教育困難校へ異世界転生して教員を辞めた話

突然ですが、高校教員を辞めました。

以下、自分のための備忘録を兼ねつつ、公開するにあたっては多少のフェイクをいれてありますので、物語、フィクションとしてお読みください。
でも、教員を目指している方がいらっしゃったら、今からでも進路を再考するきっかけとしていただければ幸いです。


教員へ転職

まず、僕の簡単な経歴から。

大学卒業後、大手電機メーカーで営業職をしていました。別に教育を志す気持ちはありませんでしたが、とりあえずと軽い気持ちで教員免許を取っていました。

海外勤務や出張もこなして順調に職位が上がっていき始めた頃。
突然、実家の父が倒れました。別に帰る義理はなかったと思いますが、そこは長男。よくわからない義務感で実家に帰ろうと思い立ったのが、そもそもの間違いでした。

僕の地元は東日本の地方都市です。勤めていた企業の生産拠点や関連子会社はいくつかありましたが、いずれも実家から通勤圏内ではありませんでした。高齢の母ひとりで古くて広い日本家屋に住まわせるのは忍びなく、仕方なく通勤圏内で仕事を探しました。そんな折に見つけたのが教員です。ちょうど採用試験の前でした。年齢制限も引っかかりません。

「受かったら実家に帰る」

その日は、そんな軽い気持ちで教員採用試験対策本を買って、三田線に乗って帰りました。

進学校へ

教採がトントン拍子で進み、最初に赴任したのは地域でも有数の進学校でした。進学校にはそこ特有の悩みがあるとは申しますが、よくよく振り返ってみると天国でした。生徒は日本語が通じるし、常識もある程度の価値観も共有できる。つまり、言葉を使ってコミュニケーションができ、約束を守ることができる人たちなわけです。こちらも前職同様、仕事として全力で教科指導や校務分掌にあたることができました。強いていうなら、保護者の学歴信仰が強いことと、生徒たちが授業中に試すような言動をしてくること。でも、それは教員として成長する糧にもなりますから、こちらも今にして思えば、私にとっては自分が日々の成長を実感できた勤務校でした。部活動も活発でしたが、それもやりがいに感じていました。

とにかくハードだけれど生徒と一緒に成長している感覚があって楽しい。そんな感じです。

教育困難校へ

次に転任したのは、いわゆる教育困難校。特に発達特性を持った生徒が多く、その殆どは高校どころか小学校の知識も怪しいレベルです。分数計算はできない、漢字も読めない。世界史の授業では東西南北が理解できない。ついでに指示は伝わらず約束も守れない。何を教えたら良いんでしょう。

ちなみに、僕が赴任して最初にとった電話は、隣のクラスの母親からの、次の様なものでした。

保護者「今日クラスで席替えがあるそうですが、仲の良い××さんと××さんとは席を近くしてほしくて。本人が苦手なグループとは最低机一つ空けるよう配慮してください」
わたし「なるほど。担任は出勤しておりませんので、そのように伝えておきますね。できれば本人から登校後に担任へ直接伝えるようにしていただけませんか」
保護者「あの娘、そんなことできるかしら……」
わたし「難しいですか。ちなみに担任は苦手な生徒たちは把握しているかご存知でしょうか」
保護者「そりゃ担任だから分かっていますわよ」
わたし「わかりました」

担任が出勤しました。さっそく上記のやり取りを伝えます。
担任「え、苦手なグループって誰?」
わたし「…………」

本人が登校したので担任が職員室に呼んで苦手なグループは誰かたずねます。が、本人は黙り込んだまま。そう、彼女は場面緘黙の診断が出ているのです。休み時間には大声でアイドルやアニメの話してるのにね。不思議。僕は医者じゃないので診断が出たら「へぇ、そうですか」と肯定するしかないのですが、診断名ってなんだか錦の御旗みたいだなーと思ったのは覚えています。僕も取ろうかしら。不定愁訴が関の山でしょうけれど。
結局、担任は苦手なグループの正体が判らないまま席替えを断行します。誰のことか判らないけれど彼女の近くに置いてはいけない。まるで会話のない人狼ゲーム、数字の出ないマインスイーパーです。

案の定、彼女は翌日から欠席が続きました。どうやら苦手なグループとやらが近くになったようです。保護者からは怒りの電話があったようで、本人は部屋に閉じこもってしまい次の席替えまで登校できない、とのことでした。

