【日記】私にとっての豊かさとは何か。
大学院生になって間もない頃、全学科共通の環境問題を扱う必修科目の授業がありました。
私は学科にたった1人のアジア人で、教室はぎゅうぎゅうにもかかわらず私の隣の席は毎回ひと席空いていました。
その日、遅れて授業にやってきた彼女は、私の隣の空席に座りました。
そして、「こんにちは、名前は?」と話しかけてくれました。
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彼女の名前はエイミー。フランスには珍しいアメリカからの留学生で、フランス語はペラペラ、凛として綺麗で背の高い、完璧な女性でした。
留学生同士で意気投合し、その後のクラスでもよく話をしたり、宿題を助け合ったりしました。
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半年ほど経った頃、エイミーは学校に来なくなりました。
彼女と連絡を取れる人はおらず、誰も退学の理由は分かりませんでした。
でも恐らくそれは、お金が無かったから、だと思います。
実は私は、アクシデント的に、エイミーが授業中に自分のネットバンキングで口座残高を確認しているところを見てしまったことがありました。
その時のエイミーの口座残高は、結構な額のマイナスでした。
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最近の私は、自分の今の収入だけではやっていけなくて、貯金から毎月食費や光熱費を捻出しています。
贅沢はしていないのに、給料日前には「苦しいな」と感じてしまうこともあります。
そんな時、いつも、エイミーのことを思い出します。
そして彼女のことを思い出すたびに、「お金は豊かさを得る手段であって、豊かさそのものではない」と感じます。
なぜなら、彼女の周りにはいつも人が溢れていて、いつも楽しそうに笑っていて、みんなが幸せだったからです。
彼女はあの頃、お金が無かったのだろうと思います。だけど私には、彼女が、お金に困っていなかった私よりも豊かであるように見えていました。
あの時、彼女はどんな気持ちで過ごしていたんだろう。
豊かさって、なんだろう。
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今住んでいるアパートのお隣さんは、私同様屋根裏部屋に住んでいて、お節介なフランス人マダムです。
失礼ではありますが、彼女の生活は決して「お金持ち」のするような生活では無いと思います。「普通に」働いて、「普通に」生きている。
身の丈にあった暮らし。
でも、彼女はとても、それはそれはとてもとても、毎日楽しそうなのです。
ご近所さんとおしゃべりし、歌を歌い、DVDコレクションを鑑賞し、絵を描き、ギターを弾いて。水曜日の朝は決まって、アパートの下にあるレストランでコーヒーを飲んでいます。
彼女が自分の暮らしについて文句を言っていたのは、部屋に蟻やネズミが出たことぐらいで、いつも明るい。
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私は料理が好きなので、珍しいものを作るたびにそのお隣さんにお裾分けをします。
すると笑ってしまうくらい、2倍にも3倍にもなって、返ってきます。珍しい調味料や、野菜や、魚の缶詰や、実家の地方で有名なパスタや。手紙、着なくなったお洋服や自分の描いた絵なんかも。
昨日は寝る前に共同のトイレに行くために部屋を出たら、卵が二つ扉の前に置いてありました。ありがたい。
今朝、ついに私の部屋の扉のわきに釘を打ち込んで、袋を下げられるようにしていました。
「これで床にものを置かなくて済むわよ」
2人で物々交換し合う時間は楽しくて、2人とも大笑いして、ありがとう美味しい嬉しいありがとうって何度も言い合います。
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豊かさって恐らく、このことなんだろうな、と、思います。
エイミーも、お隣さんも、楽しくて幸せそう、なんです。
エイミーのおかげで、私は交友関係が広がり、学校が楽しいと思うようになりました。今もし彼女に会えるなら、ありがとうと伝えたい。何かお礼がしたいし、必要なら助けたい。きっとその気持ちだけで十分だと言われるのだろうけれど。
お隣さんのおかげで、収入の少ない日々でも毎日楽しく、美味しいものを作った日には「気に入ってくれるかな」とワクワクできます。今、隣に住んでいるうちに、出来るだけ沢山の感謝を表現したいです。贅沢なものは手に入らなくとも、身の丈に合った何かで恩返しをしていきます。
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これまで私の心を豊かにしてくれた全ての人にありがとうを伝えたい。
巡り巡ってみんなが豊かになるように、私は感謝しながら今を生きること。
エイミーがどうか元気でいてほしい。
またどこかで会えますように。
ナツカ
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