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ルパンでも盗めないあの星の名前は

「ちょうどそろそろなるきから電話来るかなって思ってたよ」

彼女は電話を出てそう言った

電話の向こうからは車が通り過ぎる音が聞こえたから外に出ているのだろう

「どうしたの?」と彼女は言い、僕が答えている間、ライターの火をつけるカチッという音が聞こえた

その日はいつもより多く酒を飲んだ日だった


得意・不得意と、向き・不向きは比例しないのかもしれない

その日の電話での気付きだ

一見すると腕を組み、難しい顔をして頭にはてなを浮かべてしまうほど矛盾しているかもしれないが、僕は僕にとってのある分野に於いては断じてそう言えるのだ

それはマッチングアプリである

詳しいことは省くが、僕は好きか嫌いから別としてマッチングアプリが得意である

僕のことをよく知る人はピカピカのグローブを手に綺麗なストレートを投げる野球少年に大人が優しく声をかけるように「センスあるよ」と言う

正直、自負している部分もある

というのも、同じくマッチングアプリを使う友人や知人の話を聞く限りでも「あれ、そんなに難しいことだっけか?」と、その人が苦悩する事についても僕は平然とやってのけることができる

具体的な数字は伏せるが、僕は世間一般に考えれば尋常ではないほどマッチングアプリを有効に使ってきた

しかし、その結果僕を待っていたのは
『得意ではあるが向いてはいない』ことだった

つまり、マッチングアプリを効率良く使い時間や欲求を上手く消化する技術はあるのだが
それは必ずしも自分にとって有益であるとは限らず、むしろ自分を傷付けてしまうこともあるのだ

事実、僕がマッチングアプリによって得た経験が良いものか悪いものか、それは引っ越す際に必要な物と不要な物を一つずつ箱に分別する様に分けてあった場合には、悪いもの箱が部屋を埋め尽くすぐらい貯まってしまう

もちろん、良いものもあるのだがそれは女性が近くの映画館に出かける際に必要最低限、気持ちだけと言わんばかりに持つ小さなショルダーバッグに納まるぐらいの量だ

とにかく僕はマッチングアプリに向いていなかったらしい

彼女も同様だった

そろそろ恋愛をして心をドキドキさせないといざという時に上手くできないかもしれないから、という理由で彼女はマッチングアプリに登録した

プールに入る前に冷たい水で心臓を慣らす(腰洗い槽というらしい)みたいなものだ

だが実際、誰とも会うこともなくその戦場から離脱したそうだ

これについてはかなり共感できたのだが、彼女は
「趣味が同じじゃない人とは話しててもつまらないし、逆に趣味が合う人には変に『どれぐらい好きか、その中でも特に何が好きか』を比べてしまって楽しめない」と言った

僕にも思い当たる節はいくつかあった

例えば、趣味が野球であったりキャンプであったりサウナであれば「良いよね〜」と盛り上がれるのであろうが、僕たちの趣味は『映画』や『読書』といった、広義的でありつつもジャンルや作品によって細部がある狭義的部分も兼ね備えているものであるからだ

もちろん、野球やサウナでもその中で好き嫌いが分かれる部分もあるかもしれないが
映画や本となるとそれは顕著にあらわれる

好きな作品、ジャンル、作家を聞いただけで「あ、この人ってこうなんだろうな」と安易に決めつけてしまうのだ

なんとも勝手な決断だが、性格上仕方の無いことなのだ

だからといって同じ雰囲気、趣味の人とは僕の経験上、恋人として長く付き合うことができない

なんとも面倒だ

僕たちが出した結論は「逆の性格(自分がインドアなら相手はアウトドア)の人との方が良い」ということだった

しかし、話は戻るがマッチングアプリとなれば「趣味が違う人と話すのはめんどい」となってしまうためアウトだ


知らない人と恋愛は無理だな

彼女は諦めたように笑ってそう言い、電話の向こうでタバコの煙を吐いた

そして「なるきはマッチングアプリに向いてないよ」と言った

得意であっても向いてはない、そんな才能はどこにやればいいのだろうか

シールを貼って玄関先に置いておくから、誰か持っていってくれないか

彼女とは1〜2月に1回ほど電話をしているが、一向に良い報告はどちらもまだ無い

元気を出すためにも、また、出会いのためにも他の新しい趣味を始めるといいかもね、という結論に至ったため、僕は今週から新たにあることをスタートすることに決めた

その事についてはまた書くことにしよう

ルパンを見ると元気になれるよと彼女は教えてくれた

代わりに大好きなラーメンズのコントを勧めた

銀河鉄道の夜のような夜

ずっと一緒にいような、と言える相手と出会えるのは、ミルクをこぼしたように夜空に白く光り輝く星に手が届くよりも、もっともっと先の、もっともっと遠い距離にあるのかもしれない

そういえば星なんてここ最近ずっと見ていないかもしれない

BUMP OF CHICKENの『プラネタリウム』という曲が大好きだ

一番眩しいあの星の名前は僕しか知らない

だって名付けてもいないんだから

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