きっと、これを読まれた方の多くは、「そんなの高校に入学させるなよ」と思われることでしょう。こんなのが遵法意識や協調性、不条理耐性を身につけることもなく、いともたやすく「高卒」者として社会に飛び立って出してくるのです。恐怖以外の何者でもありません。でも、悲しいことに、これが日本の教育の現実です。こんなんでも高校生になれてしまうし卒業できてしまうのです。義務教育じゃないのに。

ついでに言うと、彼らは実に簡単に学校を休みます。それも無断で。理由を聞くと、「天気が良かったから」とか「時間割変更で数学が2時間あるから」なんてことを平気で伝えてきます。ある日なんて、「電車に乗ってたら知らない駅に着いてしまって、どうして良いかわからなかったから」と夕方になって登校してきた生徒がいました。お前のスマホ、一体何のためにあるんだ?

学校全体でこんな感じですから、通知表返却後に保護者から「なんでこんなに欠席が多いんだ!」なんてクレームにつながることも珍しくありません。子どもにじゃないですよ、教員にです。これがクレームなんて意味が分からないでしょう。私もわかりません。転任二年目、ある保護者から「息子を毎朝起こしに来い」と真顔で言われた日には目眩がしたのを覚えています。

これが教育困難校の実情~生徒編~です。


優秀な人ほど去っていく


さて、次は同僚にも目を向けてみましょう。
教育困難校の先生方はさぞかし大変だろう、とお思いではないでしょうか。そうです、大変なので、だいたいメンタルは次の2パターンに分類されます。

  • 俺が全力でコイツらを変えてやる……ッ!!

  • どうせ何やっても変わらないし異動までやり過ごすか

若手やなんかはだいたい前者です。僕もそうでした。最初は。でも徐々に後者になっていきます。ならないと精神が持たないから。でも稀に、ベテランでも前者みたいな人はいます。
赴任早々、僕に色々と教えてくれた家庭科教諭がそうでした。地域の家庭科部会みたいなところでも活躍している人で、生徒たちからも慕われていました。神様みたいな人でした。いえ、女性なので聖母みたいな、にしておきましょう。

ある日、彼女は調理実習時に包丁を振り回して遊んだ生徒を本気で叱った結果、保護者から返り討ちの対面クレームを受けました。彼女は次の年には早期退職で居なくなっていました。今は近くの私立高校で非常勤講師として悠々自適な教員ライフを送っているとのこと。よかったですね。

英語科の中堅教諭は勉強熱心で教科外のことにも積極的でした。折しもコロナ禍。私立高校に比べてICTの導入が遅れていた公立高校にも様々な設備が次々に入ってきました。彼もオンラインの勉強会や研修会へ熱心に参加し、気づけば本校に投入された数百台のChromebookを一人で管理する作業に明け暮れていました。勉強熱心であることに加え、情報科の免許も持っていたのが災いしたのです。パソコン室の数カ所しかないコンセントにChromebookを順番に繋いでは充電し管理する。彼はついにPC室から出てこなくなりました。

放課後のことです。この先生が顧問を務める部活動がPC室で行われていました。ある部員がChromebookのタフさを証明するとか言って、校舎3階から端末を落としました。運悪く、下にあった来校者の車に直撃。リアガラスが粉砕されました。先生が準備室へ移動したタイミングの出来事です。
この後、来校者の車の弁済で揉めました。普通、保護者と車を壊された側の当事者間で決着するはず。でもなぜか、英語の先生の監督不行き届きだとかなんとかで保護者が騒ぎ、彼も何割か弁済する羽目になったそうです。折しも別の私立高校にヘッドハンティングされていた彼は、年度途中で学校を去りました。

これを読んで、普通は下を見てから投げるよね?と思ったら負けです。彼らにそんな知能は期待できませんから。

最後に。僕とおなじ教科だった若手の先生は、妄言癖のある自クラスの生徒からターゲットにされ、あることないこと吹き込まれた保護者が月に一回のペースで怒鳴り込みに来るという被害を受けていました。僕たちはこれを『逆保護者会』と呼んでいましたが、あるとき何故か、両親に加え若い男性の計3人で来校したことがありました。

