見出し画像

【APD大規模調査実施中】小渕先生講演会参加録(前半のみ)

APD講演会

1月22日(土曜日)13時30分から、特定非営利活動法人 東京都中途失聴・難聴者協会主催の「2021年第5回コミュニケーション教室」として、
『聴こえているのにわからないAPD(聴覚情報処理障害)の理解と支援』と題して、国際医療福祉大学の小渕千絵先生の講演がありました。

小渕先生は、APD研究の一環としてAPDの診断を行われています。
国際医療福祉大学でAPDの評価や相談|APD(聴覚情報処理障害)当事者会 APS|note

内容としては、事前資料として提供されたスライド通りの進行でした。
私は前半終了後の休憩で寝落ちしてしまったので、前半部分を中心に要点をまとめていきます。

APDの特徴

まず、APDの紹介から始まり、共通する主訴を取り上げられていました。
それは以下の4点に集約されます。

  1. 耳のみでの指示理解困難

  2. 雑音の中で聞き取り困難

  3. 複数人との会話困難

  4. 耳のみで覚えるのが困難

これらの症状は1つの症状のみではなく、様々な聞き取りの状況で困難さを抱えているそうです。

APDに類似する原因

APDと主訴は似ているものの、原因が異なるものがあります。これらは、APDと別のものとして診断されます。

  1. 両耳軽度難聴 補聴器を装用しないが、軽度難聴がある

  2. 片耳難聴 片耳難聴がある

  3. Auditory Neuropathy 聴力に比して語音聴取能の低下(程度は様々)

  4. 隠れ難聴(Hidden Hearing Loss, HHL) 訴える内容はほぼ同じ。「聞こえているのに聞き取れない」 原因が全てAPD/LiDとは限らない

APDの定義に「難聴ではない」というものがあります。しかし、例えば片耳難聴については、病院が「片方聞こえてるから問題にい」と伝える場合があるそうです。しかし、雑音環境下が聞こえにくいシチュエーションとなることがあります。
片耳難聴のコミュニティサイトとして「きこいろ」というサイトがあるそうですので、ご覧下さい。

片耳難聴の場合はクロス補聴器などの情報保障が役に立つそうです。

また、複雑な検査が必要なものも存在します。Auditory neuropathyがそれに当たります。静かなところでの聞き取りが難しい症状で、複雑な検査を行ない、色んな評価を受けなければ分からないそうです。

隠れ難聴(HHL:hidden hearing loss)は、所謂イヤホン難聴や大音量を聞き続けた時に起こる難聴のことだそうです。
HHLとAPDの見分け方は、大きな音に触れた経験の有無を確認することでしか現在のところは区別できないそうです。

以上のように、主訴は同じでも原因は異なる場合があります。従って、まず分かっている障害がないか確認を行います。そこで該当がない場合にAPDを疑うこととなります。

LiDについて

聞こえているのに聞き取れない
この主訴に対し研究が進み、現在では過去のAPDの考え方は違うんじゃないか、という説が濃厚だそうです。

ASHA(2005)によれば「APDは中枢神経システムにおける聴覚情報処理の困難により、音源特定や聴覚識別能力のうち1つ以上の困難を示すもの」と定義されていました。
BSA(2018)によれば、APDは「発達性APD、獲得性APD、二次性APDという3つに分類できる」そうです。

しかし最近の研究により「聞こえているのに聞き取れない」症状は、本当に中枢神経システム、情報処理システムによる障害なのかという議論が起こっており、名称そのものにクエスチョンがついているそうです。

理由としては、「聴覚情報処理障害」という名称だと、「音が脳に到達するまでに問題があると判断されるため問題がある」からだそうです。

聞き取りという行為は、注意ワーキングメモリ実行機能などの様々な機能が含まれています。従って耳だけの問題で聞き取りが落ちる訳ではありません。認知障害(注意障害)でも聞き取りは下がることが確かめられています。

つまり、入口(耳)だけの問題ではないから聴覚情報処理障害という名前より、症状がそのものを表す聞き取り困難(LiD:listening diffaulteas)がよいのでは?と議論が行われており、現在整理中だそうです。

(正直この辺の議論は当事者としてはどうでもいいと思ってます。分析が進んだからといって新たな治療法が確立されるわけではないので。それよりも、聞き取りの困難さを解決するための支援や合理的配慮、環境調整などが進んで欲しいと思います)

ことばを理解する上でのモデル

ここは図があれば分かりやすいのですが、資料の取扱いについて確認が取れていないため言葉で説明します。
ことばを理解する上で人間は、以下の過程をこなしているそうです。

