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自転車での小旅行

 雨が降っていた。自転車で出かけることにした。

 正確には、もともと今日、自転車で小旅行に行く予定だったのだ。それを今さら、変えたくないし、負けたくない、と思った。

 午後には晴れる、という予報を信じたが、午前中から出かけることにする。ある意味、日差しのことを考えなくてもよいかもしれない、と明るく受け止めた。

 ルートは地図で何度も確認した。ほぼ一直線でもあり、いくつかの曲がり道は名前を頭に入れて、その都度止まることにした。

 雨具を身につけて、自転車にまたがる。ペダルに力をこめると、旅が始まった。

 雨はそれほどの勢いはなかったが、やむ気配がなかった。風が弱いのはありがたいもので、道の状態がわからない以上、スピードも抑えようと考えていた。

 初めて行く道というものは、晴れた道路であっても怖いものであったが、雨の日だとなおさら怖さが増している。けれど、かえってそれが慎重さを生んでいたかもしれない。

 道中は思う以上にスムーズであった。確認していた通り、ほとんど一直線であったし、アップダウンはあるものの、迷う心配がなかった。

 もちろん、疲れは感じていた。上り坂に差し掛かるたびに足は重くなり、雨がそれを助長させる。しかし、

 自転車を漕いでいく中で感じていたものは、間違いなく心地よさであった。この雨の中、嫌気よりもそれが勝り、二時間も漕いでいるとさらに妙な心地よさが私を包みこみ、雨ではあったが晴れやかな気分だった。

 そうして、あと少しで目的地、というところで雨が上がり始めた。

 雲間から光が差し始め、龍が風を巻き起こすが如く雨雲が去っていく。そんなときに流れてくる音楽は人によって違うだろう。

 そうして、たどり着いた先に疲れはもうなくなっていた。晴れやかな空が疲れまで吹き飛ばしてしまったのかもしれない。

 そして、何より、何よりも感じていたものは、変な自信であった。

 そう、こんなに長い距離を走ったこともなかったし、迷うことなく辿り着けたことに、私はとても満足していた。

 そんな満足を感じながら見る景色に、おつかれさま、と声をかけられたような気さえ、したのであった。

いつも、ありがとうございます。 何か少しでも、感じるものがありましたら幸いです。