多様性という耳触りのよい教育の行き着く先

来校者帳簿から調べてみると、この男性は「多様性を認め合える教育」「誰もが取り残されない、一人ひとりに配慮される教育」をスローガンにトップ当選された地元の議員さんでした。夕方になってようやくPTA室から出てきた彼は、「彼女、席替えの結果が気に食わなかったらしくて。家で、先生にいじめられているから一番前の席にさせられたとか言って、いつもは両親が怒鳴り込んできて終わりなんだけれど、今回はそれを真に受けた議員が一緒に来ちゃってさ笑」と、困っちゃうぜ感をまといながら笑って話してくれました。それを受けて僕は少し安心したのですが、その数日後から彼は出勤しなくなりました。一ヶ月すこし後には代理教員が彼の机に座っていたのですから、あの場で一体どんな話し合いがなされたのか、今となっては知るよしもありません。

私は多様性を認め合える教育を否定するつもりはありません。でも、この言葉を聞くたびに思うのです。自分の以前いた会社にコイツらが入ってきたらどうなるんだろう、と。

あなたが会社の採用担当者だとして、

約束を守らない人
平気で学校を休む人
自分の思い通りにならないと不貞腐れる/怒る人
なんでも家庭や学校のせいにして生きている人

を雇います?でも、多様性を無条件で認め合う社会ってそういうことですよね。多様性を認めることで権利を侵害される人もいる。だからバランスが大切なはずです。
ちなみに勤務校では書字障がいを持つ生徒たちのために、定期試験では問題の拡大コピー可、医者の判断次第で端末での受験可、問題の読み上げ可でした。一体何のための特別支援学校なんでしょうね。

校内外でトラブルを起こす生徒たち

生徒たちが下校したら、いよいよ教員は会議に採点、教材開発に取り掛かります。

でも、忙しい日に限って架かってくるのが生徒や保護者からの電話です。曰く、定期券を落としました。娘に彼氏ができたらしいんだけれど誰だか知ってますか……etc

それ、学校関係あります?

月に数回程度あるのが、商業店舗や警察からの電話。これ以上は言いませんが。ちなみに私は学校の制服廃止賛成派です。だって、こういうトラブルを起こす生徒のほとんどは家庭教育に期待できませんもん。だから、店も警察も、制服を見て学校へ連絡してくるんです。気持ちは分かります。でもそうじゃない。

一番ひどかったのは、生徒がキセルで捕まったという話。

たしか130円くらいの初乗り乗車券を買って特急に乗車。着いた駅で「切符を落とした」と申告して往路はうまくいったものの、しっかりとマークされていたようで。地元のターミナル駅で同じことをして見事に捕まったというわけです。
そういえば学割申請しなかったな、あいつ。普通に乗ると往復15,000円くらいするはずなのに。そう思いながら駅へ向かいました。部屋に通されると、そこにいたのは不貞腐れたウチの生徒でした。話をきくと、親から運賃をもらったものの、いざ切符を買おうという段階でお金がもったいなくなったとのこと。「サービスを享受しておいて、もったいないとか関係なくない?」という言葉をぐっと呑み込んで保護者に電話します。

保護者「ああ、そうなんですか。今忙しいので家まで連れて帰ってくれます?(ガチャッ←通話を切る音)」

これ以上何を言っても無駄です。駅員に謝罪し、渋る犯罪者生徒に運賃を支払わせ、車で家まで送り届けます。が、家の前に着いても誰も出てきません。電気ついてるのに。当の生徒も不貞腐れたまま、何も言わずに車から降りて玄関に歩いて行ってしまいます。

ちなみに彼、一体なぜ電車に乗ったのかと言うと、大学の推薦入試を受けに行ったんです。

ここまでお読みになられて、どう思われました?
こんな学校なんて廃止してしまえ!存在している価値なんてない!と思われますか?
以前の私ならそうでした。しかし今は違います。こういう学校こそ必要なのです。たとえ義務教育でない高等学校であったとしても。

考えても見てください。ろくに家庭で教育も受けておらず、人間性もしっかり育ち切っていない幼稚なティーンエイジャー。属に非行少年と呼ばれる人たちはめっきり減りましたよね。みんな、こういう教育困難校と言われる高等学校に収容されているからです。そこでは、教員と事務員の多大なる精神的犠牲のもと、社会に迷惑をかけない、もはや後期中等教育でもなんでもない低レベルな教育もとい躾が行われているのです。でもそれがなければ彼らは中卒者としていきなり社会に出ていきます。もちろん多くの場合は継続的に働くなんて期待できません。となると行き着く先は生活保護です。皆さんの税金で彼らを賄うという結末です。嫌ですよね、それ。少なくとも僕は嫌です。

