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【後編①】地域に根ざした食料システムとは?

こんにちは。池田です🍰🍵
そして最近食べて幸せが溢れた、パリ3区にあるBoulangerie Utopieのケーキです。

今回も、【前編】地域に根ざした食料システムとは?の続編です。なぜローカルはサスティナブルなのか?でお送りします。

前回に引き続き、食料システムの中でも、農畜産に限った視点から話を進めたいと思います。
ご了承ください。

ローカルがサスティナブルな理由
命を軽視しない

「人間=労働力」のシステム

まずはじめに、皆さんは、グローバル化した食料システムを覚えていらっしゃるでしょうか?

「出来るだけ経営規模を広げて大量に生産した商品を輸出すること」また、それにより「収入を増やすこと」という前提を持った食料システムです。

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そもそも、市場経済の仕組みとして、労働、土地そして貨幣がお金で価値を測られるようになった頃から、行き過ぎた資本主義は始まります。(経済学者カールポランニー『大転換』に依拠しています。)

このシステムの中で無視されるのは環境だけではありません。「生命」をも軽視されるのがこのシステムと言われます。

労働の商品化は、人間の死をもたらします。

人間が商品として扱われるようになり、激しい労働による疲弊や飢餓などに脆弱になることで、人間を死に追いやるということです。

Web大学アカデミア カールポランニー【大転換】をわかりやすく説明する

つまり、農家や食品加工業に従事する労働者が、単なる労働力として「雑に」扱われるという事例がグローバル化した食料システムでは頻繁に見られるのです。

2つだけですが、顕著な例を挙げて、説明したいと思います。

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①借金まみれの農家・インド🇮🇳

(綿花農家についてです。食料ではないですが、グローバル化したシステムに組み込まれていく農家に着目しています。)

インドでは、「緑の革命」と呼ばれる農業の改革が国の主導で行われました。これは、南米で品種改良された新たなハイブリッド種と呼ばれる種子を導入することで、国を挙げて作物生産量を増やそう儲かる農業を推進しようとする政策転換でした。この種子と同時に、化学肥料や農薬の導入も盛んに行われました。

Global News View: インド:綿花生産者が直面する貧困の背景には?より引用)

その際農家にとって必要だったのが、資材購入のための借金です。それまでの農法においては必要のなかった費用がかかるようになったのです。

更に追い討ちをかけたのが、遺伝子組み換え種子の導入でした。謳い文句とは逆に、害虫や病気に弱く、毎年多くの薬品が必要になりました。この資材購入により、農家の借金は積み重なっていくことになりました。

歴史的な背景が気になる方は、ヴァンダナ・シヴァさんの本『Stolen harest(食糧テロリズム)』 がおすすめです。

この「借金を返すことのができなくなった農家」が、皮肉にも、購入した殺虫剤を飲んで自殺するというケースが、インドでは後を絶ちません。インドにおいて、グローバル化したシステムに苦しめられる農家はこのような状況にあります。

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②食肉加工場の労働者・アメリカ🇺🇸

皆さん、マクドナルド経済、あるいはマクドナルド化した社会という文言をご存知でしょうか?

マクドナルドの経営システムは、経営学的に見れば画期的な発明ですが、グローバル化批判の観点からは「命を軽視する仕組み」であると、私は考えます。なぜなら、労働者としての人間、あるいは商品としての動物、という視点がシステムを動かす軸になっているからです。

よく例に出されるのは、マクドナルドの画期的な経営によって一般化した食肉加工場です。そこでは動物の命を軽率に扱うだけでなく、働く人たちの人権を侵害するような環境(例えば亡くなったり怪我をするといったような)が平気で存在しています。

このお話をするのはあまり気乗りしないので、気になる方々には、『マクドナルド化した社会 果てしなき合理化のゆくえ』『貧困大国アメリカ』等の文献をお勧めします。
また、動物の権利の概念に関しては賛否両論様々ですのでここでは省略させてください。

コロナ感染症が瞬く間に広がった場所のひとつに、人が密集し閉鎖的な空間である食肉加工場があったそうです。

BBC News Japanより引用)

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これらの例は、グローバル化によって粗末に扱われることになった人間や動物の様子を顕著に表しています。

ローカルだとなぜ「命の軽視」が緩和・解決されるのか?

グローバル化による経営規模の拡大は、結果的に「命の軽視」を社会におけるスタンダードにした、と私は考えています。これは食品産業のみならず、すべての産業において言えるかと思います。

地域に根ざした食料システムは、これを正常に戻す役割を果たしてくれます。なぜなら、生産者や加工者との距離が近いからです。

「みんな」でつくるシステムが重要なのはこの点においてです。ここで補足ですが、私が「地域」と呼ぶのは、人と人が物理的にも心理的にも近い範囲のことです。この地域において、命の軽視が起こることは少ないでしょう。なぜなら、みんなが知り合い同士だからです。

また、前回の投稿でも触れたように、流通コストの削減事業の多様化(6次産業化)により、一般的に低収入と言われる農家の経済状況を向上できる可能性も秘めています。これも、(大袈裟かもしれませんが、)最終的には命の尊重に繋がるのではないでしょうか?

動物の命」について考える機会も増えるでしょう。なぜなら、食べものになる動物たちが身近に存在するからです。(どこまで近くできるのかは地理的な条件に寄りますが、日本で生産された牛肉は少なくともアメリカ産よりは近くなるかと思います。)

東京都農林水産振興財団サイトより引用)

例えば、農家、学校、地域の団体が協力し、子どもやその親、さらには地域の人々全体が食や農に触れ合う機会を提供することで、社会を知り、倫理観を養うことができますね。

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細かい点がいくつも抜け落ちているかと思いますが、社会的倫理的な観点から地域に根ざした食料システムを議論する際には、上記のような点が挙げられます。

地域に根ざした食料システムは最終的に「生きるもの全てに優しく」あるべきだと、私は考えています。

それは究極の理想であって、現実的には、「稼ぐ」と「守る」のバランスを取ることは非常に難しいです。

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ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございました。

既に3本を全部読んでくださった方、もう既に優しさで溢れています。素敵です。

次回は、後編②と題しまして、グローバル化した食料システムと健康面のかかわりを取り上げていきたいと思います🥗🏃‍♀️🐓

お楽しみに!

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池田夏香:パリ第10大学(Université Paris Nanterre) / 地理・都市政策・環境学部(Géographie, aménagement et environment) / 農的な場や地域の振興に関わる分野を専攻しています。(Nouvelles ruralités, agricultures et développement local)

プロジェクト/インターンシップ:イルドフランス国立自然公園における農法の転換と水質汚染改善へ向けたコンサルタント(Consultancy for the sustainable transition of agricultural production systems to improve water pollution in the Vexin-Française Natural Park in Ile-de-France) / インド ポンディシェリにおける地域食料システム構築プロジェクトでのインターンシップ(Research internship for local food system in Pondicherry, India)/ 長野県 岩野地区堤外農地における浸水と農家のレジリエンス調査(Community practices of the Japanese agricultural village: Evolution of factors of resilience and vulnerabilities in Iwano, Nagano prefecture)

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