なら絆は損なわれないのか。根拠のない精神論がいまだにこうして立ちはだかる。

けれども視野を広げ、世界を見れば、後ろ向きのニュース一色に塗りつぶされてきたわけではないことにも気づく。ここで国内外で2020年に起こった、「ポジティブな変化」にも光を当てていきたい。

▼その1:大坂なおみ選手の優勝と、スポーツ界、企業からの声

人種差別に毅然と「NO」の意思表示を続けた大坂なおみ選手が、全米テニスで二度目の優勝を果たした。彼女のこんな言葉が今でも心に刻まれている。

Being “not racist” is not enough. We have to be anti-racist.
(「差別主義者でない」というだけでは、十分じゃない。私たちは「反差別主義者」でなければならない)

「Black Lives Matter」を掲げ、スポーツ界からも多くの声があがった。大坂なおみ選手が差別への抗議として大会棄権の意を示した8月、NBAではプレーオフ3試合の延期が発表され、大リーグでも3試合の延期が決定。これに対し大リーグ機構は、「選手の決定を尊重する」という声明を発表している。

一方、彼女のスポンサー企業が人種差別問題についてどんなコメントをしているのか、あるいは事実上コメントをしていないのかは、この記事に簡潔にまとめられている。

差別やいじめの問題に切り込んだナイキのCMが注目を集めるなど、企業も変化を求められている。もちろん、ナイキを手放しで称賛したいわけではない。ただ、差別やヘイトの問題に毅然とした態度を示す企業などの動きには注目をしていきたい。何より企業が見ているのは、消費者側の行動だ。

▼その2:女性リーダーたちの活躍、社会的マイノリティーの議員や閣僚の誕生

昨年12月に発足したフィンランドの政権に着目すると、サンナ・マリン首相は30代半ばの女性、閣僚も19人中11人が女性、国会議員の半数近くが女性だ。

そして米国では大統領選の結果、カマラ・ハリス氏が初の女性副大統領となることが決まった。来年発足するバイデン政権は、広報チームの幹部が全員女性となる見込みのほか、同性愛者であることを公表している38歳のピート・ブティジェッジ氏が運輸長官に、ネイティヴ・アメリカンとしては初めての閣僚となるデブ・ハーランドが内務長官に起用となる見込みだ。

ニュージーランドではコロナ対策でアーダーン首相がリーダーシップを発揮したほか、10年前にエリトリアから難民として逃れてきたオマー氏が、アフリカ系初の国会議員に選ばれた。

日本の内閣は、ジェンダーの観点からも年齢からも「多様性」が乏しいにも関わらず、日本学術会議など他の組織の人選には「多様性に欠ける」を「口実」に介入してきた。こうした国外の動きから、もっと多くを学べるはずだ。

…ここまで書くと、国内はどうなるのだろうかと益々不安に駆られそうだが、日本でも注目したい動きがある。

▼その3:検察庁法改正が止まった

今年1月31日、政府は黒川弘務東京高検検事長(当時)の定年延長を閣議決定した。1981年の政府答弁では、国家公務員法の定年延長は検察官には適用されないとしていた。これについて問われた首相は、「今般、解釈を変えた」と答弁。ところが「法解釈変更」という非常に重大な経緯を示した文書を、森法務大臣は「口頭決裁で問題ない」としたのだ。その「協議文書」には、日付さえ記されていなかった。

そして「国家公務員法等の一部を改正する法律案」に含まれる検察庁法改正案には、こうした不可解な経緯を後付けで追認するかのような「特例措置」が盛り込まれた。法案では「役職定年」を導入するとしながらも、内閣や法務大臣が認めた場合、例外的に延長することも可能という規定を設けており、検察官の独立性、中立性が現状よりも損なわれる恐れがあった。

つまり、政権にとって有利な人物がその役職に留まることを認められ、反対に政権に不利益な捜査を行う検察官は定年延長が認められない、ということも起きかねない。そのような状況で本当に検察官は、政権の顔色を窺うことなくまっとうな公務を行うことができるのだろうか。