というわけで、こういう教育困難校こそが彼らにとっても社会にとっても最後の砦でもあるのです。

卒業後に

最も恐ろしいのは、そんな子たちでも平気で就職、進学できてしまうという今の日本社会の現状です。特に大学。本当にどうかと思いますよ。学ぶために進学するはずなのに、遊びたいから=勉強が嫌だから、という理由で進学を決めて、総合型選抜という名の募集活動で簡単に入学できてしまうわけですから。もちろん、私は総合型選抜に対してネガティブなイメージは持っていません。むしろどんどんやるべきだと思っています。単に先生の言うことを暗記してきた偏差値人間より、それに加えて課題解決を楽しむことができる人物を選抜するというものですから、こたえのない社会課題が山積している日本社会をこれから支える人物となるには不可欠の資質でしょう。そんな人間こそ、高等教育でより専門的な学びに浸かるべきです。ただし、しっかり選考をするのであれば、という条件付です。でも進学したあとは正直こっちの知ったこっちゃないんですよね。絡まれなければ。

でも、現実はそんなに優しくありません。彼らはあの手この手で絡んできます。卒業すると次にやってくる問題は、次の3つのいずれかのパターンです。

  • 進学先/就職先からのクレーム

そのまんまです。授業料の滞納や無断欠勤ならまだマシな方で、入社直後に社用車で事故を起こしてバックレた。他の学生の財布盗んだ。どれも犯罪やん、警察行ってくれ、と思いながら謝罪対応します。なんで自分が対応しているのか分からないまま対応します。強いていうなら、送り込んだ責任。
警察&保護者へ連絡するのが筋なんでない?なんて言った日には火に油ですから、ひたすら謝罪に徹します。僕は一度、近くの専門学校から烈火の如く怒ったババァ校長から直接お叱りを受けたことがあります。罪状は、自分が担任をしたクラスの卒業生が入学したものの成績不良のうえ退学罪。そんなん軽々に合格出したお宅の責任やん。
「もう二度と!お宅からは採らないから!!」
へぇ!かしこまり!誠に申し訳ございませんでした」

  • 学校照会書

卒業後、非行や犯罪をおこなうと家庭裁判所から(なぜか)高校に送られてくるやつです。教育困難校へお勤めの方でしたらご存知でしょう。正規の業務でもなく、そもそもこんなことやらかす生徒なんて在学中から可愛げなんてないヤツがほとんどなので、こちらも書くことなんてほとんどないのに、ひらすら在学中の所見を求められます。保護者がどんな感じだったか?知らんがな。こんなのを勤務(定時)終了後に夜な夜な職員室で書くわけです。俺、なんでこいつのためにこんなに時間使ってんの?と思ったら負けです。

ついでに、こちらは保護者から「学校のホームページに上がっているウチの子どもの写真は全部消せ!」という恫喝めいた連絡がセットになってくることも珍しくありません。情報担当の先生、マジでお疲れ様です。

  • 高校(教員個人)への粘着行為

これは僕が教員を辞めるに至った理由です。僕の場合は某巨大検索サイトが提供している××××××マップの口コミに実名であることないこと書かれました。
この手のケースはだいたい形式が決まっています。

まずはじめに、社会に適応する準備をしないまま卒業しています。ここはすごくボカしますが、一例として挙げるとこんな感じ。

高校3年生A「声優になります」
A父親「いいねー。お金は出せないけど頑張れ^^」
A母親「お願いですから先生の方から現実的な話をしてあげてください……」

もうこの時点で意味不明ですよね。なんで家庭で話しないの?
でもここで断るとA母がモンペ化することがあります。学校長に「この先生は子どもの進路の相談に乗ってくれないんです」なんて告げ口された日にはもう……なので呑むしかありません。いざ面談。

ぼくのかんがえた さいきょうの しんろ

教育困難校では進路面談が面談になりません。全てとはいいませんが、誇張抜きに8割方は面談ではなく「じぶんのゆめ」を語る発表会です。
発表会では生徒が実にイキイキすることが多いか全く喋らないのどちらかです。自分の将来の可能性を謎の万能感をもって考えているのは間違いないのですが、それを言語化するスキルを持っているかどうかの違いです。

