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沈黙の音の中で、私はサイボーグになろうと思った。

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沈黙の音の中で、私はサイボーグになろうと思った。#4

沈黙の音の中で、私はサイボーグになろうと思った。#4

手をあげたら保健室に~質問が聴こえないということ 正直に言うと、ここまでのことはほとんど私の記憶にはない。母からの伝聞がほとんどだった。

それに加えて、ひばり学園同園会が発行した『聾唖教育 聾教育 聴覚障害児教育66年 つれもていこら 加藤幸二物語』を読んで当時の答え合わせをした程度。これを編集したひばり学園の先輩が、のちの聾学校高等部の先輩でもあり電車通学も時々一緒だった。聴覚障害者の世界は、

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沈黙の音の中で、私はサイボーグになろうと思った。#3

沈黙の音の中で、私はサイボーグになろうと思った。#3

口話教育のさなかで~選択肢のない時代を生きること
 音に意味があるとか、会話をするといったこと自体を理解していない野生児にとって、人の話を聴くという姿勢は一切備わっていなかった。目に見えるものを追い、興味の赴くままに行動する私を取り押さえ、訓練を始めるのは相当な労力だった。

難聴幼児通園施設というのがまだ全国的にもほとんどなく、当時のひばり学園は実験的な雰囲気の中で運営されていた。そこには、明治

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沈黙の音の中で、私はサイボーグになろうと思った。#2

沈黙の音の中で、私はサイボーグになろうと思った。#2

野生児の叫び~手話・口話論争の歴史と言語訓練のはじまり
 医者から子供の障害を告げられた親がとる反応は、まちまちだと言われる。告知を受けてショックで泣き崩れる人。家に帰りつくまで、どうやって帰ったか覚えていない人。当時はまだ、障害者が受け入れられるには厳しい社会だったし、無理心中を図る親子も多かったと聞く。

 しかし、私の母はちょっと違っていた。それまでは、私をどう育てたらいいのか分からなくなっ

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沈黙の音の中で、私はサイボーグになろうと思った。#1

沈黙の音の中で、私はサイボーグになろうと思った。#1

カンの良さで発覚が遅れた先天性難聴
 横断歩道の白線が、青く点滅している。見知らぬ人が次から次へと、私の横を急ぎ足で通り過ぎた。ふうっと息を吐ききって、心を無にする。背筋を伸ばし、虚空を見つめた。ここは、渋谷スクランブル交差点。

 そびえ立つビルの壁面にかけられた大型スクリーンが、空の端で流れるように動いている。さまざまな人種、いろんな事情を抱えた人が集まる東京で、誰かが変わった格好で立っていて

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