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【マーケティング読書録】みんなイノベーションを勘違いしてない?

「イノベーションとは技術革新だ!」
「日本発のイノベーションが起きないのは技術力が落ちてるからだ!」
そう思っているあなたにこそ読んでほしい本がある。

内田和成の『イノベーションの競争戦略』は、
「優れたイノベーターとは何か」という問いに答えてくれる良書だ。
著者は、BCGの代表を務めたのち、2022年まで早稲田大学で教鞭をとっていた人物で、過去にも『仮説思考』をはじめとした名著を出版している

本書の主張は、帯文にもある「発明家ではなくイノベーターになれ」という言葉に集約されている。
冒頭で記したように、我々は世の中を変えるようなイノベーションと革新的な技術を結びつけてしまいがちである。
しかし、振り返ってみるとわかるのだが
iPhoneやzoomやAmazonといったイノベーションは、
圧倒的な技術革新によって生まれたわけではない。
iPhoneに搭載されているウェブ接続の技術、タッチパネル、電話機能は元から存在していたものだ。
zoomなんて、コアとなる機能はskypeと同じである
Amazonも、ウェブ上で品物を買うというECの技術そのものを発明したわけではない。

著者の定義によると、イノベーションとは
「これまでにない価値の創造により、顧客の行動が変わる」ことである。
この、「顧客の行動が変わる」ことがなにより重要なのだ。
「すごい技術があるから行動が変わるんじゃないの???」
という意見もあるだろう。
確かに、著者も技術の重要性は当然認識している。
しかし、行動が変わるためには、
技術のほかに「社会構造」「心理変化」の要素が欠かせないというのが重要なポイントだ。

zoomで考えると、各要素は以下の通りになる。

社会構造:コロナウイルスによる物理的な接触の制限
心理変化:オンライン会議・オンライン飲み会への抵抗感の低減
技術革新:zoom独自の映像圧縮技術

「やっぱり技術革新が大事じゃん!」と思われたあなた、
そのとおりである。
しかし重要なのは、社会構造の変化と心理変化が起きなければ、
zoomの技術も今ほど重要にはならなかったという点だ。
非常に大量の人が同時にビデオ会話ソリューションを求める状況に陥らなければ、「多数の参加者がいても回線が落ちにくい圧縮技術」は
一部の限られたオンラインカンファレンスでしか有効性を認められなかっただろう。
その場合、zoomは大規模なカンファレンスでだけ見かけるニッチなツールとして終わっていたはずだ。

日本においてイノベーションが起きないのは、
社会構造と心理変化の把握、そしてそれらを踏まえた上での事業展開、マーケティングが足りていないからである。
逆に言えば、イノベーションを起こす上で圧倒的な技術革新や
革命的なアイデアは必須ではない。

イノベーションにおいて社会構造と心理変化の把握が重要だとすると、
マーケターの重要度はますます高まっていく。
まさに社会構造と心理変化の把握、そして行動変容のデザインが
マーケターの仕事だからだ。

これからのマーケティングコミュニケーションでは、
単なる差別化を狙うだけでなく、
根本的な行動変容を狙ってみるのも面白いかもしれない。

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