生徒A「おれ、声には自信あるんですよ。彼女も俺の声に惚れてるし。だから、まぁまぁ通用すると思うんすよねー。とりあえず東京あたりに行って、オーディション受けようと思います」
A父親「お前ならできる!俺の声に似てるしなー。先生もそう思うでしょ?」
A母親「……(沈黙)」
わたし「そうですね。それも良いと思います。ですが生活基盤も必要ですよね。そのあたりはどうお考えでしょうか」
生徒A「……」
A父親「……」
A母親「……」

皆さんだったらどう返します?
少なくとも僕はこんなヤバいケースの対処法、教職課程で習っていない。

A父親「先生が息子(A)だったらどうしますか?」
わたし「(そもそもそんなアホな進路の決め方しねぇよと思いつつ)そうですね、まずは安心して夢にチャレンジできる環境を見つけようとしますかね」
A父親「具体的には?」
わたし「声優を目指すなら、専門学校のほかに養成所という選択もありますよね。それから毎日のトレーニングも欠かせません。だからアルバイトでも良いので、それらの支出からどの程度の収入が必要かを勘案して、生活シミュレーションをしてみるのがオススメです。空き時間でできるアルバイト先を見つけてみるとか」
A父親「はぁ……なるほど。じゃあ先生、それやっといてください!」
わたし「??????????」
生徒A「声を使う仕事だから、きつい肉体労働とか深夜の仕事は嫌だからね」

結局、この家庭は就職指導の先生と一緒に考え開拓した就職先を「気に入らない」と一蹴し、文字通り裸一貫で都内へ飛び出して立っていきました。

同時期に、漫画を書いたことないのに「皆が細胞に興味を持ってもらえる漫画を描く。だから漫画家になる!」と高校3年の秋口になって宣言した生徒もいました。なにかの作品に触発されたのでしょうね。ちなみに彼、理科は赤点でした。漫画も描いたことありません。否定するつもりはありませんが、そういうのが許されるのは小学生まで、せいぜい中学2年生までだと思うんですよね。18歳でそれはない。彼は結局、卒業後ニートになったと聞いていたのですが、最近になって何を思ったのか学校へ調査書の発行依頼が来ました。東京大学を受けるそうです。へー、東京大学ね、頑張って。
でも、共通テストには出願していませんでした。調査書を取りに来た彼に「東京大学を受験するには共通テストの受験も必要なんだよ」と教えてあげましたが、顔全体に「?」マークを浮かべていました。翌日、保護者から「なんでもっと早く教えてくれなかったんだ!!」と怒りのクレームを受けました。スマソ(・ω・`)

荒れる口コミ

生徒Aが卒業して半年ほど経った9月頃、彼に関する学校照会書が届きました。なにかやらかしたのでしょう。前後して、学校の口コミサイトにこんな投稿がされました。多分Aか漫画家志望のどちらかです。

七尾ってゆう教師に要注意。こいつに進路のことを相談したのにちゃんと対応してくれなかった。こいつがいる学校はレベルが下がるから行ってはいけない。

クソに群がるクソ

ついでにこの頃、学校で不審者事案がありました。
下校時間直前、校門前をウロウロする不審者がいると事務職員から連絡があり駆けつけると、そこにいたのは数年前の卒業生でした。在学中から女子生徒背の付きまといで度々問題行動を起こす生徒で、あるときは女子トイレに侵入し、個室に入って両隣で用を足す音に耳を傾けていました。これは、授業が始まっても戻ってこないという授業担当教員からの連絡で、手すきの教員で手分けして探した結果見つかったのですが、彼はもう中学生じゃありません。普通なら警察案件でしょ、これ?

でも、警察に通報することを提案したのは僕と若手女性教員の2人だけ。他の先生や管理職は「学校の評判が〜」とか「彼の特性もあるし、今後の人生のこともあるし〜」ともっともな教育論を展開し、結局彼は保護者召喚のうえ反省文にとどまりました。ねぇ、被害生徒の気持ちはどこにあるの、それ?

