Aoi

小説や詩などをのんびりとあげています。

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  • 【短編集】パレット

    絵の具の色を題材にした短編集です。

  • 【詩】まとめ

    創作した詩をまとめています

最近の記事

【小説】レモンイエロー

※この物語はフィクションです。細かい設定は実際と異なるものがあります。 少し寒気がして目が覚めた。かけていたはずの毛布が丸ごと床に落ちている。時計をみると6時を回ったところだった。60をすぎた頃から、目覚ましなどは必要ないほど朝はよく冴えるようになった。 いつも通りクローゼットの一番前にあるワイシャツとズボンを選ぼうとして、ふとネクタイがないことに気がついた。いつもは妻がネクタイも選んでYシャツにかけておいてくれるが、忘れたのだろうか。 「おい」 私は階下の台所

    • 【詩】盾

      誰かが盾を構えた時 盾はその人を守ると約束する 盾があるから大丈夫 そんなお守りになる 構えられた盾を誰かがみた時 盾は私を打てと言う 盾があるから攻撃できる そんな標的にもなる 規則法律制度 誰かを守るための約束 守られるべき誰かは 守られていると非難される 苦しむ人を助けたい そう願う若者は 誰もが苦しむなかで 誰を助けるのだろうか 守られたはずの誰かは 庇護を妬む人に罵られ 穴の空いた盾をみせながら 銃弾を受けても生きている もし

      • 【小説】ヒーローは卒業しない

        “※この物語はフィクションです。細かい設定は実際と異なるものがあります。” 今日は目覚ましよりもずっと前に目が覚めた。部屋の電気を付けると、朝の5時前だった。6時にセットしていた目覚ましを止めて顔を洗い、コーヒーをレンジで温めて飲むと、いくらか頭が冴えてきた。 あえて暖房を付けない部屋で縞半纏を装備した俺は、机という戦場に向かった。昨日の俺からの挑戦状は、机の上にきれいに並べてあった。家を出るのは6時10分。朝食は歩きながらでいいや、40分で区切りを付けよう。 自分と目

        • 【小説】モーブ

          ※この物語はフィクションです。細かい設定は実際と異なるものがあります。 スクランブル交差点の青信号が、また赤信号に変わった。もう何度もこの青と赤の交互の点滅を眺めているだろう。いつもならはやく変わらないかとイライラするほど遅いのに、今日はやけにはやく感じる。渋谷の街は明るく誰でも受け入れる。それは平日のこんな真っ昼間でも同じことだ。そんな懐の広い空気が大好きだった。渋谷には好きなアニメのグッズもたくさんあるし、300円で食べられるピザ屋は親友の茉凛との行きつけだ。だが今は"

        【小説】レモンイエロー

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        • 【短編集】パレット
          6本
        • 【詩】まとめ
          5本

        記事

          【小説】183日後の僕ら ~下~

          “※この物語はフィクションです。細かい設定は実際と異なるものがあります。” ****** 11月も何日かすぎた頃、今日は研究会の忘年会にきていた。 近くの公園で、なんの花も咲いていないのにレジャーシートを広げてコンビニのご飯を並べていた。気温が高めの日とはいえ、11月だ。外で飲み会をするような馬鹿どもは俺らのサークルぐらいだろう。各々がマフラーやダウンを着てしっかり防寒対策をしていた。 飲めるやつと飲めないやつがごちゃごちゃに混ざって、ジュース飲んでるのかアルコール飲

          【小説】183日後の僕ら ~下~

          【小説】183日後の僕ら ~上~

          “※この物語はフィクションです。細かい設定は実際と異なるものがあります。” … …… 『届くといいなーなんて、思わない。 私の思いは全部ここに書くだけ。誰にも伝わらなくていい。 伝わってしまったら、世界が終わってしまうような気がするから。』 …… … ****** 「長屋ぁー、学食行こうぜ」 「おぉ、ちょっと待って!」 その日は冬の始まりを告げようと風が冷たくなりはじめた時期だった。急いでいた俺は長机いっぱいに広がった資料や本、ペンなどをとりあえずかき集

          【小説】183日後の僕ら ~上~

          【詩】センシティブ

          これみて 悲しいよねひどいよね 許せないよね どこがだろう これみて 面白いよね素敵だよね ほっこりするね どこがだろう 罪深いカロリーの夜食 子供の日常 スラッと痩せた人の踊り 誰かの萌は誰かの鬱 1個しかなかった気持ちが 10秒で10個に 1時間で3600個に 1日もあれば86400個に増えていく 幸せは何倍にも増える 幸せが幸せを呼ぶ 怒りも何倍にも増える 怒りは怒りと興味を呼ぶ ただつぶやいただけ ただの思い付き その独り言

