OFFICE TOSHIKI NASU/自分が求めている場所を作りたかった
沢山の人にとっての場所は必要ない
千葉の治療院で雑誌を読んでいた時のこと。
本の読める店としてfuzkueが紹介されていました。
場所は初台。
治療院から40分もあれば着きます。
ホームページを検索して先に書かれている【OurStory】をクリックしてみました。
「本の読めない街」をさまよう
その言葉の意味はなんだろ。
子どもの頃からあった何か分からない居心地の悪さ
それは誰にとっても普通のことだと思っていました。
人の声、明かりや光、そして臭い。
みんな騒がしさ、眩しさ、臭いが気になっているだろうと。
けれどそれらに対してイライラしたり、落ち着かなくなっているのは私だけでした。
だから幼少期は一人で遊ぶことが多く、
祖父母と一緒に畑にいっては一人で時間を過ごすことが多かったのを覚えています。
幼なじみが作るルール、不機嫌な表情、不穏な空気、突然怒る声が嫌だったのです。
一人の時間が楽しかったわけではありません。
ただ、1人でいることが楽だったのだと思います。
「本の読めない街」をさまよう・・・。
この言葉の意味が何となく分かるのは、読書しようと思って喫茶店に入ってもタバコの煙が気になったり、照明が気になったり、話し声が気になったり、店員さんの口調が気になったり。
そういったことが幾つかあると読書をやめて携帯電話に触れてしまいます。
とはいえ自宅で読書をと意気込んでも誘惑が多いもの。
結局、電車での読書が好きなのですが揺られて眠くなってしまうと物語が入ってこないということも。
いったいどこでなら本が読めるのか。
少なからず同じ感覚の人はいるのではないでしょうか?
蛍光灯の明かりが強くても、カーテン越しでも大丈夫な人
ある時、深川不動尊にいってコーヒーショップを探していたら整骨院から患者さんであろう人が出てきました。
後ろには白衣を着た先生がいて「ありがとうございました、お気をつけて!」と元気に声をかけています。
院内は元気なBGM。
カーテンは半開きで隣の人と顔を合わせていて。
真っ白い蛍光灯ライトは仰向けの時に顔を照らされています。
これまで整骨院で働いたこともありますが、
どうしてもこのような環境が自分には合いませんでした。
はじめに読書について書きましたが、
どんな環境でも読書を楽しめる人はいます。
だから、大きい音、話し声、臭いなども気にならず、カーテン越しであったり、蛍光灯で明るい治療院が大丈夫な人もいるでしょう。
けれど私にはこの感覚はないため、同じような感覚を持つ人が安心して行ける場所を作ろうと思ったのです。
自分が欲しいものだけを創る!
千葉の鍼灸院をはじめた頃、1人の女性に「トイレが狭い」と言われたことがありました。
この場所は駅から1分程度。
バス通りに面しているけれ静かな場所です。
しかし路面店ではありません。
1階に店舗を構えれば営業の方が来る可能性があります。
また、保険は使えるか、いつ休みか、これから診てもらえないか?
そういった対応で患者さんに迷惑をかけてしまう可能性もあります。
だから人の目に付かなくても、静かな場所が良いと思いマンションの1室に鍼灸院を構えました。
そのためトイレは店舗用ではありません。
住居用の大きさです。
治療室は完全個室を2部屋。
ベッドはイタリア製の高級品。
明かりは全て電球の暖色系。
BGMはリラックスできるように。
患者さん同士がバッティングしないように調整をして鍼灸で使う道具は国内トップメーカーを使用しています。
そしてリネン類はオーガニックコットンを使用。
治療着も完備して、毎日ヨモギ茶を煎じて出しています。
それでも1つのことが気になれば、
「場所が分かりづらい」
「トイレが狭い」
といったことを言われます。
完璧に近づくのは難しいものです。
ただ、10年間のこういった幾つかの経験をとおして
「自分が欲しいものだけを創る!」
という意識が芽生えました。
トイレを貸してくれない、駐車場のないコンビニは潰れる
この街のどこかでは今日もコンビニができて、整骨院ができて、歯科クリニックがしのぎを削っています。
AとBの違いはサンドイッチの美味しさ。
BとCの違いはアルコールを買う時に年齢確認されない。
CとAの違いはおしぼりを付けてくれる。
そこにトイレを貸してくれること、トイレがいつもキレイなこと、駐車場が有るとか無いとか。
1件のコンビニを創るために沢山のデータを参考にして、時代はこうだからと何百万もする新しい機械を導入させる。
それでも売れなければ経営者が苦しい思いをして店は潰れていく。
Aの整骨院はマッサージが上手。
Bの整骨院は鍼を無料でやってくれる。
Cの整骨院は漫画が読めてテレビも置いてある。
その差を埋めるために歯のホワイトニングを始めたり飴を置いたり、雑誌を置いたり。
どこも置いていない機械を取り入れたり。
でも、どこかで新しい機会が導入されれば人はそちらに流れます。