卒業してからも、彼からは彼女ができるたびに何故か僕宛に電話が架かってきました。よっぽど嬉しかったんでしょうね。電話口から、いかに今の彼女が可愛いかを少ない語彙で一生懸命に伝えようとする気持ちを汲み取りながら「前の彼女はどうなった」というツッコミをぐっと呑み込んでいました。

そういえば、僕が高校生くらいの頃、彼女ができるたびにキャリアメールのアドレスを変える友達がいました。今にして思うと、あれと同じ感覚だったんでしょうかね。

閑話休題。そんな彼がいきなり校門前でウロウロしているわけで、これって教員に会いに来たというよりは、在校生に話しかけようとしている、と考えるほうが自然じゃない?というわけでとりあえず彼に話しかけました。

わたし「おぉ、×××、久しぶり!どした?学校に用事か?」
「あっ……ぃぇ……そ、その………ぁ……っ」
誰何すると、彼は脱兎のごとく走り去っていきました。何しに来たんだ、あいつ。

その日の夜、口コミが追加されました。

「わたしも七尾とかいう教師に校門前で怒鳴られて追い返された。学校に近寄るとこいつに怒鳴られるから注意」

割れ窓理論ってありますよね。割れた窓ガラスを一枚放置すると、徐々に治安が悪化して、最終的にはすべての窓ガラスが割られてしまうっていうアレ。この学校の口コミ欄がまさにこんな感じになっていきました。最終的には、何故かウチの学校はもともと落ち着いた雰囲気の良い学校なのに、七尾が赴任して以降、荒れだして、生徒のレベルも下がり、そしてなぜか校内をバイクで走り回るやつが出始めたようです。そしてそのバイクは七尾がお気に入りの生徒に貸したことになっていました。意味不明です。でも、僕は管理職からこの一件で怒られました。「これをみた中学生がウチを選んでくれなかったらどうするんだ」とのこと。こちらもまた意味不明です。

七尾とかいう先生は生徒を差別します。気に入った生徒にはバイクを貸しているらしいです。常に怒っているので怖くて近寄れません。最近も学校でバイクを乗り回したやつがいたみたいです。この学校は超荒れてますから進路として考えちゃダメです!

特に↑これをなんとかしろと怒られたので、とりあえず無料法律相談に出かけました。そこで明らかに事実無根なものについて、削除申請を行うことになりました。なぜか自腹で。

期限を守らない巨大検索サイト××××××社、それでも許容する日本の裁判官

色々あって、裁判期日は11月8日に決まりました。でも直前、弁護士から電話がありました。
弁護士「七尾さん、実は先方が期日を延ばしてもらいたいと言ってきました」
わたし「そうなんですか。ちなみに弁護士さん、この場合はどう対応したら良いのです?」
弁護士「受け入れてもメリットがありません。というか、この会社はよく裁判期日を延ばそうとします」
わたし「そんなこと、許されるんです?」
弁護士「もちろん、中小の弁護士事務所がこんなことしたら裁判所から怒られますし、資料未提出ということで一方的に判決がくだされることもあります。でも、そこまでしっかり筋を通す裁判官は一握りですね。ほとんどの裁判官は、相手の資料が出揃わないと~と日和りますし、こちらも裁判官に睨まれたくはないので、総判断したら従うほうが得策です」
わたし「日本の司法もそんな感じなんですね」
弁護士「司法の世界も、現実はこんなもんですよ」

*ざっくりボカしてはありますが、概ねこんな感じです。

なるほど。これまで日本の司法は独立性を保っていて、公明正大なんだと授業をしていた僕が馬鹿みたいですね。もしこれをお読みの社会科、公民科の先生方、ぜひ日本の司法は属人的である以上、経済力になびくこともあると教えてあげてください。きれいな世界ばかり見せては、生きる力になりませんし、社会の矛盾を変える原動力にはなり得ませんからね!

日本の司法も資本主義である。中小の弁護士事務所が裁判期日の先延ばしを依頼しても認められないことが多いが、大手で外資の場合は裁判官の判断で許されることが多い。裁判官は神。

(ぼくのびぼうろくより抜粋)

結局、裁判はおよそ1ヶ月ズレ込みました。しかも、こちらは期限を守って先に提出しているのに、向こうはそれに被せるような内容の資料を提出しています。え、それアリなん?

結論からいうと、削除は認められませんでした。
ざっくりいうとこんな感じ。

「口コミは公的なサービスで、消費者の権利である。実名で書かれているからといって、それが即ち社会的な信用を毀損するものではない」

「そのようなネガティブな投稿には返信したら良い」

バカか。そこじゃねぇんだよ。毎回学校名を検索するときに自分のネガティブな事実無根の情報を目にしなきゃいけないこちらの気持ちを考えたことがあるのかって話だ。あと、生徒情報に触れるような返信できるわけないだろ。学校を居酒屋かなにかと勘違いしてんのか?実名で記載されて爆○イ化しているのが問題だっつってんだろ?

