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誰も知らない

 こんなことをあなたに願うなんて、筋違いなのかもしれません。けれど、今、何かを託すとしたらあなたしかいない、ということを、私は感じてしまいました。

 もしかしたら、いや、もしかしなくても、はた迷惑な話しであることはわかっています。それでも、私の最期の願いとして、聞いてはくれませんか? だ、なんて……。
 聞いてほしい、って言いながら、すでに聞いてもらうしかないような状況にしてしまっているのは、ずるいことですよね。

 でも、それから先、私の願いを聞き入れてくれるかどうか、その行動、それ自体には選択権があります。

 放置していただいても構いません。

 なぜなら、私にはもう、選択肢がないのですから。

 そこまで縛ることは傲慢を通り越して、人ではなくなってしまう。そんなことは、したくありません。

 この先あなたがどんな行動を取ろうと、どんな選択をしようと、私がそれを恨むこともなければ、知ることさえできないことでしょう。

 なので、そこは、安心してください。安心できない? そういうことではない? たしかに、そうかもしれませんね。

 さて、前置きが長くなってしまいましたね。申し訳ないことでした。

 もしかしたら、この手紙を読む前に送られてきたものをご覧になっていたら、ある程度は察しがついているかもしれません。私があなたに託したいこと、それは、この手紙と一緒に送らせていただいたその箱を、ある人に届けてほしいのです。ううん、正確には、本人に会って渡してほしい。……もっと言うと、開いて中を見せた後に、それをどこか遠くへ投げ捨てたり、壊したりして、その人の手に渡らないようにしてほしい。

 なんでそんなことをしなくてはいけないのか。そもそもなんであなたなのか。いろんなことを、疑問に思っていることだと思います。それは当然のことですし、理由もわからずそんなことは……いや、理由がわかったとして、そんなことはできない、と思われているかもしれません。
 
 理由はとても私的なことで、平たく言えば、湿っぽい別れよりも、劇的な、拒絶されるような、そんなふうにしたかったから。そうして、何より……ううん、それは、やめておきます。

 こんなこと、あなたに託すのは、とても失礼なことだとは重々承知しております。もちろん、何もせず、ただこの手紙もその箱も捨ててしまうことになっても、私には何も言えません。

 もしも、もしも、可能であるならば、お願いしたく、存じます。

 え、私が、誰か、ですって。
 
 その答えはきっと、あなたの中にあるかもしれない、ないかもしれない。

 どうか、私のお願いを聞いてください。

 名も知らぬ、あなた。

いつも、ありがとうございます。 何か少しでも、感じるものがありましたら幸いです。