聴覚入力(外部からの音声)
聴覚情報処理(雑音と言葉を分ける、空間的手がかり、速さ、残響)
→複雑な刺激の分析
話し言葉の処理(音韻、単語レベルの処理)
→音韻論、音韻又は単語の識別
言語処理(統語的手がかり、意味的手がかり、韻律的手がかり、発話の長さ)
→理解

とても複雑ですよね。ここでのポイントは、ことばを理解する上で「注意・記憶」が全ての処理を支えていることです。

これだけ複雑な処理を行っているので、どこの処理で問題が起きているかはわかりません。認知のところ、言語処理のところ等様々です。

また、複数人での会話などに代表される複雑な聞き取りにおいては、上の処理に加え新たに3段階の処理が必要となります。即ち、

情報の処理→情報の保持→情報の削除
そしてこれらの段階全てに聞き取りと認知(注意記憶など)ワーキングメモリの問題が関わってきます。


聞き取るを支える5つの要素


以上を踏まえ、聞き取りを支える5つのポイントとして、注意・集中、記憶、知識、推測が挙げられるそうです。
知識は語彙力で補うことができるそうです。推測については、私の経験から会話のパターン化で補うことができると分かっています(しかしパターンから外れると全く対応ができなくなる上に、注意力集中力を要するため疲労度が高いのであまり多用はできません)

APD/LiDの背景要因

APD/LiDの背景要因は、認知的な偏り(注意やワーキングメモリの問題)があるそうです。音声情報は視覚情報と比べ、情報が消えやすい特徴があります。その特徴が聞き取り困難を引き起こしています。

認知的な偏りは以下の4つに分類されるそうです。

  1. 発達障害(認知の問題)▶聞こえだけが問題ではなく、コミュニケーション能力や視覚的な弱さも影響しているので、全員がAPD/LiDではないそうです。ほかの支援も必要とのことです。例えば視覚情報処理が苦手な方もいらっしゃいます。

  2. 睡眠障害▶聞くことへの集中が難しくなります。

  3. 心理的問題▶積極的に聞く姿勢になれない(生活や環境を聞くと、幼少期のいじめや虐待、孤独や人間関係の構築ができなかったなどの問題が見られます。これらを解決するとよくなることもあります)

  4. 言語環境(子ども特有)ー多言語に触れる中でどの言葉にもアセッションできない(例:中国に赴任した両親が子どもをアメリカンスクールに入れたため)▶学習言語生活言語を整えることで改善するそうです。

加えて本人の性格があります。悩みやすい人は症状が大きくなり、おおらかな人は問題が少なくなります。

(ただこの点について、私は疑問符がつきます。即ち、聞き取れてなくても上手くいく環境にいれば気にならないが、一言一句が大切な環境に身を置くと悩まざるを得ません。だから性格に原因を求めるのはどうかと個人的には思います)

前半最後は検査について触れて休憩に入りました。


講演会後半部分

寝てしまったのでわかりませんが、事前配布資料通りに進み、質疑応答が行われたみたいです。

事前配布資料を読むと、APD/LiDをどう支援していくかについて言及されているようです。トレーニングについても触れられていましたが、あまり効果は得られなさそうな風に書いてありました。

感想

ことばを理解する上で、複雑な処理を行っていることが明確に示され、人間は難しい処理を簡単にやってるんだなあと感心しました。
だからこそ、環境調整や合理的配慮で補う必要があると感じました。
そのために、まず社会に知ってもらう必要がありますし、研究の推進が不可欠だと思いました。

APD大規模アンケート調査について

現在、AMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)の公募研究として、大阪市立大学の阪本先生が、APD診断と支援のための手引きの作成を行われています。

その研究の一環として以下のリンクにあるように、大規模アンケート調査が行われています。
APD当事者へのアンケート調査ご協力のお願い|APD(聴覚情報処理障害)当事者会 APS|note

この研究には数百件ものアンケートの回答が必要です。
この長い記事をここまで読んでくれたあなた!ぜひ回答いただければ幸いです。

回答方式は、基本的には全て選択式で終えられますが、任意で記述可能な部分もあります。選択のみの場合だと5分程度で終えられます。
途中保存も可能なので、お気軽に覗いてみてください。

私たちの回答一つ一つが国としてのAPDの対応に影響してくるアンケートです。
ご協力いただければ、APDの一当事者として嬉しいです。
どうぞよろしくお願いいたします。