僕は弁護士という仕事は素晴らしいものだと思います。
でもこんなこと書かれたらイラッとしますよね。弁護士は恨まれる仕事、というのがなんとなく理解できた気がします。だって、僕が最終的に教員を辞めるきっかけになったのは先方が提出した「複数の書き込みがあるんだから、実際にそういうこと、してたんちゃう?(実際はもっと堅苦しい書き方ですよ☆)」という文面ですから。これを読んだ瞬間に自分のなかでなにかがプツリと切れた感覚がありました。

あー、こいつら、お勉強できるから授業中に立ち歩いて注意しても何故注意されたか理解できないクラスメイトなんて周りにいなかったんだろうなーとか、嫌な授業があると学校抜け出してコンビニで立ち読みする高校生がいるなんて知らないんだろうなーとか。で、そういうの相手にしている教員がこの文面を読んでどう思うかは考えないんだろうなぁーとか。

そんなことを考えていたら、市民社会の実現だとか社会的課題の解決に向けた資質や能力の育成だとか、どうでも良くなってきました。だってお勉強できる弁護士先生がこれですよ。もちろん仕事なのは分かってますが。急に冷めましたね。なんで僕、よくわかんない「教育」なんていうものに使命感感じて注力しちゃってたんだろう。もともと摩耗していたところに最後の一撃を打ち込まれた、という表現のほうが正しいかもしれません。

ちなみに僕と前後して、同じように教員辞めた友人がいます。彼は僕とは違う都道府県の高校教員でしたが、保護者から毎週メールで顧問を務める部活動で「なぜうちの子どもが部長じゃないんだ」と絡まれた挙げ句に、よくわからないローカルなゴシップ誌で叩かれたというか、保護者の意見が一方的に掲載されて精神的に参ってしまったのが原因です。

高校の同期に医者がいます。彼も開業医ですが転職を機に飲んだ際に、同じようにあることないことを書かれていると話してくれました。そういや医者だと口コミについて酷い裁判があったようですね。詳しくは触れませんが。

つまり僕たち、サンドバッグじゃん。

まとめ

  • 教員(や医者)は世間のサンドバッグである。誰も守ってくれない。

  • ことさら職業を強調される。それもネガティブなトピックに限って。

  • 教員は究極のサービス業である。お客様は生徒から保護者、外部の出入り業者まで多岐にわたり、そしてビジネスマナーが通じるとは限らない。日本語が通じるとも限らない。

  • 楽にやり過ごしたかったら生徒たちに無関心でいること。でも教員としては楽しくない。

  • プライベートまで監視されると思ったほうが良い。

  • そして給与はそれに見合っていない。安い。

いろいろとネガティブなことばかり書きました。僕も教員以前の、ひとつの会社、ひとつの業界しか知りませんが、それでも断言できます。今の日本社会のしくみのなかで、教員には絶対になるべきではない。少なくとも、損得勘定でなるメリットは一切ない。

だって、先生って玩具じゃないですか。高校生の頃は「あいつマジうぜぇ」とか、今だったら写真撮って画像加工して皆で共有して楽しんだり、どこどこで●●先生見つけたって盗撮してSNSにあげたり。おとなになっても同じよな話題で盛り上がりますよね。まるで芸能人です。ついでに、保護者からはストレスのはけ口にされたり。でも少なくとも僕の勤務していた自治体では、芸能人ほどの収入は得られませんでした。勤務時間バグってるのに。

民間からのヘッドハンティング

そんなこんなで、教員を辞めようかと思っていた矢先、ちょうど裁判と前後して、コンサルティング会社から某企業のヘッドハンティングのお誘いが来ました。あまり詳しくは書けませんが、僕は教員になってから、様々な研究会や学会にも参加してきました。それが奏功したのかわかりませんが、少なくとも企業の人事の目にとまったわけです。教育とはまったく、とは言わないまでも、ほぼ無縁のところです。いずれにしても教員を辞めることができます。こんなに嬉しいことはありません!やったーーー!さらば教育奴隷

親身になって相談に乗ってくれて削除申請も対応してくれた弁護士からは投稿者の身元を開示する情報公開請求を提案されましたが、もはやお金もなく教員に後腐れのない僕には関係ありません。ありがとうございました!