本質がどんどん遠ざかっていき、過剰なサービスや過剰な何かが今日も生まれるのです。
ビジネスの基本は人が欲しいものを作ることだと分かっている反面、この消耗され続ける社会に疑問を抱いています。
今日も彷徨う人がいる
これまで誰かが喜ぶためのデザインをしてきましたが、それは消耗されるものでした。
広告は人の目に触れるようにデザインされます。
いわゆるマスマーケティング(大量生産・大量販売・大量プロモーション)です。
デザイナーの仕事は、商品の販売、認知度向上、集客数の増加であり、彼らと話しをしていて気づいたことは大衆に向けてデザインしているということ。J-PopもK-Popも耳障りよく聴けるものがウケます。
しかし、だれもがポップスを聴くわけではありません。
鍼灸院もそう。
誰もが受けるものではないですし、実際のところ年間受療率は4%程度。
各専門の科、美容クリニック、整骨院と比べても受療率は低いものです。
どちらかといえば多くの人に支持されているものではありません。
鍼灸は不特定多数に向けた商品・サービスではなく、ニーズを満たすこのできない消費者からなる隙間が市場です。
鍼灸は効果があるのか
ずっと抱いていた感覚。
それは「鍼灸は効く!」という言葉の意味。
確かに鍼灸の効果は優れたものです。
しかし、その言葉の背景には西洋医学と同じ土俵で考えた時に誤差が生じます。
私は、効く人もいれば、効かない人もいると思うのです。
その理由は試験管の中で起きているわけではなく、試験管の外側で起きているから。けれど多くの人は西洋医学の恩恵に慣れてしまい1つの答えとして「効くか」「効かないか」しか気になりません。
西洋医学は病気を診るもの。
東洋医学は病人を診るもの。
西洋医学は抑えることが目的。
東洋医学は予防が目的。
西洋医学は即効性が特徴。
東洋医学は持続性が特徴。
医療のゴールが異なれば自ずと選択も変わります。
「鍼灸は効く!」から受けるのではなく、あくまでも選択の1つなのです。
自分が欲しい場所を作った理由
鍼灸はポップスではなくジャズです。
歌手の歌を聴くのではなく一緒に演奏すると言ったほうが近いでしょう。
だから、ただ受けることだけを求めている方は向いていません。
家族や友人、職場の同僚に勧められて受ける人がいますが、自分で調べて問い合わせして予約しないとうまくいきません。
病院のように「行けば治してくれる」「薬を飲めば治る」というものではないのです。ですから鍼灸や漢方が向いている人は自立している人です。
私はそういった方と真剣にセッションしたいと考えています。
多くの人を救うのではなく、本当に困っている人のために。
だから当日の予約はお断りしています。
目的をもって自分の体と向き合える方のための場であれば良いと思うから。
最後に
鍼灸院をコンビニ化させる必要はありません。
トイレが狭くても、路面店でなくても良いと思うのです。
なぜなら沢山の人に支持されるものではないから。
売上を追究するのであれば鍼灸院の経営というのは効率が良くありません。
ただ鍼灸が好きで、鍼灸や専門知識によってこれまでの医療によって救われなかった人の力になれたら、その思いだけでやっています。
静かに独りの時間を過ごしたい方。
自分の体に向き合いたい方。
瞑想したい方。
そんな方が喜んでくれたら十分です。
背伸びをせずに鍼と灸だけを仕事にしている理由は、浅草・田原町に昭和17年からあるパンのペリカンの本を読んでからでした。
取り扱うパンは2種類。
その理由は、巷にパン店が増え始めた時期に「周りのパン店と競争したくない。だから、品数を絞って味を深く追求し、ホテルやレストランなどに卸す高級パン専門にしよう」と考えたのがきっかけだったそうです。
私はこの本を読んでから1つの考えに行きつきました。
それは数多くある治療院のなかで同じ方向に向いて争うのではなく、共感してくれるものを1つもち、当たり前なことをしっかりやることが大切だと。
技術や専門性はセンスで埋めることができます。
しかし金額や立地は大手企業に負けてしまいます。
鍼灸院は整骨院と比べて保険診療がすぐに始めることができす、機械の導入も難しいものです。
しかし病院の3分診療とは異なり、時間をかけて丁寧に診ることはできます。
私が作った鍼灸院はスポーツ鍼灸でみなく、美容鍼でもありません。
台湾で学んだ専門性の高い鍼灸をベースに身体を休めてもらう環境を作ったことが唯一の特徴です。
ただ静かに、穏やかに、静かな空間で、心地よい施術、確かな技術をお約束します。
この場所は私が作りたかった場所だからです。
あなたが感じてきたことが、この場所で解決できたらそれは幸せなこと。
誰かにとっては不必要なものでも、あなたにとって必要なものであれば、この場所がある意味があると思います。
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