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いちごみるくとアオハル

現在、自己隔離の日々を過ごしている。母親は、「乳製品が免疫を強める」ということを過信しているらしく、毎日ヤクルトとヨーグルトを運んでくる。まあ、健康を意識するに越したことはないが。このご時世は特に。そんな中、ふと昔のことを思い出す。

高校の自販機で売られていたイチゴミルクのことである。あら、これも"乳製品"だった。

私が通っていた高校には、3つの自動販売機があった。そのうち一つがyakult専用の販売機で、そこで買えるイチゴミルクが生徒の間で人気だった。
値段は100円。お手頃価格。購買にお菓子がなかったので(ちなみにパンもなかった。今振り返ると奇妙である。)甘いもの部門でイチゴミルクはダントツ優勝だった。怒涛の授業で疲労した頭を復活させるためにも、イチゴミルクは「いのちのみず」だった。そして残暑の残る9月、体育で火照った身体を整えるのにもイチゴミルクは万能だった。乾いた喉に広がる、冷たくて甘くて、でも少し酸っぱいあの味。可愛い女の子が休み時間にイチゴミルクを飲む姿はとても絵になった。もちろん男子にも人気だった。だから、教室を見渡せば毎日誰かがあのピンクのパックを机に置いていたものだった。そう、イチゴミルクは誰かの日常のとなりにいた。

私もヘビーユーザーとは言わないが、好んで飲んでいた。地獄の定期考査の後のご褒美に。忙しい部活を乗り切るために。自分の辛い時の傍らにいてくれる「こころとからだの栄養ドリンク」だった。

そんな私も高校を卒業し、生徒からOGになった。去年の夏、母校の吹奏楽部のOBバンドがコンクールに出場することになり、自分も参加を決めた。練習は、あの懐かしい母校。あのイチゴミルクを売る自販機も健在だった。
懐かしくなって、練習前に買ってみた。横についているストローを取って差し込む。そして飲む。あまい。自販機は日陰にあり、涼しい風がたまに流れてきた。誰かが音出しを始めた音がかすかに聞こえた。昔に戻った気分だった。
それと同時に、あの頃の自分と今の自分を重ねていた。正直、自分の大学生活に自信がなかった。あの頃のように明らかに生産的とはいえない日々。あの頃のように正解がないことへ向かい続ける日々。そんな日々が不満だった。
でも、世の中は正解のないものだらけ。「大学に行くための勉強」と「部活」を一生懸命やって結果を残せば正解みたいな高校の世界が異質なだけだった。そう、このイチゴミルクが王者だったように。認めなきゃいけない。この社会を。

ごくりと飲み終える。さあ、練習がんばるか!と音楽室へ戻る。そして、虚像の正解を掴むために生きていた女子高生から自分なりの実像の正解を掴むために生きる1人の人間に戻る。

そんな、夏の昼下がりであった。



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