コロナ禍で、どんな政治家を選ぶかが、どれほど人の命を左右するのか、改めて痛感した人たちも多かったはずだ。そんな最中の改正の動きに、 #検察庁法改正案に抗議します というハッシュタグと共に、抗議の声が一気に広がった。

この改正案に対しては、多くの著名人も声をあげている。

「スポーツ選手は」「芸能人は」政治に口を出すな、という”タブー視”は根強いものの、それがが際限なく広がっていけば「政治家以外、政治に口を出すな」となってしまう。さらに、真正面から質問に答えない政治家もいるのだから、「政治家さえ政治に口を出さない」に行きついてしまう。「そして誰も語らなくなった」が、誰を利するか考えたいところだ。

その後、黒川氏がメディア関係者と賭け麻雀をしていたことも報じられ、この検察庁法改正案は成立が見送られた。

▼その4:全国初の刑事罰付きヘイトスピーチ禁止条例が川崎で施行

川崎市では昨年12月に、全国で初めて刑事罰付きの「川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例」(ヘイトスピーチ禁止条例)が全会派賛成で成立し、今年7月に全面施行された。

川崎は在日コリアンをはじめ、多様なルーツの人々が暮らす街だ。ヘイトクライムを繰り返す集団が、度々そんなコミュニティーの襲撃を試みたり、駅前で街宣を繰り返したりと、差別の矛先を向けられてきた。ところが、そんなヘイトクライムに歯止めをかける法体系がこの国には乏しい。

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(2020年9月20日、川崎駅前の街宣に集ったカウンター(差別に抗う人々)の中に、手作りのプラカードを持った高校生の女の子がいた。)

川崎市で刑事罰付きの条例が施行されたことで、ヘイト街宣自体が止まったわけではない。ただ街宣の内容は、条例が定める禁止条項にあたらないよう、以前よりも抑えたトーンとなっているのは確かだ。

この条例が「表現の自由」と天秤にかけられて語られることがあるが、むしろ「表現の自由」のためにこの条例があるのではないだろうか。差別が野放しになれば、矛先を向けられた人々は命の危険さえ感じ、街宣が行われている駅前を避けたり、「目立たないように」と声をひそめ沈黙せざるをえなくなる。「表現の自由」は「差別する自由」ではない。

現在、神奈川県相模原市でも同様の条例が検討されており、今後の広がりにも注目していきたい。

ただ、運用面での課題は残る。条例はできて終わり、ではなく、市民の声で育んでいくものだ。そのための署名活動が今、オンラインでも続いている。

暗澹たる気持ちになる出来事が多かった2020年だが、一歩一歩、少しずつ、けれども踏みしめるように進んできたものが確かにある。

「よりよい社会」は待っているだけの受け身では築けない。絶望している場合ではない。大切なのはこうして社会の中で生まれてきたポジティブな芽を、どう来年も育んでいくかではないだろうか。

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▼私的ポジティブ変化:ドラマ「愛の不時着」にはまる

これはせやろがいおじさんとの配信でほぼ語りつくしたことかもしれません…。

ドラマをほぼ観ない私が、南北がどのように描かれているのか、という興味で見始めた「愛の不時着」。日本のニュースが隣国を大きな主語で語りがちな中で、このドラマはそこに、血の通った一人ひとりが生きていることに想像を及ばせてくれた。

はまり込むほどに、互いを思う二人の間に立ちはだかる、軍事境界線の理不尽さが突き刺さる。もちろん、こうした分断を生みだした背景に、日本の植民地支配があったことにも思いは行きつく。

同じようにこのドラマを何巡もしている友人たちの中には、歴史の勉強会を自主的に開いたり、研究を始めた人もいる。カルチャーがこんな風に作用することがあるのか、と改めてその力に気づかされた。

加えて、ジェンダーの観点からも、「女性はこうあれ」「男性はこうあるべき」がごり押しされているわけではなく、安心して観ることができた。

私が取り組んでいる「写真」もまた、カルチャーのひとつだ。どんな写真を撮るのか、ということはもちろん、その写真を何のために用いるのか、を常に問いながら、2021年も活動を続けたいと思う。

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