見出し画像

”ミモザ”のような恋だった

ー10年前、地下鉄のホームを出た先で出会った。
彼はスケボーをしていた。
彼に声をかけられた。
「どこに住んでんの?」
私は彼に怖ががりもせずに答えた。
『ここを真っ直ぐ行ったマンションだよ。』
「俺は反対方向を真っ直ぐ行ったところ!」
私は専門学生、彼は大学生。同じ歳だった。
1時間ほどお互いのことを話した。
連絡先を交換して、私たちはそれぞれの家に帰った。
酔っ払ってたし、覚えていないだろう。
彼からその後連絡が来るなんて期待もしていなかった。
ただ・・・また会えたら。

それが私たちの始まりだった。

彼はすぐに返信をくれた。
何度も遊ぼうと誘ってくれた。

お酒を飲んでも、お互いの家に泊まっても、最初は体の関係すらなかった。
一緒にいる時間がふえて、なんでも彼に話すようになり、
どんどん惹かれていった。

『好きになっちゃった。』

彼と出会って1年後、私は彼に告白した。
人生で初めての告白。
何度も何度も伝えようとして勇気が出ない日々を過ごしてきた。
その想いをやっと伝えることができた。

私たちは初めてその日体を重ねた。

だけど彼の返事は、
「もうちょっと待ってて。」
だった。

行き場のない気持ちがふらふらしている。時間だけが過ぎた。
それからどれだけ会っても、話しても、返事はないまま。
何ヶ月も何も言わず待ったが、痺れをきらした私は彼に伝えた。

『あのさ、期待しちゃうから、ちゃんと振って欲しい。』
「ごめんね。」

私たちってこれだけの関係だったのかな。
私は色んなことにどん底になっていた自分を何度も助けてくれた彼が男性として、一人の人として好きだった。

これで終わってしまうのかな。
その後会うことはなかった。
彼は何も言わずに海外留学へ行ってしまった。
それを私が知ったのも偶然に彼のFacebookを見つけたから。
もう本当に彼と会うことはないんだ。
私はそう思い、前を向いた。
私を好きになってくれる人と付き合った。
でもどうしても彼のことを何度も思い出してしまう。
それほど彼との時間は居心地が良くて、安心した空間だったのだ。

それから3年が経った。

彼から連絡がきた。
私はすぐに会う約束をした。
確かめたかった。
何度も思い出した彼を私はまだ好きなのか。
久しぶりに体を重ねた。
その感情は幸せよりも、
寂しくて、辛くて、苦しいものだった。
彼のことは好きなのに、私はいつになっても彼のすぐそばまで行けない。
どれだけ彼に求めても、求められても距離を感じる。
片想いってこんなにも脆いものなんだと気づいた。

彼は私を特別な存在にすることはなかった。

私は社会人になり、彼は小さなお店の経営者になっていた。
お互いの仕事の話、夢の話、今後やりたいこと・・・・
昔と話すことも変わっていた。
辛いことが会ったときは、理由をつけてお互いを求めた。

そんな彼と離れたくない私は、彼の思い通りに都合の良い私でいることにした。

でもいつでも都合よくはいられない。もちろん、辛い。
だから、私を好きになってくれる人が現れたら、また付き合った。
その間彼とは連絡は取らなかった。

私が別れればまた連絡をとる。

また、同じ関係が続き10年が過ぎた。

いつも通り夜に居酒屋で呑んで、ホテルか私の家へ向かう。
「あれ、出会ったのいつだっけ?」
『もう、10年前だよ。』
「そっか〜。本当俺ら腐れ縁だな。お互いずっと独身だな。そろそろ相手探さないとな。」

私で良いじゃん。

ってあのとき伝えれば良かったのに、そんな自信もなかった。
10年も経って、まだ彼女にもなれていない私。

『私は絶対先に結婚する!!』
「俺はわかんねぇな〜。」

ーこの関係に終わりが来るときがついにきた。

その日は珍しく、昼間に会った。
「あのさ、俺、彼女できたんだ。」
『え・・・・・・・・・。』
「そう。自分でもびっくり。」
『・・・良かったじゃん!!おめでとう!!』
「1年前から好きでいてくれたんだって。」
『そっか〜!!それはすごく嬉しいね!!』

1年前?私はずっと好きだったのに。
・・・・・・なんて言うと、負けだな。
伝えれなかった自分が悪い。

「どんな人?え、かわいいじゃん!素敵な人なんだろうな〜。本当に良かったね!」

偽物の笑顔と褒め言葉を作るのにすごく必至だった。
何度も違う人を好きになって、付き合った自分のことを棚にあげちゃって。
彼に自分の気持ちに嘘をついてきたことに後悔をした。
あのときちゃんと伝えれれば、何か変わっていたのかな。
でも伝えれなかったから、ここまでずっと彼との関係が続いていたのかな。

ーミモザが咲く季節になった。
綺麗な黄色が素敵だと思い、花言葉を調べた。

”秘密の恋” ”感謝” ”友情”

彼氏じゃない彼との時間の話は、親友にもずっと話せなかった。
だけど、私の生活に彩を与えてくれた彼を嫌いにはなれない。
今でも感謝の気持ちでいっぱいだ。
私だけの秘密の恋だった。

ミモザの花言葉を知って、真っ先に彼の顔が浮かんだ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?