口コミサービスへの提言

さて、散々文句を言いましたが、それだけでは建設的ではありません。僕が最も伝えたいのはここです。そろそろ本気で口コミサイト、特に地図サービスにリンクするものについては真剣に議論が必要だと感じます。ウチはプラットフォームを提供しているだけで投稿者の善意にまかせているんですよ、だから責任はありません。なんて理論は、法律の世界では通用するかもしれませんが、一般論として納得する人は少ないでしょう。

●ミュート機能の実装

そもそも自分のネガティブ評価を毎回見たいやつはいないでしょ。いわば、爆○イみたいな書き込みを事あるごとに見せられるに等しいわけです。特に僕の場合は、教育困難校で登下校の管理みたいなこともしていました。となると事あるごとにマップを開くわけです。その度に飛び込んでくる口コミ……ログイン機能があるんだからミュート機能くらいつけられるでしょ?

●口コミ表示期間についての検討

こんなのが20年30年と残ると思うと暗澹たる気持ちでした。いい加減、3年とか4年でまっさらになる機能を実装しません?だって高校だったら3年間で生徒も(一部の)教員も入れ替わるんですよ。本当に消費者のためを思うのであれば、この機能はマストだと思うんですよね。

●公的な性質を帯びる機関に口コミって必要?

誰が口コミのプラットフォーム作ってくれって頼んだよ?
これ、全国の公的機関や特殊公益法人の方だったら共有できるんじゃないでしょうか。最近の口コミサイト、民度が低すぎてマジで爆○イと同レベルです。そりゃ、教育困難校で市民としての教育なんてどだい無理なんですから。だから、

卒業した彼らは、嫌なことがあると上手く人生を送れていないのはこいつのせいだと母校に書き込みをし、そして行政サービスに不満があれば窓口の対応が差別的だと役所に書き込みをし、病院で自分の欲しい薬が処方されなければ医者が患者に寄り添っていないと書き込みをし、そして帰り道のコンビニで欲しい物がなければ品揃えが悪いと書き込みをし。だから店員の名札も実名表記じゃなくなってきているんですよね。××××××社さん、そのあたりのことちゃんと分かってます?

公的機関や医療機関のような専門性の高いところに商業店舗と同程度に口コミ機能が必要かどうかはよく議論されるべきです。なければ良いというものではありませんが、あれば良いというものでもないはずです。

でも、こんなクソどもを誰が社会に放った?という、そもそも論に立ち返るのであれば、それは僕たち教育困難校の教員一同です。全社会人の皆さん、誠に申し訳ございませんでした。

最後に

最近、探究活動なんかで実績をあげている工業高校や商業高校なんかの記事を目にするようになりました。とても素晴らしいことだと思います。だって彼らは机に向かってじっとできないんだから。課題を提示して身体を動かして解決に向かわせることができたら教員も楽だし、中には極稀にですが教科学習に目覚めるケースもあります。でも、進学校ならいざ知らず、教育困難校なんかが実績をあげるとアンチコメントに埋め尽くされ、教員の自己満足だの大人が子どもを利用しているだのと、やはり言いたい放題に書かれます。
他校の事例ですが、まとめサイトに転載されて好き勝手書かれているのを見たこともあります。多分書き込んでいるのは同じように低レベルな人たちなんだと思いますけれどね。ルサンチマンなんだろうなぁ。

さて、ここまで多少の誇張を混ぜて書きました。
「多」いと思うのか「少」ないと思うのかは皆さんにお任せします。

お前が辞めたら、こんなやばいヤツらの面倒を誰が見るんだって?

これからも私みたいに投げ出さず、精神を摩耗しながら使命感や義務感で指導に当たる先生方が面倒見てくれるんじゃないっすか?
今はまだ、そんな奇特な蹇蹇匪躬の精神を持った人たちが一定数いらっしゃるので、ここしばらくはこの問題が表出することはないでしょう。

でも、そんな彼らも次々に疲弊していって、最終的には誰も面倒見きれなくなったとき、ようやくこの問題がフォーカスされる気がします。もうその頃は「問題」とかじゃなく、教員のなり手不足とか家庭教育の崩壊とか、もしかしたら社会や教育の二極化とか、いろんなものとリンクして収集のつかないトピックになっていると思いますよ。僕はもう教員じゃないので知りませんけどね。文科省ガンバ!

ここまで僕のよくわかんない愚痴もどきを読んでくださった、マジでありがとうございます。
そして教員を目指している人がいたら、今からでも遅くありません。民間目指しましょう!

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