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食事、恋愛、ゲーム、サッカー

"趣味はサッカー観戦。毎週スタジアムに行っています。"

そう言える自分も数年前まで極度のインドア、仕事終わりも週末もゲームばかりしていた。

きっかけは19歳。

高校生の頃始めたダイエットの歯止めが利かなくなり気付いた時には拒食症になっていた。

158センチ29キロ。

働けるわけもなく退職し、暗い部屋で眠ることなく24時間食べ物とカロリーのことばかり考えていた。

人生のどん底だと思っていた。

ただ地獄はそこではなかった。

待っていたのは"過食症"。

栄養が枯渇していた身体は生きるために食事を求め、体重はあっという間に平均を超えた。文字通り死ぬ気で痩せたのに、その先には1番嫌悪していた自分の姿。

生きる価値がないと感じ、食べたことを後悔し、極端な食事制限をしては反動で過食する日々を繰り返した。

引きこもりが悪化し、食事に執着する時間を少しでも減らそうと始めたのがゲームだった。

オープンワールドにのめり込み、好きな作品は何周もした。

バイトや派遣、少しずつ社会復帰し、そのうちオンラインゲームに手を出した。

話題のFPSはボイスチャットを通して色々な人と会話ができる。プライベートで人と接することがない自分はその環境に依存し、ゲームで知り合った男性と意気投合して毎日話した。

知り合って1年が経った頃、彼から会いたいと伝えられる。

自信がなくて会いたくないのが本音だったけれど、コロナを言い訳に先延ばしにするのも限界があり、夏には彼がこちらに来た。

醜い容姿を見られれば関係は終わるという不安は杞憂に終わり、2回目の誘いを受け2020年の冬に遠距離恋愛が始まった。

4つ下の彼は女性経験がなくひたすらに優しかった。

デートは数ヶ月に1度でも、毎日ゲームや電話で声が聞けるし、容姿と食事に悩む自分にとっては頻繁に会うより負担が少ない。

彼との出会いでまた可愛くなりたいと思うようになり、少しずつ外に出て疎遠だった友達との縁も戻った。

ただ、時間と共に彼の優しさに甘え、依存と執着で彼を苦しませることも増えた。

交際から2年が過ぎたGWの金沢旅行。前乗りし、観光を翌日に控えた宿泊先の夜。

1番楽しいはずの時間にふたりの関係に終始符が打たれた。

別れた男女が思い出を作る必要もなく、翌日は駅前をぶらついて昼過ぎには解散。

GW最終日、金沢から東京行きの新幹線の乗車率は全国トップ。指定席の通路まで埋まり、心よりも身体へのダメージが大きかった。

翌日からは別れたことを実感する日々が続き、しばらくは眠ることも出来ず毎日泣いた。

1年近く引きずり、少しずつ彼を考えない時間が増え、ゲームからも遠ざかった。

アプリで新たな出会いを探す余裕も出てくると、古くからのゲーム友達Yさんからサッカー観戦に誘われた。

Yさんとは出身地が同じで、SNSに時々上げるスタジアムの写真に興味があることは伝えていたので、勢いのまま行くことを決意。

結果。

サッカー観戦の虜になった。

画面越しではなくスタジアムでしか感じられない熱気と歓声。

魂が震えた。

人目を気にして何年も殻に閉じこもり、容姿と食事に左右される人生。今もそうだ。でも、スタジアムでは何万人もの人々がピッチだけを見てたったひとつのゴールを願っている。歌っている。

自分だって、サッカーの知識なんてまるでないのにこの時だけは夢中になってピッチを見ていた。

それからYさんとは度々サッカーを観に行き、同時に新たな出会いや別れもあり、忙しない日々の中でゲームは押し入れに片付けられた。

春がおわりかける頃。

Yさんと何度目かのサッカー観戦に行った帰り道、3回目のデートで終わりを迎えた男性の話しをしていると、Yさんは黙り込んだ。

元カレと別れてからこんな話しは何度もしていて、今更何が気に障ったのかわからず解散したその日の夜、メッセージが届いた。

数十行に渡るその文は今日の態度の謝罪から始まり、最後は『男の話をしないでって言ったら俺の存在価値なくなると思って我慢してました。今はもう、嫉妬で我慢するのが辛いです。幸せになってもらいたいけど、なってもらいたくない複雑な気持ちです』という言葉で終わっていた。

わたしに気持ちがない以上このまま遊ぶのも気が引けて、しばらく離れようと伝えるも、Yさんは友達でいいから離れたくないと訴えた。

話し合いは数日間繰り返され、最後はほぼ一方的にYさんとの関係を絶った。

サッカーはひとりで行くようになった。

寂しくなるどころか、自由に応援できるとより楽しく、遠方までクラブを追いかけ、SNSを通して仲間もできた。

ゴールひとつに嬉し涙も悔し涙も流す。空っぽで、異性に依存してばかりの人生が一転した。


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