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影響力のつくりかた ~『インビジブル・インフルエンス 決断させる力』~

どんな本?

世界で最も高い評価を誇るビジネススクールの一つ、ペンシルベニア大学ウォートンスクールでマーケティングの教授を務めるジョーナ・バーガーの著作。著者が理系出身ということもあり、本書は様々な心理学の実験からのラーニングをうまくマーケティングへのヒントに落とし込んでおり、読みやすい。
人々が何かを決めるにあたり、いかに他者の影響を受けているかをわかりやすく教えてくれる。
300ページ以上あるが、ほとんどが実験内容についての話で非常にわかりやすく読める。結論だけ急ぎで知りたい人は、パラパラめくって太字の箇所の周辺を読むだけでもよいかもしれない。

どんな人に向いている?

マーケティングの中でも、
クリエイティブやPR、アクティベーションなど企画寄りの人におすすめ。
単純に人を説得するようなコミュニケーションでは、
もはや人はうごかないというのは共通認識だと思うが、
ではどうすれば動くのか?という問いに対してヒントを与えてくれる。
また、実際に行われた実験が多数掲載されており、
自分の主張に根拠を持たせたいときにもおすすめ。

学びはなに?

①人の行動は他者の行動からつくられる
「あなたの行動のほぼすべてが他者に影響されている」と言われると、「いや、自分の意志だ」と言いたくなるだろう。しかし、実際に我々は社会の影響を多分に受けて判断を下している。
例えば、子供の名前。
ある調査によれば、アメリカにおける子供の名前はその年大きな被害をもたらしたハリケーンの名前と同じ音になる傾向があるらしい。
例えば、カトリーナが上陸した年は"K"から始まる名前がランキングを占めた。"Katrina"そのものは、被害を想起させるため少なかったものの、その年耳にする回数の多かった単語に無意識に影響されることで影響を受けるらしい。
子供の名前ですら、影響を受けるのだから日々の行動などなおさらだ


②同調するか差別化するかは、アイデンティティとコミュニティ次第
人間には(仮に間違いだとわかっていても)他人に同調してしまう心理と、あえて他人と差別化したがる心理の両方があるという。同調するのは、自分のアイデンティティにかかわるもの、差別化するのはアイデンティティとかかわらないものに分かれるという。車で考えるとわかりやすい。
著者は、知り合いのある弁護士から「同僚がBMWばかり乗っている」という話を聞いた。しかし、その弁護士もBMWに乗っている。そのことを指摘すると、「みんなグレーに乗るけど僕はブルーだから違う」と言われたという。
つまり、その弁護士は恐らく弁護士をはじめとした比較的豊かな人々がBMWに乗っていることに影響され、自身も同じステータスを持っていることを示すためにBMWを選択した。一方で、個人の自由が保障された文化においては、人と違う選択をすることで自らの個性を示そうとする。その意識が、車の色の選択に現れるわけだ。

同調か差別化かどうかは、所属するコミュニティによっても変わるらしい。
弁護士コミュニティでは、みんなと違う色を選んだり高級車のカテゴリの中で人と違う車種を選ぶことが好まれる(みんながBMWに乗っているから、自分はベンツにしよう、などなど)。
一方で、肉体労働者のコミュニティにおいてはみんなと同じ色・車種にすることが歓迎されるのだという。例えば、消防士の中では、グレーのトヨタ・カムリに乗ることが良しとされているらしい。これは、消防士というコミュニティでは弁護士等のホワイトカラーと比べて団結力が重要であり、同調性が高いからだと結論付けている。
マーケティングに本書を応用する際は、ターゲットとコミュニティを明確にすることでより効果を増すだろう。


マーケターとしてどう思う?

マーケターには市場全体を見渡す力と個々の生活者を想像する力の両方が必要だ。この本は、一人ひとりの人間が何から影響を受け、どのように判断するかについて学ぶことができる。しかも、本書に記されていることは時代によって移り変わる流行やトレンドではなく、普遍的な人間の傾向だ。
そもそも経済学をはじめとして、近代の学問は人間が自ら独立して判断できる合理的な存在だという前提に立っている。マーケティングにもその側面がある。
だからこそ、「良さを伝えれば買ってもらえる」という神話が成り立ってしまう。しかし、人間は合理的な存在ではない。本当は必要ないものであっても、「みんなが買っているから」あるいは「みんなと違うから」という理由で判断を下したりする。
他者の情報を大量に目にするSNS時代だからこそ、
顧客の判断がどのように他者の影響を受けているか理解することは必須だろう。
あなたが担当する商材によって、「みんなが持っている!」を作るのか
「みんながまだ持っていない!」を作るのかは変わるだろうが、
ぜひ本書を読んで理解を深めることをお勧めする。



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