          【詩】センシティブ

          【詩】アフタースクール

          挨拶は聞こえなくても チャイムの音は聞こえる 後ろから怒鳴る教師の声は 聞こえないふりをする そこだけ空気が違うんだ 渡り廊下を抜けて 最初にドアを開ける 一等賞の僕だけが知る時間 寝静まっていた埃たちが あわてて散らばって うたた寝していた空気が 部屋の外へと逃げ出していく 僕は勢いよく吸い込んで 我が物顔で突き進む 後ろからは仲間の走る足音 ここからは僕らの時間だ

          【詩】アフタースクール

          【小説】15光年

          ※この物語はフィクションです。細かい設定は実際と異なるものがあります。 「ねぇ、星って独りなんだって。地球からみたらお隣で仲良くしてるみたいに見えるけど、ほんとはすごく離れてるんだって。」 ****** なぜ最近、あいつの事を思い出しているのだろう。 こんな真っ昼間に、星も見えないのに。 「ゆきちゃんせーんせーい」 振り返ると、先週が期限のはずの夏休みのレポートを持った学生が立っていた。 「ぼーっとしちゃって、夏休みボケですか?」 「ボケてるのはお前の方だろう

          【小説】15光年

          【小説】コバルトブルー

          ※この物語はフィクションです。細かい設定は実際と異なるものがあります。 __________ その昔、源氏物語の主人公で数多くの女性の心を射止めた光源氏だが、彼をもってしてもなびかなかった女性がいた。名を空蝉という。心こそ揺らぎながらも最後まで光源氏の誘惑にのらなかった空蝉は、遥かに年上の相手に嫁ぎ仕え、心を許す人もなく尼となり生涯を終える---。 『空蝉の 身をかへてける 木のもとに なほ人がらの なつかしきかな』 -光源氏- (あなたは蝉が殻を脱ぐように、衣を

          【小説】コバルトブルー

          【詩】Over easy Not easy

          目玉焼きは両面焼きだよね ケチャップはかけないと マスタードもいるよね 「じゃあ私も」 映画館にはポップコーンだよね エンドロールなんて無駄だよ パンフレットみればわかるじゃん 「そうなんだ」 花なんてもらってどうするの? すぐ枯れるだけじゃん 君は消えてしまうものにお金かけるの? 「でもきれいだよ」 掃除機は毎朝かけてね トイレとお風呂の掃除も朝がいいな 毎日きれいな朝でいたいんだよね 「そうかもね」 『美味しそうに食べる君が好き』 『新鮮

          【詩】Over easy Not easy

          【詩】早生柿

          私が貴方に会う時は 必ずこの青と赤のチェックのマフラーと お揃いの手袋をつけましょうね 夢で貴方に会えた時 きっと想いを伝えましょう 必ずだよ、約束よと そういってか細い指で 指きりげんまんしてくれたろう ああどうして一度も 私の元へ来てくれないのですか 起きている時はいつでもどこでも 私が貴方ばかり想っているものだから 恥ずかしくて出てこれないのでしょうね 私が寝ているときならば 貴方も少しは会いに来れるだろうに そろそろお腹はすきませんか

          【詩】早生柿

          【小説】ビリディアン

          ※この物語はフィクションです。細かい設定は実際と異なるものがあります。 【side 柚葉】 その日は、秋らしい秋の日だった。 オレンジ色に染まった楓の木の下のベンチは、私の特等席だった。放課後のこの辺りは人気がないので、薄暗くなるまで私は一人で普段ここを独占していた。その日も私は家に帰る気にならずいつもの場所へ向かったのだが、珍しく先客があった。 ベンチの背もたれには触れないまっすぐな背筋。ぴったり揃えた足に履かせた焦げ茶のローファーはぴかぴか。ふくらはぎの中間まで折

          【小説】ビリディアン

          【小説】イエローディープ

          ※この物語はフィクションです。細かい設定は実際と異なるものがあります。 風が少し開けた窓をすり抜けて、カーテンを揺らす。 『なにぼーっとしてんだよ』 『もうくすぐらないでよ』 あの子、あんなこと言いながらも楽しそう。 私もそばの席だったらよかったのに。そうしたら一緒に風にくすぐられながらカーテンと笑い合えるのに。羨ましい。 「…さん。…山吹さん?」 「あ、すみません…」 「36頁の主人公の気持ち、あなたはどう考えましたか?」 あまんきみこ、という人の『ちいち

          【小説】イエローディープ

          【小説】バーミリオン

          ※この物語はフィクションです 細かい設定は実際と異なるものがあります。 漆の独特な匂いが嫌いだ。 大抵の人間は漆になど縁がないはずだ。好きか嫌いかも考えたことがないだろう。だがこの村は過半数の家で工房を抱え、漆商品を扱っている漆が名産の村だ。俺の家ももれなくそうで、祖父がたった一人でいまだに工房を持ち、ごっつい手で細々と金になるとは思えないものを作っている。漆製品は基本高く値段を設定しているが、この村では売れるのは突出した職人技とデザインによって作り出された代物だけだ。祖

          【小説】バーミリオン